女の子クラブ
レポート
2013.07.24
カルチャー|CULTURE

女の子クラブ

気軽に女の子体験ができる
“ライト層向け”のコミュニケーション・バー

明るいピンクで統一された店内。これまでの主流だった“同好の士”が集まるサロンやスナックとは大きく異なり、一見でも入りやすい雰囲気だ
初心者も気軽に入れるお店づくりとなっており、希望者には専門のメイクスタッフがメイクを施すサービスも用意されている
衣装は店内にあるものを着用できる。ストッキングや下着などはその場で購入可能だ
同店スタッフのくりこさん(右)と咲樹さん(左)。スタッフはたえずお客さんのテーブルにつくことを義務づけられているわけではなく、自由な雰囲気だ
ここで着替えをして女装イベントや2丁目の女装バーなどに出かけたり、店内で交流をしたりと楽しみ方もさまざま。
メイク用品などは店内に用意されているので、手ぶらで来店して女装を体験することもできる
「女の子クラブ」のウェブサイト。同店を運営する株式会社UNIはウェブサイトやイベントなどのプロデュースワーク全般を手がけている
コミックやテレビなど、各メディアにも登場する機会が増え、ここ数年裾野が大きく拡大した女装文化。女装を実際に楽しむ人も増加しているが、中でも2012年12月にオープンした女の子クラブは“誰でも気軽に女の子体験ができるサロンバー”として注目を集めているスペースだ。
 
 
ロケーションは新宿2丁目のビル4階で、店内はピンク色のトーンで統一された、綺麗でガーリーな雰囲気。店内には着替えスペースが用意され、メイク用品やウイッグ、コスプレ衣装も多数揃っている。手ぶらで来店しても女の子に変身できる入場料金は女性 (女装含む) 2,000円、男性 3,000円で、コスプレ衣装・化粧台・着替え部屋の使用は無料。ドリンクは500円からで、2丁目のバーとしても安めの設定といえるだろう。
 
好奇心で“女装を一度体験してみたい”というような、女装文化の外側のお客にも開かれた点が同店のコンセプトだ。初心者からベテランの愛好者まで遊び方はさまざまで、お酒を飲みながら女装やメイクで変身したり、女装したお客さん同士での交流や、スタッフとの会話を楽しむこともできる。この女の子クラブを着替えとメイクの“変身拠点”として、新宿2丁目に点在する女装バーなどの遊び場へ出かけるユーザーもいるという。
 
「女の子クラブ」店長の“れんれん”さんによれば、ここを交流サロン的に利用する既存の女装者たちは全体の半分程度という。
「女装に関心はあってもこれまできっかけや勇気がなかった人、好奇心で女装を体験してみたいという初体験の方、女装文化を覗きにくる観光客、そして新宿2丁目には以前からいる、女装さんがいるお店が好きな人が残りの半分ですね。普通の会社員の団体さんが飲み会の二次会に利用されることもありますし、デートで来店されるカップルもいます」
 
同店を運営するのはコンテンツの企画運営会社の株式会社UNI(ユニ)同社は飲食サービスが専門ではなく、ウェブサイトの制作やデザイン、システム開発など、ITやデザインを手がけてきた企業である。この「女の子クラブ」は、同社が2007年から継続して開催してきた日本最大の女装イベント「プロパガンダ」をベースとして生まれたものだ。

“女装に関心のある人なら誰でも気軽に遊びにいけるイベント”を目指したという「プロパガンダ」は、スタートから一挙に人気イベントとなった。2009年には会場を新宿2丁目から現在の歌舞伎町・風林会館の元・グランドキャバレー跡に移し、毎回約300名以上が集まる大型イベントへと成長ている。
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同社が運営するイベント「女装ニューハーフプロパガンダ」は毎月コンスタントに300人以上を集客する人気イベント。アニメやボーカロイドのコスプレから女装を体験する若い参加者が多いのが特色

「プロパガンダ」のオフィシャルサイト。イベントだけではなくサイトのつくりなど、それまでクローズなものだった女装イベントをオープンなものに変えてみせた
クラブイベントとして開催されている「プロパガンダ」。男の娘バンドのライブやアニソンDJなど、内容は初期の頃からあまり変わっていない。国内/国内のメディアからの取材も多い
『オトコノコ時代』など女装/男の娘雑誌が2010〜2012年にかけて相次いで創刊した。グラフィック中心のものからコミックまで内容も多彩
猫耳や縞のパンティなど「萌えの記号」となるアイテムは新世代の女装カルチャーには欠かせないファクターである
カウンターも設置されているので一人で来店するユーザーも多い。“男の娘”スタッフを相手に飲むという楽しみ方もあるわけだ
「ウェブデザインなどを手がける一方で、いくつかのクラブイベントを立ち上げ、運営してきました。その中で女装のイベントが最も規模が大きくなり、事業にまで成長したんです。会社組織にしたのは最近なのですが、私たちがやってきたことは全く変わっていません」とプロパガンダの運営担当者は言う。
 
ゼロ年代にはアキバカルチャーが拡散し、女性キャラのコスプレから女装に入ってくるコスプレイヤーが増えた。急速に拡大した新しいタイプの女装者たちは“男の娘/オトコの娘”などと呼ばれるようになり、萌えカルチャーと女装を結びつけた雑誌など、従来にないタイプのメディアも相次いで登場した。プロパガンダはこうした新しい女装者がリアルに集まる場所として成長したのである。
 
ウェブサイトで会場風景を公開し、会場からニコ生のリアルタイム中継も行うなど、閉鎖的なイメージが強かった従来の女装文化にはないオープンな会場の空気もプロパガンダの人気の理由である。
 
「見られることで女装のモチベーションにもなるし、綺麗な女装さんを見て女装の世界に興味を持ってくる若いお客さんも増えるんです。それが閉鎖的になりがちな女装文化の中では新しかったんだと思いますね」(前述の運営担当者)
 
ゼロ年代後半には女装専門のSNSも登場し、プロパガンダをはじめとする大小様々な規模の女装イベントが開催されるようになった。こうしたイベントへの参加者は2丁目の女装バーや貸しロッカー、漫画喫茶などで着替える人が多かったが、彼女たちが気軽に女装できる場所としてスタートしたのが、この「女の子クラブ」である。
 
「敷居が低い、女装の入り口になるような場所を作りたいと思ったんです。女装を体験できるお店はこれまでもありましたが、メイクと貸衣装、撮影まできっちりサービスを提供するお店ばかりでした。うちのようにライトな感じで体験できる場所はなかったんです」(同担当者)
 
「女の子クラブ」はソーシャルメディア上で話題となり、正式なリリースを出す前からTwitterで情報が拡散。ウェブメディアでも話題を集めている。女装は読者の食いつきがよく、メディアも取り上げやすいコンテンツなのである。
 
ネット上の女装人口は新宿などのリアルなスポットに集まっている人よりもさらに多いだろう。ネットショップでも女装アイテムはよく売れるというが、メイク道具の揃え方なども分からずに女装しているユーザーもまだまだ多く、女装のノウハウやメイクの仕方といったきめ細かいサービスや情報の提供など、まだまだ潜在的ニーズはあると同社では考えているという。
 
ウェブサイトの制作やサブカルチャー系コンテンツを得意としていた同社は、女装/男の娘のポータルサイト「最先端ガールズ」の運営も行っている。さらにゴールデン街のポータルサイト運営や、プロパガンダの会場として利用する風林会館のサイト運営からブッキング窓口へと、女装カルチャーの外にも事業を拡大しつつある。コアなカルチャー・コンテンツを軸に、ウェブ上とリアルをつなぐコミュニティ形成へと彼らのフィールドは広がっている。テン年代らしいビジネスモデルの一つだといえるだろう。


【取材・文: 本橋康治(コントリビューティングエディター/フリーライター)+ACROSS編集部 】 

女の子クラブ

住所:東京都新宿区新宿2丁目13番16号 SENSHOビル 4F
TEL:03-5357-7875
営業時間:20:00~05:00(年中無休)


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