隙間(すきま)
レポート
2022.07.20
カルチャー|CULTURE

隙間(すきま)

物々交換によって実現される、より自由な表現を目指す空間とは?

Hender Scheme(エンダースキーマ)が設けた、オルタナティブスペース。


「NEW CRAFT」をキーワードに、既成概念に揺さぶりをかけるような存在感のシューズ、または構造や素材遣いに独特なアイデアを盛り込んだレザープロダクトなどを展開しているHender Scheme(エンダースキーマ)。近年ではアディダスやノースフェイス、トッズといった著名ブランドとコラボレーションを行い、現代の日本を代表するブランドのひとつともいえるだろう。そんなエンダースキーマがこの6月、東京・蔵前にオープンしたのが、オルタナティブ・スペース「隙間(すきま)」だ。

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オープニングの企画は、彫刻家・増井岳人による展覧会「NOW」。実は縄文式土器の破片はいろいろな土地にたくさんあるらしく、それらを拾って集めて、作品にしたという作品群は、ひとつひとつ表情が愛おしい。

スペース最初の展示は、
縄文土器によってつくられた「顔」たち


「隙間」最初の企画として開催されたのは、彫刻家・増井岳人によるエキシビション「NOW」。縄文土器の破片を組み合わせてつくられた顔や胸像の連作「happying」や、新型コロナウイルス流行下で制作されたという手描きの「○」を無数に連ねた「1 day」シリーズなど、大小さまざまな作品が、古い倉庫の趣が残る空間に配置されていた。いわゆるホワイトキューブなギャラリーでの展示とは異なり、作品と空間(さらには周辺の環境)が巧妙に共鳴し、展覧会そのものがインスタレーション的な独自の体験、そして価値を生み出しているようにも感じられた(「NOW」の会期は6/4〜6/12)。

オルタナティブなスペース、「隙間(すきま)」。

ブランドの営みのなかで行き着いた、
非営利的なスペースと物々交換


「エンダースキーマとして、表現活動と経済活動のバランスをとる、その一環としての『隙間』です」。

このように語るのは、エンダースキーマのデザイナーである柏崎亮さん。この「隙間」はエンダースキーマのブランドの営みとして、非営利的な運営を行うという。アーティストなどのエキシビター(出展者)から金銭的なコミッションは受け取らず、その代わりの「価値」として作品が1点、「隙間」に提供される。 展覧会における展示作品の売り上げは全てエキシビターに渡され、スペースの使用に関わる費用などもエキシビターが支払うことはない。

「展覧会の運営やPRなどは、私たちが担当しています。その対価という意味も含めて、『隙間』では、出展される方から作品をひとつ、お譲りいただいています」。

スペースとエキシビターそれぞれが持っている価値を、貨幣を介することなく交換する、概念的な物々交換──「隙間」のプレスリリースには、そのように記述されている。この方法はまた、柏崎さんというクリエイターの立ち位置、そしてエンダースキーマというブランドのありようと、密接に関わっている。

「昨今ファッションとアートの関わりは、壁が低く、互いが親和性を感じるようになっています。だからこそ、例えばコラボレーションのプロダクトをコマーシャルに展開するような形とは違った、実質的かつ短期的な見返りを求めない、互いが蓄積したものを交わらせる新しい形での関わり方があるのではと考えました。ファッションもアートも、本来もう少し長いタームで考えたいところがあるのではないでしょうか。それが成立しうる場にしたかったんです」。

増井岳人さんは1979年神奈川県鎌倉市生まれ。主に陶器による彫刻の表現アプローチが新しい。今回の「NOW」展は時間という概念ををテーマに、言葉の外側にあるような純粋さ、自然さを含む、さまざまな彫刻や平面作品が披露された。

「文化において、容易く制限を設けることは
難しいと思っています」


さらに、今回の「隙間」のプロジェクトでは、先述した作品と展示の“物々交換”に関して明記されたコントラクト(契約書)がエキシビターと「隙間」の間で結ばれ、それがサイト上で公開されている。

 

「契約内容などはこれから運営を続けていく過程でブラッシュアップしていくところもあると思いますが、エキシビターと『隙間』の関係性をオープンにしたいという考えもあり、コントラクトは当初から公開しようと思っていました。これは僕自身、そしてエンダースキーマというブランドの姿勢でもあるのですが、ある事柄に関して、容易く制限を設けることは難しいと考えています。アイデアや著作物を保護することは重要ですが、あえてそこに制限を設けないことによるトレードオフとして、自由や広がりを獲得できたりする。この考えは『隙間』にも共通しています。その意味で、『隙間』のレギュレーションやコントラクトを、僕たち以外の第三者がオープンソース的に利用してもらっても構わないと思っています」。

 

こうした自由度への意識は、エキシビターが「隙間」で表現するものに関しても反映されている。エキシビターをブッキングするまでは「隙間」主導だが、展示内容や展示点数、スペースの使い方、さらには「隙間」に引き渡される作品に関してまで、「隙間」にイニシアチブはないという(もちろん常識的な共通認識はあるだろうが)。「アートギャラリーやミュージアムによるキュレーションベースの展示とは違った展示空間になるのではないかと思っています。このスペースを通してアーティストと交わることで、僕たちも新しい視点や気づきを経験的に享受できたらうれしいです」と柏崎さん。

エキシビターとの取り組みを重ねることで、
ブランドとしての新たな表現に

 

この「隙間」のあり方にも影響を与えたという増井岳人の展示の後は、ドイツを拠点に活動する画家・平松典己、書によるコンテンポラリーな作品を発表するアーティスト・新城大地郎、NYと東京を拠点に世界的に活躍する美術家・大山エンリコイサム、DDAA/DDAA LABを主宰する建築家・元木大輔といったエキシビターの展示が決まっている。中には今回初めてコンタクトしたケースもあったという。

 

「僕たちのようなブランドからのオファーで、かなり特殊な形で展示を行なってもらうことになるので、当初は断られるかもと思っていたのですが、皆さんエンダースキーマのことをご存知で、このスペースも気に入っていただけました」

 

 そして、今後の展望として、エキシビターと交換した作品がある程度集まった段階で、回顧展的なエキシビションを構想しているという。

 

「それを実現することが、エンダースキーマとしてまた新たな表現のひとつになるのではないか、そんな風に今は考えています」。

[取材/文:菅原幸裕(「LAST」編集長)/フリーランスエディター]

 


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