全国にフラワーショップ「青山フラワーマーケット」を87店舗展開するパーク・コーポレーション。昨今では生花小売業だけでなく、商業施設やオフィスなど多方面で花とグリーンを使った独自の空間デザインを手がけ、話題を集めている。そんな同社が法人向けの空間デザイン・プロデュースを行う新ブランド「parkERs(パーカーズ)」を立ち上げた。
parkERs(パーカーズ)
場所は、表参道からすぐの本社。緑化されたワンフロアのオフィスと会議室は、花とグリーンが至る所に配置され、屋内ながらも公園にいるような伸びやかな雰囲気だ。天井や壁面までグリーンが彩り、水が循環するフロアは、光の陰影や自然のゆらぎに満ちた空間になっている。
「本社で働くスタッフにも花やグリーンと触れる機会を作りたいと、観葉植物を置きはじめたのがきっかけ。すると”外に出るよりも居心地が良い、ストレスが減った、ポジティブな気持ちで仕事ができる”と社員から好評で、植物を吊り下げられるオリジナルの什器を作ったりと、実験的にも緑化が拡大していきました。”マルシェ”をイメージした店舗に対し、このオフィスはマルシェを収納する”ロフト”のようなイメージ。次第に、来社したお客さまから”うちのオフィスにも導入したい”“店舗に取り入れたい”とリクエストを頂くようになったんです」と話すのは、「parkERs」ブランドマネージャー・梅澤伸也さん。
その後、少しずつ外部受託を始めたところ、法人の空間デザインの依頼が増加。07年に手がけた有楽町マルイ、09年に手掛けた新宿マルイ本館では、買い物中に寛げるようグリーン豊かなパブリック・スペースを各地にデザイン。さらに2010年には羽田空港「ANA SUITE LOUNGE」の空間デザインを担当し、これまでにない水とグリーンを使った寛ぎのラウンジスペースを創造して、国内外からも注目を集めた。
そういった実績を踏まえ、需要の高まりと事業としての可能性を感じ、2013年7月「parkERs」を設立。個別で機能していたグリーン事業、空間デザイン事業、植物のメンテナンスや管理を行う3つの部門を統合し、「公園のように自然と人の集まるくつろぎ空間をプロデュースする集団」をテーマとしたビジネスを展開することになった。
「昨今では海外でも、クリエイティブな環境を目指してグリーンを導入する施設や企業が増えています。アメリカのアップル社、グーグル社でも植物を取り入れた新しいオフィスの計画が進むなど、”クリエイティブな環境こそ、自然との共存空間が常識”、”良い環境から質の高いアウトプットが生まれる”という意識が高い。さらに、誰にとっても好感度100%の花とグリーンは、付加価値やブランドイメージの向上にもつながります」(梅澤さん)。
その中心人物となるのが、これまで主に自社店舗のデザインを担当してきた空間デザイナーの城本栄治さんと、プランツコーディネーターの児玉絵実さんだ。
「都心にはグリーンが少ない、だったら屋内に場所を創ろうと。”屋内に公園を”というコンセプトをもとに、グリーンを”育つインテリア”として、自然も人も共に育つデザインを目指します」(城本さん)。
一方で、切り花や造園、観葉植物、生産とあらゆる角度から植物に携わってきた”植物のプロ”である児玉さんが、植物に必要な環境を整え、場所に適した植物をセレクト。20名ほどのチームで、必要に応じてメンテナンスまでのトータルデザインを手がけている。
「『parkERs』の強みは、生花小売で培った植物を見せるノウハウや、花屋の感性を生かしたデザイン力、植物の専門知識が同時に提供できること。従来ならば空間デザイン(デザイン性)とグリーン事業(グリーン性)と個別の会社が行っていましたが、弊社では社内で一貫したプロデュースが可能なので、相互が高いポテンシャルを保ちながら、コストや時間も抑えられる。…とはいえ両立はなかなか難しく、日々チームでぶつかりながら試行錯誤しています(笑)」(城本さん)。
本社オフィス1Fにある店舗・南青山本店に併設された11年オープンのティーハウス「Aoyama Flower Market TEA HOUSE(アオヤマフラワーマーケットティーハウス)」も、彼らが手掛けた空間だ。花の生産者の「温室」をテーマに、ビニールハウスをモチーフにデザインされた空間は、半円形のフレームに豊富なグリーンを配し、テーブル各地には旬の花をアレンジ。高原のような清々しい空気に満ちた、心地よい空間が印象的だ。ティーハウスは今年6月に、アトレ吉祥寺に2号店を出店したことでも話題になっている。
「”グリーンって何かいいよね”という感覚的な心地良さを、実際に体感してもらいたい。天井のリングからグリーンを垂らしてアイキャッチを作ったり、水の循環する音やグリーンの陰影を表現し、空間にゆらぎや動きを持たせて、五感に訴えかける仕掛けを心がけています」(城本さん)。
従来の業界の壁を超え、人と環境が共存するデザインを目指す「parkERs」。彼らが手がける仕事や働く姿は、”環境が良いアウトプットを生み出す”という言葉を何よりも体現しているようだ。
「環境や働き方なども含めて、皆が無理していた部分やひずみが出てきて、全てを見直す時期に来ているのでは。これまでも植物を使った空間は仕掛けられてきたけれど、今は本当の意味での必要性に迫られているように感じます。日本ならではの美意識を生かしながら、将来的には海外にも進出し、生花小売業に並ぶ事業に育てていくつもりです」(梅澤さん)。
ブランドの発表後は、既にオフィスや商業施設のほか、大型書店や学校、病院など多方面から問い合わせが集まるなど、国内外から予想を超える反響があったというが、そんな状況をみても、人々がより本質的で心地よいライフスタイルを求める傾向にあるといえそうだ。
【取材・本文/渡辺マキコ】
【取材・本文/渡辺マキコ】