とある金曜の夜。残業を終え、大衆的なタイレストラン「チャオタイ」で遅めの夕食を済ませて自転車で帰宅する帰路でのこと。道ばたで妙なモノを見つけた。
いつも通り神泉の交差点から旧山手通りに入り、深夜になると混雑する「デニーズ」を過ぎ、マレーシア大使館を越え、その数件先の今春にオープンした和風創作料理「The みます屋」を越えたあたり。ちょうど右手に「ゼロファーストデザイン」や「La Maison d'Epice」「モンスーンカフェ」「Restaurant誤時」を望む場所に停められたスクーターの座席の上に、真っ黒く平ベったい石ころが「置かれて」いるのである。
自転車を停め、思わずその石ころを手に取ってみると、冷たくしっとりと掌に納まりよく、なんらかの顔料で真っ黒く塗られた上に、白で連鎖模様が描かれているものであることがわかった。
「なんだこりゃ?」
そう思いつつも、再び自転車に乗り、「西郷橋」を渡り、「バプテスト教会」を過ぎると、先日、建築家の馬場さんのインタビューで訪れたレゾナンスのオフィスの入っている「代官山フォーラムビル」の前に行きついたところでまたひとつ。今度は街路樹のフレームの上にぽつんとバランスよく「乗せられて」いた。「カフェ・シンポジオン」が入っているビルの前である。
そこから先は、雑木林化した「遊休地」。老朽化した門柱には大きな文字で「PRIVATE」と書かれており、木々のざわめく音が闇の中から沸き立ち、ちょっと深夜は怖い。ということで、いつも通り、横断歩道を渡り、道路の反対側へと移動すると、つい先日オープンしたアバハウスのインテリアショップ「コレックス」がある。
着工したての「産能大学のサテライト校」の工事現場を過ぎると、「エジプトアラブ共和国大使館」、そして既に閉店時間を過ぎた「カフェミケランジェロ」の前で、またひとつ見つけた。こちらは駐車用のチケットの販売機の上に「乗っかって」いた。
「わぁ、またあった!」
その奇妙なモノは、「デンマーク大使館」を過ぎ、向こう側に「ハリウッドランチマーケット」を望む「ヒルサイドテラス」のメインエントランスの前にある電話ボックスの中にも「佇んで」おり、敷地内の球形の石のオブジェの上にもお行儀よく「置かれて」いたかと思うと、またまた歩道に停められたスクーターの座面の上にもあり、さらに「デプト」前にある、深夜は無人となる「交番」の前のガードレールの影にも!!
よくよく見ると、幾何学模様のモチーフは同じだが、ひとつひとつの模様は違う。明らかに手描きだ。グラフィティアート? インスタレーション? とっさにビデオカメラかなにが設置されていないか周囲を確認したが、やはりなかった。2つの連鎖がくっついては離れる、なんだか染色体のように見えなくもない。しっとりと夜露に濡れたその石ころは妙に掌にぺっとりと馴染んだ。
「!」
思わず、最近TVで予告が流れている映画『sign』を思い出し、ちょっと背筋が寒くなった。ミステリーサークル? いやいや、サークル状にはなっていない。既に放送終了になったNHKの『ロズウェル』も思い出した。
信号が青になり、槍が先の交差点を駒沢通りに入ると、その奇妙なモノはすっかり姿を消した。
帰宅後、インターネットで、デザイン系やアート系、展覧会などのサイトをしつこくチェックした。が、それらしきモノに関するインフォメーションは一切見つからなかった。
翌日の土曜の昼。その「奇妙なインスタレーション」は終了していた。唯一、交番前のガードレールの影に隠れた1つの石ころを残して。
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STREET ART @旧山手通り
2002.10.20
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