「ACROSS」学生編集部企画:立教大学服飾デザイン研究会
レポート
2013.06.25
ファッション|FASHION

「ACROSS」学生編集部企画:立教大学服飾デザイン研究会

総合大学生が独自の視点で取り組む、ファッションの形

テーマは、自分にとって元気の源である「陽だまり」(2年生デザイナーの作品)。
「祈り」とは「目には見えない、ふわふわした存在」だという自身の考えをデザインに落とし込んでいる(3年生デザイナーの作品)。
幼少期から好きだったという「植物」や「昆虫」をテーマにした、3年生デザイナーの作品。発泡スチロールを使用した繭の様なモチーフが特徴的。
2013年6月9日、立教大学ウィリアムズ・ホールにて立教大学服飾デザイン研究会(以下:FDL)のファッション・ショーが行われた。ショーの取材に加え、総合大学の服飾サークルという特殊な位置づけの団体が持つ意義について、代表の西島駿(3年)、副代表の廣瀬友理(3年)の両名に話を伺った。
 
立教大学生が組織し、50年近い歴史を持つFDLが今回のファッション・ショーで掲げたテーマは、“糸”(いとへん)だ。この“糸”(いとへん)というテーマは、「祈り」というコンセプトから導かれたものであると代表の西島は説明する。
 
「祈りという行為を僕自身は愛に近い意味で解釈していますが、祈る対象はみなそれぞれです。そのそれぞれが持つ“祈る”という行為を紡ぐもの、その紐帯を表して “糸”(いとへん)というテーマを掲げました。」(代表/西島駿さん)

ショーでは、合計20体のルックが静謐な空間に白く敷かれたランウェイを闊歩した。1体1体に込められた“祈り”を紡いでいく様は、まるで人々の“祈り”そのものであり、華やかなファッション・ショーとは一線を画す、独特の緊張感が感じられた。
ルックはデザイナーたちが、“自然から感じる力”、“陽だまり”、“時間”などといったそれぞれの“祈り”の対象を表現しており、多様なデザインが並んだ。
 
FDLのデザインプロセスは、メンバー全体での会議を通じて、そのショーが掲げるテーマを決めることから始まる。その上で、デザイナーはテーマから連想されるイメージや、自分が表現したいものをプレゼンし、テーマとの整合性や、デザイナー間での解釈の足並みをそろえるためのディスカッションを通じて、全体を方向性づけていくのだという。
 
デザイナーのうちのひとりは、自らのデザインを次のように語った。
 
「私にとって、”糸”(いとへん)というものを想像したときに、まず連想するのが、陽だまりがあるような温かい空間なんです。その空間には、球体がたくさん浮遊していて、それが自分の身体にたくさんまとわりついてくるように、そしてその温かさを表現するために、淡い色を基調にした毛糸を巻き付けて表現してみました。」
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ショーでは2、3年生デザイナーの制作した全20体のルックが登場した。出演モデルの中には、普段は部員として活動に参加している人も。
総合大学生ならではの自由な発想でデザインされた、インパクトのある作品が多く見られた。
ショーの後は20分程の鑑賞会を設けており、近くで作品の観覧が可能。デザイナーと直接交流もできる。
ショーの出演モデルも毎回自分たちで集めている。今後もテーマに合ったモデルのスカウト活動を積極的に行う予定だ。
抽象的なテーマをデザインに落とし込む際、理論的なものと感性的なものを両立させることが重要なのだと西島は話す。コンセプチュアルな側面に偏りすぎないように、自分たちが純粋に“かっこいい”と思えるものをつくることを強く意識しているそうだ。
 
「自分のかっこいい/かわいいという感覚はあながち間違いではないのだと思います。近年の服飾サークルの発表はコンセプトが前面に出たものが多く、そういった“難解でなければならない”という空気にも個人的には疑問を感じています。今回の僕たちのショーでも、コンセプトに引っ張られるあまり、自分のオリジナリティを出し切れないデザイナーもいたように感じていて、そうした反省点も含めて、今後の団体運営を考えていきたいです。」(代表/西島駿さん)
 
技術的には、専門学校で服飾を学ぶ学生とは比較することが出来ない総合大学のサークルの位置取りは複雑だ。感性的な表現を重視しつつも、“売るためではない服”という団体の理念を変えるつもりは全くない、と西島は言う。廣瀬もまた、その点を強調し、FDLという団体の特長であると語った。
 
商業主義的な縛りや、専門学校での制作課題で問われるような技術的な制約から離れて自由な発想で服をつくる、という姿勢は私が引退してからも維持していってほしいと思います。」(副代表/廣瀬友理さん)
 
服飾を専門とする学生が多くを占める環境では、どうしてもファッション以外のものが視野に入りにくく、総合大学で得られる学知を取り入れることで、より豊かな発想や表現が可能になる、と廣瀬は話す。そういったFDLの方針に関心を寄せる服飾専門学校の学生も多いという。技術習得以上の“学び”や“創造”へのニーズの表れであると言えよう。
 
「ファッション業界で将来、総合大学で服飾に関わった人間と、ファッションを専門的に学んだ人間とが出会い、共に刺戟し合うことで、新しいアイディアやクリエーションが生まれるのではないでしょうか。そうなるといいな、と思っています。」(副代表/廣瀬友理さん)

彼女は卒業後、アパレル業界への就職を考えているそうだ。
 
“学び”や“創造”のオルタナティブな場としての服飾サークル、という状況がある他方で、昨今、『ファッションは語り始めた 現代日本のファッション批評』『相対性コムデギャルソン論』『vanitas No.002(旧fashionista)』など、多角的な視点からファッションを捉えかえす議論を収めた書籍が相次いで発表されているほか、ファッションは更新できるのか?会議Think of fashionなど、ファッションについての認識を深め、新しい発想を促すような場が、ファッション業界の内外で催され始めている。
そうした動向について西島は、必ずしもそれらの試みが広く人々に届いているわけではない、としつつもそうした実践がなされていることそれ自体の意義を指摘する。
 
「今起きていることや、交わされる議論の内容を理解するといったこと以前に、そうした試みがなされている、ということ知るだけでも消費者の意識は変わってくるのではないでしょうか。一つの服に対してより深い視点を持つことが出来るようになる。そのようにしてファッションへの視線が少しずつ変わっていくことで、専門学校での教育の在り方も、それ以外での“学び”の場のポジションも変っていくことでしょう。」(代表/西島駿さん)
 
昨今のめまぐるしい状況の変化の只中にあって、ファッションに取り組む大学生たちの視点も多様化しつつある。FDLだけでなく、今後も他大学/専門学校のさまざまなファッションに関するイベントの取材記事を取り上げていきたい。

取材・文:慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 小原 和也/ 早稲田大学繊維研究会 小林 嶺


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