トレイルランニングに注目を集めるきっかけとなったクリストファー・マクドゥーガル著『Born To Run』の原著
書籍『Born To Run』のヒットで注目を集めたベアフット・ランニングシューズ。ニューバランスの「minimus(ミニマス)」シリーズは代表的なヒットアイテム
ギア類は登山用とランニング用のそれぞれを使う場合が多いが、マーケットの拡大とともにトレイルラン専用のものが開発されるようになってきたという
山岳系のカルチャーにはあまり見ることができなかったポップなセンスも魅力の一つだ
各地でトレイルランのレースが開催されている。デザイン面でもクォリティの高いものが多い
岩本町の小さなビルをリノベーションしたショップ。2Fがオフィス
ところがあるトレイルランナーとの出会いから、桑原さんはトレイルランニングの専門店のオープンへと方向転換する。トレランによってもたらされる精神のタフさと人間的な成長は、震災後の日本人に最も必要なものであると考えた桑原さんは、この新しいスポーツの普及をサポートすることで、生きづらい時代を乗り越えていけるメンタリティの仲間を増やしていこうというビジョンを描いたのである。
ちょうど桑原さんの周囲に生まれつつあったトレランのコミュニティからもサポートがあった。同店の近隣には弊サイトでも紹介した「OnEdropCafe.(ワンドロップカフェ)」(
Acrossの取材記事はこちら)があるが、こちらのオーナーの小松さんも時期を同じくしてトレイルランニングの世界にハマった一人。「Run Boys! Run Girls!」が入居している物件も彼の紹介で見つけたものだ。
トレランのシーンが大きく変化したのが、2010年の書籍『Born to Run』のヒット。ここで紹介されているベアフット・ランニングやウルトラマラソン、トレイル・ランニングにはアメリカ西海岸のオルタナティブなスポーツ・カルチャーの香りがあり、タレントの水道橋博士さんなどがソーシャルメディアでその魅力を紹介したことで一気に注目を集めた。自分の内面に向かい合い、生き方を問い直すような311後の時代の空気にもフィットし、そのムーブメントはさらに広がりつつある。
トレランはあくまでも個人競技だが、レースを戦うランナーには給水や体調管理などの細かなサポートが必要になる。海外ではペーサー(選手と並走して走ってくれるパートナーで、日本では認められていないレースもある)を行う協力者と共にチームで参加するランナーが多く、レースの運営者の方から個人参加のランナーにペーサーを用意してくれるケースもある。コース管理や救護などでレースを支えるボランティアスタッフも必要だ。
チームの一員として選手をサポートする、あるいはレースの運営を側面から関わるなど様々な参加の仕方があり、トレイルランニングという成長途上にある競技コミュニティを支えるという意識も加わって、参加者には独特の充実感があるようだ。
「レースは厳しいですが、それでも普通の人が自分の限界を超えていく経験を味わえるのがトレランの魅力なんです。経験を積んでいくうちに、気がつけば最初に自分が想像もしなかった距離を走れるくらいにタフになっています」(桑原さん)
トレランのレースへの出場者は年々増加する傾向にあり、出走希望者が多い人気レース「ハセツネ(長谷川恒男)カップ日本山岳耐久レース」では2,000人を越える出場者が集まる。また、距離やコースの設定についての自由度が高いため、地域振興に寄与しているケースもある。トレーニングを兼ねて少人数で行う草レースなども各地で行われており、トレランにはまだまだ成長の可能性がありそうだ。自治体の側がスポーツ観光の一つとしてトレランを活用するケースなども、今後さらに増えていきそうな予感がある。
コアなトレイルランナーが集まる Run boys! Run girls! だが、今後は次のステップとして「街のランニングショップ」としての機能も強めていきたい、と桑原さんは語る。近隣のランナーに集いの場を提供し、未経験者やライトユーザーに走るきっかけを提供するイースト東京のランニングショップとして、シーンの裾野を広げる役割を担っていくことになりそうだ。
【取材・文: 本橋康治(コントリビューティングエディター/フリーライター) 】