東京・渋谷。明治通りから氷川神社の参道を入ったところに、バー「ダイトカイ」がある。オープンは2012年12月17日。
「これまでの出会いのなかで、『可能性はあるのに発表の場がない』という人たちがたくさんいて。そういう人たちが集まって、やりたいことをやる場を作りたいと思ったんです」と語るのは、オーナーの小松原 桂さん。
小松原さんは、美容師、カフェ勤務などを経て2009年に渡英し、2年間の留学生活を送る。ロンドンにたくさんあるような、若手クリエイターが表現するためのフリースペースを東京で再現したいと思ったことがオープンのきっかけだったという。
一見、単なるバーのように見える同店だが、特筆すべきは出版業務を行っているという点である。出版部門を担当するのは、原田 愛さん。原田さんは2007年に出版社リトルモアに入社し、季刊誌『真夜中』編集部で4年間勤務した。
リトルモア退社後、原田さんに、小松原さんが「一緒に何かをやろう」と声をかけたが、当初、原田さんは小松原さんの誘いに対し、すぐには首を縦に振らなかったという。
「ちょうど仕事が楽しくなってきた頃だったので、会社を辞めても編集の仕事は続けたくて。でも、編集者として単行本を一人で手掛けたことがなかったので、いきなり独立して何かをやるというよりも、まずは会社に入って、先輩たちから本づくりの基礎を学びたかったんです」(原田さん)
そう考えていた原田さんだったが、「いずれ本の作り方を習得するのなら、会社に入っても1人でやっても、同じなんじゃないか」という小松原さんの一言が後押しとなり、今回の独立を決意したという。
業態は明確に定めていなかったが、バースペースだけでなく、ある程度広さがあってフリースペースを設けられる物件であることが条件だったという。以前はクリーニング店で、店内奥のスペースが広く、天井が高い現在の物件に出会い即決した。また、渋谷駅から歩ける立地にもこだわったという。
「奥まった場所にあるマンションの一室のような“わざわざ行く”場所でなく、もっとオープンで誰でも気軽に入れる、路面店であることも譲れませんでした」(原田さん)