JR中央線の三鷹~立川駅間で進行中の連続立体交差化事業。新たに約9km・全約7万平方メートルの高架下が出現し、駅と沿線の風景が大きく変わりつつあるこの「JR中央線のミドルゾーン」エリアで行われている、駅と地域住民をつなぐ新しいコミュニティづくりの試みが「ののわプロジェクト」である。母体となるのは株式会社JR中央ラインモール。2012年9月にショッピングセンター「nonowa西国分寺」を西国分寺駅の駅構内に開業、2013年5月29日には「nonowa武蔵境」を中央線高架下にオープンした。
「nonowa西国分寺駅」は、ホーム上や駅構内に展開するコンセプト型の駅ナカ商業施設で、約730平方メートルの店舗面積に20のテナントが出店している。“ウエスタン・ジャンクション”というコンセプトのもと、ショップのファサードデザインや看板、照明、POPなどをウエスタンイメージで統一している。駅構内の商業施設は安全性確保の必要から得てして機能的、画一的なデザインにならざるを得ないものだが、導線から離れたところに増築棟を設け、噴水の広場にカフェや書店を配置、居心地のいい空間を作り出している。
「はらロール」「一真菴」「多奈加亭 FARMHOUSE」など中央線沿線の人気ショップや、地元の朝採れ野菜を販売する「にしこくマルシェ しゅんかしゅんか」など、地域の名産品や地元ブランドを強く打ち出しているのも特徴だ。本好きに評価の高い地元書店「オリオン書房」も出店している。
一方、武蔵境駅の「nonowa武蔵境」では、駅西側に「nonowa口」を新設し、そこにデニッシュバーをオープン。そして道路を挟んだ高架下に高品質スーパーマーケット「クイーンズ伊勢丹」を置くことで、駅の南北を結ぶ人の流れを生み出そうとしている。
「ののわ」は単なる商業施設のブランドネームではない。「ののわ」とは「むさしののわ」であり、「わ」には環/輪/和といった意味が重層的に込められている。駅とその周辺施設の運営に留まらず、地域住民に向けたエリアマガジンの発行、地域連携イベントを同時に展開し、新しいコミュニティづくりを目指している。
情報発信のメディアとなるエリアマガジン「ののわ」は2012年11月に創刊。JR中央線・三鷹~立川間の8駅構内に専用スタンドを設置し、駅のカウンターなどでも無料配布されている。コンセプトは「東京の真ん中で、これからのライフスタイルを考える」。誌面と連動するコミュニティウェブサイトを開設し、この2つのメディアで情報発信を行いながら、沿線の地域住民が参加するイベント/ワークショップを展開している。
フリーペーパー「ののわ」の編集やワークショップの企画・運営などには「東京にしがわ大学」「東京ウェッサイ」など、エリアで展開するさまざまなプロジェクトに関わるメンバーが、チームで関わっている。武蔵野エリア在住のクリエイターやショップ経営者などが講師を務め、講座やワークショップ、親睦ミーティングなど地域の人たちが参加する形で多彩な企画が行われている。このエリアに住むクリエイターたちが地域の人や店をつなぐ触媒となり、大きな役割を演じているのが同プロジェクトの魅力となっている。