2013年6月に幣サイト「定点観測」のインタビューで初登場し、8月には19歳と20歳の大学生の男子が「よく行くショップ」にも挙げていた、裏原宿の古着屋「10-9(トーク)」。「人とかぶらないのと、質がいいので好き」(19歳・大学生)「ヴィンテージ、ハイブランド、レギュラーをミックスしていて、力の入り過ぎないスタイルを提案しているところが良い」(20歳・大学生)と理由を語ってくれたが、裏原宿の路地裏という分かりにくい立地にも関わらず、一部の90年代生まれ世代にクチコミで広がり人気となっていたことから、取材することにした。
10-9(トーク)
同店があるのは、原宿の中心部を離れたビルの一室。白で統一されたシンプルな空間には洋服が整然と並び、一見セレクトショップのような雰囲気。店奥のガラス扉からは裏庭の緑が覗き、原宿とは思えない静かな空気が流れる。
「コンセプトは『New Values』。古着は掘り尽くされたといわれますが、古着の可能性は無限大。視点や価値観によって、また生き返ることができます。従来のアメカジ古着などスペック重視の古着とは違う視点から、”攻め”の姿勢でファッションを表現できれば」というのは、店長の田島由基さん(26歳)。
田島さんは、大宮と高円寺にある系列店で店長を務めてきた。学生時代より古着からデザイナーズまで幅広く洋服が好きだったそうで、同店オーナーが以前働いていたお店に足繁く通ううちに仲良くなり、学生時代の20代前半の時にオーナーが出店した大宮の古着屋で働き始めたという。
出店地に原宿を選んだのは「トレンドの中心にあり、日本の中で一番ファッションを表現するのに適している場所なので」(田島さん)。オーナーと共にいずれは原宿に出店したいと考えていたそうだが、「コアで挑戦的なことをしたい」と、古着屋が集まるとんちゃん通りなどの中心部を避け、あえて裏通りの人通りが少ない場所を選んだそうだ。
店内は約8坪。洋服を引き立たせるシンプルな空間を目指し、自分達でコンクリートの壁を塗り、床に椋の木を敷いて改装した。
商品のラインナップは、80年代以降のレギュラー古着が6割、50年代(ヴィンテージ)~70年代(オールド)古着が2割、そのほか「コム・デ・ギャルソン」「クリスチャン・ディオール」など国内外デザイナーズ古着が2割。全てメンズだが、スカートや大判ショール、ガウン、エプロンなどユニセックスに着られる個性的なアイテムも並ぶ。
そもそも、“レギュラー”古着というのは、アメカジ中心の古着屋が全盛だった90年代には既に使われていた業界用語だそうで、いわゆるヴィンテージでない年代が浅いものや、人気的にも希少価値が高くないものを差したそうだ。当時は70年代のものも“レギュラー”扱いだったそうだが、10年代になった今は70年代の古着が“オールド”に昇格。
また、「当時は価値を与えられていなかったような80年代以降の古着も、現在は“レギュラー”として扱われており、時代と共に“レギュラー”古着の枠が広がっている」(田島さん)という。
そんななかから厳選した「10-9」のセレクト基準は「質とデザイン、コンディションが良いもの」(田島さん)。レギュラー古着でも、デザイン性や仕立ての良さ、ディティールにもこだわり抜いているそうで、特に「産地と素材」にこだわり、イタリアやフランスを中心に1割ほど日本製も扱う。
さらに、アイテムを並列でミックスするが「プラスして着るよりもマイナスに着る」のが「10-9」のスタイル。例えば50年代のヴィンテージパンツに80年のデザイナーズものをプラスして、シルエットで見せる。そこにさらりと大判のショールを羽織るといったスタイルだ。ちなみにこの日の田島さんのスタイルは、80年代のシャツにスカート(!)を合わせ、ギャルソンのソックス、70年代のVANSというミックスコーディネート。
「扱っている洋服は年代やブランド、産地も違うけれど、どれも面白さは一緒。その服の背景までをも組み合わせて、普通のものをかっこよくみせる、”大人な攻め方”を提案したい。演劇の役者と同じで、良い演技(もの)は、目立たず分かりづらいものの中にあるように感じます」(田島さん)。
価格帯は5,000~3万円程度。客層は20代前後が中心で上は30~40代、女性客も1割ほど訪れる。同店のTwitter、facebook、blogを見て来店する人が大半で、最近ではリピーターや顧客も多いそうだ。比較的、客の滞在時間が長いのが特徴で、先日も客と話をしているうちに2時間経っていたとか。
「話(10-9/トーク)をして、古着の魅力を伝えるためのコミュニケーションを大切にしています。情報過多の時代、服も豊富な環境にある一方で、何を選ぶべきかがわからないという人も多い。古着の良さは分かりづらいものだからこそ、話を通してその魅力を分かってもらえたら」(田島さん)。
今後はヴィンテージを使ったリメイクのオリジナルアイテムを展開するほか、ファッションショーなどのイベント参加など古着屋の枠にとらわれない表現にチャレンジしていきたいという。「古着屋の幅は広がり、人口は減っている。そんな時代にあっても、より多くの人に古着を楽しんでいただくために、常に新しい価値観を模索し、提案していきたいですね」(田島さん)。
【取材・本文:渡辺満樹子+『ACROSS』編集部】