ここ数年、日本各地で「クラフトビール」を製造するマイクロブリュワリー(小規模なビール醸造所)が増えている。ビール職人が手づくりすることから、「手工芸品=craft」に準えて「クラフトビール」と呼ばれ、愛好家を中心にじわじわと人気が高まっている。
神奈川県逗子市に工房を構える「ヨロッコビール」は、2012年秋に開業した新進気鋭のマイクロブリュワリーだ。以前はこんにゃく工場だった物件を改装し、鎌倉の人気のパン屋「PARADISE ALLEY BREAD & CO.(パラダイスアレイブレッドアンドカンパニー)」とシェアして、ビールとパンの工房兼ショップ「B&B(ブレッド&ビア)」をオープン。およそ12坪の工房には、ビールの原料となる麦とホップ、水を使って仕込みをするための大きな寸胴鍋が3つ並ぶガスコンロが置かれ、そこで出来た麦汁を発酵させる発酵庫、完成したビールを保管する冷蔵庫がある。冷蔵庫は吉瀬さん自らが組み立て、発酵庫は断熱材を入れ大工さんに作ってもらったという。
オーナーは、合同会社ヨロッコビール代表の吉瀬明生さん。横浜市出身で、長く鎌倉に暮らしていた吉瀬さんは2007年にビール職人を目指して独学でビールの研究をはじめた。
「長く飲食店で働いていたのですが、店を辞める時に『次に就く仕事は一生続けられる仕事をしたい』と考えました。元々ものづくりが好きだったので、自分が一番好きなものを作ろうと思い、ビール職人の道を選んだんです」(吉瀬さん)。
最初は、ビール職人として醸造所などに勤めようと考えていたそうだが、インターネットなどでビール作りの情報を集めるうちに、海外では家庭でビールを作る「ホームブリューイング」が根付いていること、さらにそれが発展して手づくりのビールを販売するビジネスが定着していることを知り、小規模でブリュワリーを始めることができると分かり、吉瀬さんは起業を決断したのだそうだ。
「ビールは日常的に飲むものですが、日本では一般的に大手メーカーの缶ビールしか飲まれていません。でも勉強していくうちに、ビールにはさまざまな種類があって、土地や季節に応じていろんな楽しみ方があることを知りました。日本では『とりあえずビール』というフレーズが象徴するように、喉の乾きをいやすものという感じでしか捉えられていない。もっと日常の食卓や飲食店にさまざまなビールが並べばいいのにという思いがありました」(吉瀬さん)