定点観測
report : 2023 | 
12 / 02

#513 | 実施日 : 2023 / 12 / 02 | 最高気温 : 13.1 | 最低気温 : 4.1 | 天候 : 晴後一時曇

2023年最後、12月回の定点観測・考察レポート

「レザー」テイストに込められたリュクス感覚が浮上した2023年冬。
機能性とファッション性のチューニングにより新しい「身体バランス」を獲得。

2023年は、COVID19のパンデミックを乗り越え、ようやく「新しい日常」が動き出したようだ。

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2023年12月2日の渋谷パルコ前の交差点から公園通り上に続く「青の洞窟」のイルミネーション。渋谷だけでなく、原宿、新宿ともに11月の通行料を約3割上回った。
11月にオープンした麻布台ヒルズをはじめ、渋谷公園通り上・NHKのエントランスに程近い「青の洞窟」、六本木ヒルズけやき坂、丸の内仲通り、そして定番の表参道などイルミネーションが華やかな2023年12月の東京。外国人観光客も含む多くの人で賑わい、ポストCOVID19を乗り越え、文字通り「新しい日常」へと動き始めました。

いつもの通り、担当編集部員でプレサーベイを行った結果、第513回めは「パデッドアウター」「レザータッチ(調)アウター」「レザータッチ(調)スクエアバッグ」の3つにフォーカスし、カメラマンや学生スタッフら合計23名で、観察・スナップ・インタビューを行いました。(文責:高野公三子)

*  *  *

(左から)光沢のあるオーバーサイズのパテッドアウターを潔くミニ丈ボトムス×素足×ハイトーンカラーヘアで若者らしい着こなしに(新宿)/遠くからも目を引いたおしゃれなカップルは台湾からの観光客。黒×ブルーデニム、オフホワイトとベーシックカラーのコーディネートもロエベのアナグラムのバギージーンズやルメールのゲーム キルティング スモール ショルダー バッグなどラグジュアリーブランドのアイテムが存在感をグレードアップしていた(渋谷)/赤×黒のチェッカー柄が目を引くジャケットはシュプリーム2019AWのアイテム。合わせるボトムスがスラックスというのが今年っぽい(原宿)/薄いイエローのダウンJKもちらほら見かけるが、このようなアイスブルーもまあまあ多い。グレー、オフホワイトの広義のグラデーションのようなカラーパレットが冬なのに春をイメージさせて心地いい(渋谷)。

カウントアイテム:男性・女性パデッドアウター
機能性とファッション性がチューニングされた、
新しい身体バランスの提案

まずはメインの「パデッドアウター」から。毎年11月末から12月は本格的にアウターが着用される時期。1年前は圧倒的に「白(含オフホワイト)」のアウター、さらに1年前はモッズコートが人気でしたが、今年は、機能性とファッション性が絶妙にチューニングされた「パデッド」のアウターを着用している人が増えているので注目することにしました。


「パデッド」の意味は、従来いは中綿の入ったアイテムをユニクロなどが商品名として使用し普及したようですが、「定点観測」では、英語のpadded/pad=詰めものという意味から、綿だけでなくダウンやフェザー、さらにハイテクなインサレーション素材なども全て含み、全体的にふわっと厚みが感じられる素材のアウターの総称として注目したいと思います。ちなみに、ZOZOなどのECサイトでは「puffy」という名称も使われているようです。

さて、そんな「パデッドアウター」の流行の系譜を振り返ってみましょう。「定点観測」のアーカイブでは、2022年2月のカウントアイテムで「中綿入りアウター」という名称で観察。渋谷、原宿、新宿の3地点平均男性が42%、女性が36.8%とかなり多く着用されていました。その多くは、比較的薄手で、コートがうっすら膨らんでいるというようなライトな感覚、キルティングなどをレイヤードする感覚、さらにダウンは動物愛護的に嫌だという人もおり、「中綿」が主流でした。しかし、2023年2月には、カラートレンドが白から一転して黑になり、アウターもわかりやすい「黑いダウンジャケッ ト」が大流行。カウントアイテムてとして「女性黑アウター、うち黑ダウンジャケット」として取り上げました。 

そして今冬は、中綿系のものも超ショート丈やボレロ調などデザインバリエーションが増え、また、ダウン・フェザーも暖かいという意味では確実でわかりやすく、どちらも着用されているようです。色も黑だけでなく、グレーやグレージュ、オフホワイトといったベーシックなものからイエローなどのカラフルなものや表面にツヤのある素材など多様になっているのが特徴。中でも、ものすごいボリュームのもの、極端にショート丈のもの、パーツなど、新しい身体のシルエット、身体感覚などはフューチャリスティック(未来っぽい)な提案として来年以降も注目されるクリエーションといえそうです。
 
実際に「パデッドアウター」を着用していた方のインタビューを何名かピックアップして以下に紹介します。
 
・上野パルコヤでセールになっていたので購入していたパデッドアウターを着用していたデジタルクリエーター(29歳)

・実は、渋谷と大宮に3店舗も展開する有名ヘアサロン「REDEAL」のオーナーだった方(29歳)にもインタビュー。パデッドアウターはモンクレーのものでした。

・15万円で購入したポストアーカイブファクションのパデッドアウターを着用していた全身オールブラックのIT系会社員(26歳)。

・「たまたま入った古着屋で一目惚れして買いました。短い丈でスタイルが良く見えるのと、とても暖かいのが気に入りました」とアンブッシュのパデッドアウターを着ていた大学生(21歳)。
https://www.web-across.com/observe/p7l75600000ask04.html

*各地点の「パデッドアウター」のトップページはこちら。
https://www.web-across.com/observe/p7l75600000asgc7.html

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(左から)「マネスキンのライブに行くのでロックな感じにしたかった」とお母さんの26年前のレザーコートを借りて着ていた高校生(新宿)/オーバーサイズのジャケットをタートルネックやローファーなどクラシカルなアイテムと合わせた上品な着こなし。10〜20代にはショート丈も多いが、20代後半以降にはお尻が隠れるくらいのミドル丈が人気(新宿)/2020年から定点観測でも度々取り上げているレザーアウター。それまで定番だったライダースだけでなくテーラードジャケットやロングコート、ベストなど、デザインが多様になった(原宿)/主張あるファッションでストリートでも目を引くモードな人にも出会えるのが渋谷地点の特徴。こちらはおそらく本革。ほんの数年前はSDGs、サステナブルといった論調から本革はNGでヴィーガンレザーへ、というムードが主流だったが、今シーズンは本革こそエコという揺り戻しのタームに(渋谷)。

ズームアップアイテム①: レザータッチアウター
ヴィンテージファッションのブームを経て、経年変化を楽しむリアルレザーもフェイク/ヴィーガンレザーもフラットに。

1つ目のズームアップアイテムはこちら。今シーズンのアウターは圧倒的に黒が多いなか、そのバリエーションとして、表面にツヤ感が感じられるレザー(本革)レザータッチ(フェイクレザー・合皮)のものも増えているのでフォーカスすることにしました。

デザインは、定番のライダースJKやそれをデザインモチーフとしたライダース風のブルゾンが増加。ただし、シルエットは身幅が広く、袖幅もゆったりとしていて、内側にボアが施されているなど、80s後半っぽい高級感、リッチ、ゴージャスな雰囲気も感じられます。

「定点観測」のアーカイブを振り返ると、「レザー」という素材に関しては、直近では2023年8月「レザーサンダル」2022年11月「レザーアウター」と題して取り上げています。当時はヴィンテージファッションが大人気。インタビューでは、古着店で購入したものや、先輩からもらったもの、祖父や父からの譲り受けたものという人も少なくなく、一方SDGsという観点から、ヴィーガンレザーを意識的に選択するという人も見られました。

そして、1年を経た2023年12月のレザータッチアウターは、ショート丈のブルゾンが多いなか、ロング丈のコートやテーラードジャケットが登場しているのが新鮮。ロエベ(LOEWE)やアクネスタジオ(Acne Studio)厚手のモヘア調のマフラーをアクセントに、80sのスタアのようなゴージャスでインパクトのあるスタイルも散見されました。

ポイントは、数年前の「レザー=悪」ではなく、ヴィンテージブームを経て、「所有」することが経年変化・エイジングを楽しむ、手入れすることでモノとしっかり向き合う、または再びオークション等でリリースすることで「所有しない=循環」させるといった感覚が結果的にはエコなのではないか、という感覚へと人々の意識が変化しつつあることでしょう。ちなみに、次回からのロンドンファッションウィークでは、ファー(本毛皮)は禁止となりました。

*以下に、レザータッチアウターを着用していた方へのインタビューの中から何名かをピックアップしました。

・『NANA』みたいなごつめな一癖あるデザインに出会って、買うしかない!とZARAで購入していた会社員(24歳)。
 
・国内外のレーベルで企画・生産を担当してきたデザイナーによって2020年秋冬よりスタートしたレザーレーベル「CCU」(CCU https://ccu-leather.com/)のレザージャケットを着ていたIT系会社員(24歳)。

・「これからマネスキンのライブに行くのでロックな感じにしたかったので」とお母さんの26年前のレザーコートを借りて着ていた高校生(18歳)。

・「レザージャケットはイギリスの軍モノをサンプリングしたMK4で、足元にはチェルシーブーツを合わせました」とユーズとオンラインで購入していた会社員(30歳)。
 
*渋谷、原宿、新宿の「レザータッチアウター」のトップページはこちら。
https://www.web-across.com/observe/p7l75600000asgg8.html

*  *  *

(写真左から)コンパクトでミニマルなフォルムと大きなゴールドのバックル&チェーンが特徴的なこちらはマウジーのミニバッグ。ワンポイントに加えることで重量感のあるファッションも軽快な印象(新宿)/ビビッドなブルーとウーブンレザーが目を引くハンドバッグはコールハーンのもの。カジュアルな装いをバッグのきちんと感で格上げしていた(新宿)/UGGは数年前より大ヒット中のTelfarとコラボ。バッグや靴などが全身の差し色になったコーディネートがじわじわ増えている(渋谷)/「暗めの色コーデにワンポイントで赤を入れました」というコーチの赤いミニバッグの女性(新宿)。

ズームアップ・アイテム②: レザータッチ・スクエアバッグ
アクセサリー感覚として暗めの着こなしのアクセントに。
男女いっしょの流行としても注目。

2つ目のズームアップアイテムはバッグです。前回のシルバーアイテムと同様。こちらもずっと気になっていたけど、定点観測のテーマとして取り上げるのには定義化しにくく、タイミングが掴めなかったのですが、今月改めてフォーカスしたいデザインを名称化。取り上げることにしました。

「スクエアバッグ」の定義としては、サイズはA5がマックスくらいで、マチ(幅)が最低でも3センチはあり、タテxヨコxマチ(は 幅)と四角っぽい形をしたバッグ。素材は表面がレザータッチ(調)のもの。色は問わず、斜めがけや肩掛け、まはた手に持つスタイルとします。お弁当箱のような形、ギャルソンの定番バッグようなやや台形のもの、急増するシャネルのマトラッセやセリーヌのミニクロード、名のベルトバッグ、やや変形となりますが、ロエベのパズルバッグ、ステラマッカートニーのロゴカメラバッグなど、立体的なものとしました。

今回の「レザータッチのバッグ」の流行を、「定点観測」のアーカイブから振り返ると、2020年1月の「ミニバッグ」2021年9月の「男性ミニバッグ」、そして、2021年12月にカウントアイテムとして取り上げた「レザー・ミニバッグ」というように、最初はハイブランドのお財布のような小さなバッグのアクセサリー感覚、リュクスなハンドルバッグなどに端を発して、徐々に多様になっている系譜がわかります。しかも、その流行が男性にも波及し、同じような流行を享受しているという点もポイントです。

ジャックムス(Jacquemus)やボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)、ロエベ(LOEWE)、ディーゼル(DIESEL)など、それぞれのブランドらしいデザインやディテール、ブランドロゴがアクセントになっているなど、着こなしをワンランクアップするような80sまたは00sの「ブランド消費」が盛り上がったころの志向性と重なります。

しかし、時代はファストファッションに加えD2Cブランド全盛の2023年。SHEINやTemu、JISTORYなど、ポストZARA、ポストdholic、ポストGUなど、韓国・中国系ファストファッション、D2Cブランドが多数登場しており、今回も知らないブランドを多数インタビューから聞くことができました。

色も赤やグリーン、イエローなどまさに着こなしのアクセントとして、重たくなりがちな冬の装いにワンポイント華やかなムードをプラスする、そんな前向きなストリートファッションが感じらる年末でした。

*インタビューからいくつかを以下にご紹介します。

・デンマーク・コペンハーゲンのブランド「ヘリオット・エミル(Heliot Emil)」のミニレザーバッグを持っていたフリーランスのデザイナー(27歳)。

・「このところ暗い色の服が多くて飽きてきたのでワンポイントに」と入間のアウトレットモールで購入したコーチの赤いレザーミニバッグを、持っていた大学生(21歳)。

・キディランドでママに買ってもらったキティのミニバッグがかわいかった女の子。バッグの中にはたまごっちとみまもるくんが入っているのだそう。
 
*渋谷、原宿、新宿の「レザータッチ・スクエアバッグ」のトップページはこちら。
https://www.web-across.com/observe/p7l75600000asgk3.html
 


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