ACROSS海外レポート: NYC 2022冬
レポート
2022.02.03
ワールド|WORLD

ACROSS海外レポート: NYC 2022冬

「COVID19」をめぐるニューヨーカーの記録=フェーズ6:
繰り返されるローラーコースターも乗り越えた?!
DOVER STREET MARKETには入場制限のため行列も。

在ニューヨーク約20年のコンサルタントYoshiさんによるドキュメンタリーです。

2022年1月15日付けのAFPより「米国のニューヨークなどの主要都市でのCOVID19(新型コロナウイルス)の変異株『オミクロン株』による新規感染者数がピークを過ぎた、というニュースが流れてきた。日本は少し遅れて1月になり新規感染者数が急増。まん防(まん延防止等重点措置)が適用となり、2月中旬ごろがピークではないかと予測されており、多くの人で賑わっていた年末からすると一転。再びがらんとするかと思いきや、前回に比べるとまあまあ「通常運行」のようにも見える。
そんな「ウィズコロナのフェーズ」に入ったかのような「日常」の風景はひと足先にニューヨークが実証しているようでもある。
在ニューヨーク約20年のコンサルタントYoshiさんにその実態をレポートしてもらった。
*   *   *

・12月14日(写真):検査に並ぶ人たちが現れた。もちろんマスク着用。前日は年末を控えた週末の日常で、多くの人がマスクなしで賑わっていました。エリザベス・ストリート。

フェーズ6(?)のニューヨーク。
2021年12月半ばを境目に再び2020年に戻った?

2022年が明けて新年を迎えたニューヨークは、奇妙な既視感に囚われることになった。2022年だと思ったら2020年に戻ってしまったのだ。

 

それは突然やってきた。昨年12月半ばのある日、ニューヨーク市内のあちこちに新型コロナウィルスの検査に並ぶ人たちの列が現れた。昨年6月にマスクを外して完全再開を遂げたニューヨークでは長らく目にしなかった光景だが、その列はたちまち長くなり、友人や街ですれ違う人たちの誰もが検査と陽性結果のことを話している。オミクロン株の襲来である。

 

演者の感染が判明した時点で即座に対応することから、ブロードウェイのショーが開演直前に、場合によっては上演の途中で中止になることが相次いだ。従業員の多くが感染した小売店は一時的に店を閉め、アップル・ストアはオンラインで注文した商品の受取のみに変わった。同様の理由で地下鉄の本数も大きく減った。

 

マンハッタンに急増したポップアップの無料PCR施設。2021年夏に完全再開、感染者も減少したことで、市内の検査場も大きく減らしていたところにオミクロン株の流行。検査場も再び急ピッチで再投入されました。ユニオン・スクエア。

規模を縮小して開催されたカウントダウン。
音楽イベントでのメッセージも「再開」ではなく、「再来」だった?!

連日記録を更新し続ける感染者数を横目に​​、大晦日のタイムズ・スクエアでのカウントダウンは予定よりも観客数を大幅に減らして中止こそ回避したものの、街角に人影はまばらで、年越しに休業した店も少なくない。2年ぶりに家族が集まるはずだったクリスマスはまたズームの遠隔パーティーに戻ってしまった。
 

2021年の821日には再開を記念して、ブルース・スプリングスティーンやエルヴィス・コステロなど多くのスターを集めて盛大なコンサートがセントラル・パークで開催された。しかしコンサートはハリケーンの接近に伴う雷雨のためにバリー・マニロウの演奏途中で中止を余儀なくされ、6万人の観客にただちに会場を離れるよう避難勧告が出された。

市が演出したユーフォリックな再開ムードに文字通り冷や水を浴びせられたわけだが、今にして思えば、それは「再開」ではなく「再来」の予告編だったというわけなのかもしれない。


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・12月21日:ポップアップのワクチン接種会場のバス。接種が進んでいない地域にはワクチンの方からやって来る。いま接種しているのは子どもが中心。ブルックリンのサンセット・パーク。

パンデミックも足掛け3年目。
「新しいフェーズ」へと進むニューヨーカーたち。

市民生活とビジネスが混乱に陥るものの、市はロックダウンはしないと明言した。「もう2020年ではない」というのが市のメッセージだ。2020年のように政府がロックダウンを宣言し、ビジネスに対して営業停止を命じることはない。それでも市内の飲食店の多くは予防的に営業を自ら停止し、営業を続ける場合でも、店内での飲食を中止してデリバリーとテイクアウトのみの営業に切り替えた。

 

20203月に全館を一斉に閉じたニューヨーク公共図書館は、今回はそれぞれの分館のスタッフの健康状態や周辺地区の感染状況に応じて運営方法を決めている。一時的に閉館した分館もあるし、館内利用を続けている分館もある。ロウワー・イースト・サイドのメトログラフなど一部の映画館は、年末にかけての上映を自主的に中止した。スモール・ビジネスとっては再び厳しい冬の到来だが、経費を切り詰めてこのローラーコースターを乗り切るしかない。

確かに2022年は2020年とは違う。ビジネスは政府の指示を待つことはなく、それぞれが判断し、すぐさま営業形態を変更する。この二年間にピヴォットを重ねた結果の機動性でもある。そして足掛け3年目に入るパンデミックが、また新たなフェーズへと移行しようとしているのかもしれない。

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・1月15日:デリバリーを利用する人が増え、マンハッタンの路上には荷物が溢れるシーンが目立つようになった。ボンドストリート。
・1月15日:COVID19でこの1年に新たに約600万人の会員が加わったという高級ブランド品のリセールを手掛けるザ・リアルリアル(The RealReal)専用のロッカー。委託品をこのロッカーに入れておくだけで回収してくれる。利用者がいかに手軽に委託できるかに注力した結果、売り上げも増加。利用者の多いエリアにロッカー店舗を「出店」している。イースト・ヴィレッジ。

新市長就任でオフィスに従業員を戻そうというキャンペーンが展開。
「予測的取締まり」と「親ビジネス」とは?

2022年の訪れとともに新市長も誕生した。ニューヨークで二人目の黒人市長になるエリック・アダムスは、2014年からブルックリン区長を二期務めた後の市長就任になる。長年勤めたニューヨーク市警では、データをもとに犯罪を予測する「予測的取締り」 (*1) の導入に貢献したことで知られる。

 

2021年の市長選挙では、市内で犯罪が増加傾向にあることが元警部のアダムスに追い風になったが、予測的取締りをめぐる見方が分かれていること、さらには警察のあり方そのものの抜本的見直しを求める声が強まるなかで、アダムスの評価も分かれることになったが、民主党の予備選挙では市の元衛生局長を僅差で退けて市長の座に就いた (*2)。ビジネス拠点としてのニューヨークの信頼を取り戻す「親ビジネス」を宣言し、犯罪対策として取締りの強化を主張している。
 

新市長は就任直後から、従業員を1日も早くオフィスに戻すようにと企業を説得するのに忙しい。なにしろ202110月時点でマンハッタンのオフィスには28%しか人が戻っておらず、週5日オフィスに通う人はわずか8%。オフィスが多いミッドタウンでは人の往来が大きく落ち込んだままで、グランド・セントラル周辺では30%と市内でもひときわ高い空き店舗率が続く。



(*1) リアルタイムのデータと分析にもとづくオペレーション・マネジメントのプログラム。CompStatと呼ばれる。犯罪を事前に察知し、未然防止することが可能だと評価する向きと、データそのもののバイアスから特定の地区の住民や有色人種が取締りの的になりやすい(たとえばパトロールを強化した地区では結果的に報告される犯罪は増えることになりうる)ことを指摘する声もあり、テクノロジー万能主義への懸念と相まって意見が分かれている。


(*2) 民主党の牙城であるニューヨーク市では、民主党の予備選挙が実質的な市長選挙になることが多い。


・1月23日:感染者数が急速にピークアウト。エセックス・マーケットにもあっという間に人が戻ってきた。ここは市内でも数少ないパブリックのマーケットで、ロウワー・イースト・サイドの歴史から、移民を含むローカルのヴェンダーが多数出店しているのも特徴。また、2階は誰でも利用できるオープン・スペース。1階のベンダーで食事を買って、2階で食べる人も多い。本当に、あっという間に人が戻ってきた。

世界各国の都市に新しいリーダーが登場。
期待されるプログレッシブな政策

一夜にして自宅勤務に切り替わり、また観光客が消えたことで、オフィス、観光、ホスピタリティが集中するミッドタウンとロウワー・マンハッタンの中心地がひときわ大きな打撃を受けている。サプライチェーンなど経済効率性が高いモデルの脆弱さがパンデミックによって顕になったが、市が追求してきた経済重視の政策にも同様のことが起きている。

欧州では一足先にバルセロナをはじめ、パリ、ロンドンでもプログレッシヴな(進歩的)市長の下、成長や開発を何より優先する都市のあり方を脱却する取り組みが進んでいる。米国でもボストンで、ミシェル・ウーが36歳の女性市長として選出され、バスの無料化など住民の方を向いた社会サーヴィスの拡充を重視するガヴァナンスへと舵を切り始めた。しかし少なくともこれまでのところ、アダムスはそうした潮流と袂を連ねるつもりはないようだ。

・1月23日:ソーホーのブロードウェイ。すっかり賑わいが戻ってきた!

2022年2月、 ニューヨークは「フェーズ6」へ。

2022年の1月も後半に差し掛かると、市内の新規感染者数が急速に減少し始めた。通りは日毎にざわめきを取り戻し、飲食店は店内での営業を再開して、バーに人と話し声が再び戻ってきた。氷点下の気候でもソーホーの通りに買い物客の流れは絶えず、通りのあちこちに設置された新型コロナウィルスの検査場に人影はもうない。寄せては返すウイルスの波と同じように、この都市の足は著しく早い。あの見慣れた光景と喧騒が戻ってきた。

 

もう2020年ではない。ニューヨークに不変と言えるものがあるとすれば、それは変わり続けること。前を向いて進むのか、それともパンデミック前の2019年に戻るのか。新市長の下での動向を引き続きよく見てみる必要がある。
(文・写真:Yoshi)


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