1949年の設立以来、大学生による服飾研究の先駆けとして、繊維産業の研究から服の制作やイベントの企画など、活動内容は時代と共に変化してきた早稲田繊維研究会は、現在、約50名が登録。卒業生には、「ka na ta」 「TOKYO RIPPER」など多くのデザイナーを輩出していることでも有名だ。 今年度は、早稲田大学の現役の学生で詩人でもある文月悠美さんとメンバーによる展示「ことばのシャツ展」を企画。文学とファッションのコラボレーションにもチャレンジしていた。
「今年度は一昨年度からの“ファッションの言説を生む”という理念を引き継いで活動を行いました」と、繊維研究会代表の泉澤拓志さんは言う。
「今年度の活動理念やコンセプトは、部員内で話し合いをして決定しました。その過程で、学生団体の特性を活かすことを重視しましたが、コンセプトを立ててそれを表現する服を作るというやり方では、プロの二番煎じになってしまうということから、“デザインについて考える”というコンセプトに注力するという結論に至りました。時代性をいちはやく反映できるというのも学生団体の強みとし、今何が話題になっているのかいうことを考えていったところ、“ファッション言説”というキーワードにたどり着いたんです」。
また、彼は今年度の活動のなかで、「多くの人に商品としてのファッションの背景にある問題を知ってもらう」という目的から、ブログも開設。クリスチャン・ルブタンとイヴ・サンローランの“赤い靴論争”といわれる法廷問題など、一般の人にはあまり馴染みがないが、ファッションにおいての永遠の課題ともいえるコピーライトに関しての最新事例として、わかりやすく解説している。
「ファッションはすべての人が関わるテーマであるからこそ、今回のコンセプトは、ファッション業界に身を置く人でなくても伝わりやすい、身近な話題にしたいなと思いました。そして、インスタレーションを通して、消費者であることとはまた違ったファッションへの視点をもって欲しいですね」(泉澤さん)。
きっかけは、2012年にスタートしたNPO法人ドリフターズインターナショナルが主宰する勉強会、「ファッションは更新できるのか?会議」への参加があったという。同会議に参加し、“服作りが開かれた(=オープンソース)”という話題に触れ、実際にそこで提唱された“言説”を洋服デザインに落とし込むとどうなるのか、という疑問が、今年度の活動や今回のインスタレーションへと発展していったのだそうだ。
また、以前から繊維研究会の活動に興味を持っていた、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)井庭研究会に所属する学生からの依頼で、「服作りのパターンランゲージ制作*」というプロジェクトに関わったことも影響したという。
*服作りおけるパターンランゲージ: 洋服づくりに関わる人がほとんど無意識に行っている所作を初心者に対してわかりやすく表現すること。
さて、“服作りが開かれたとき新たにどのようなデザインが生まれるのか”というコンセプトで開催された、今回のインスタレーション、“つくる を きる 展”では、デザイナーが各々の発想に基づいてデザイン・製作した「個人作品」と、洋服づくりの基本ともいえる、シャツ・ワンピースの形を様々な方法で製作した「企画作品」合わせて23点の作品が展示された。
今回のインスタレーション展示の特徴は、すべての作品が、“洋服の作り方を公開している”という点だ。また、かんたんで作りやすいものがほとんどで、誰でもチャレンジしやすい=“開かれた服づくり”を実現した。
また、「ファッションは更新できるのか会議」への参加から接点を持っていた『WWD JAPAN』の横山泰明さん提案のもと、3部構成、計4時間にわたるトークショーも開催された。
1部では、会場内のインスタレーション展示の解説に加え、「シアタープロダクツ」の金森香さん、元「TOKYO RIPPER」の佐藤秀昭さん、古瀬伸一郎さんを交えて、デザイナーの役割の変化と、それに伴うファッションデザインの変容について議論した。
2部では、「ka na ta」のデザイナーで、自身もウェブマガジン「doby only」を主宰する加藤哲朗さんがリアルクローズの一般化を背景とした現代の洋服の限界や、“売ることに消極的”という、ユニークな活動を行う自身のブランドについて語った。また、トークショーの後半では、突如、観客の中から1人の女性を指名し、その人が着ている服についての考えや思いをインタビューするなど、まるで幣サイトが毎月行っている「定点観測」のインタビューのような行為を“ファッションショー”と位置づける場面も。
3部では、横山さんや、ファッション批評誌『vanitas』編集を手掛ける研究者の水野大二郎さん、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局に所属する弁護士の永井幸輔さん、編集者の齋藤歩さん、金森さんといった、「ファッションは更新できるのか会議」のメンバーによって、“オープンソース”の考え方の議論が展開。オーディエンスには、京都精華大学の特認教授の西谷真理子さんや、伊勢丹百貨店新宿本店「TOKYO解放区」のアシスタントバイヤーの寺澤真理さんらも訪れ、質問なども出ておおいに盛り上がった。
「早稲田の繊維研が他大学のファッション系の団体と違うのは、“表現する服ではない”ということなんです。歴代、“服をつくるとはどういうことか”という哲学的なところに重点を置いてきました」(泉澤さん)。
今回、立教大学服飾デザイン研究会の部員として話を伺ったが、自身の団体と反対の位置に繊維研究会が存在することに気が付いた。同じ学生という立場であり、ファッションにアプローチするという点は共通しているが、“デザイン(デザインすること)”という言葉の定義はそれぞれ異なるものだった。
立教の服飾デザイン研究会でいう“デザイン”とは、自身の感性・感情の表現とほぼ同義として扱っているが、早稲田の繊維研究会では、今回のインスタレーション展示で、「つくる上での機能性・実用性」を軸に服を制作したというように、“機能性”と近い意味を持っていた。また、“時代性”についての解釈も大きく異なり、立教服飾デザイン研究会では、非常に早いファッションの流行サイクルの中にいる、若者の感覚を重要視し、いわゆる“今っぽさ”を全面に押し出したのに対し、早稲田の繊維研究会では、社会的に、年齢問わず、話題になっている事柄に着目をしていた。
どちらが良い・悪いということでは決してなく、いろいろな視点から学生たちがファッションを見つめているという実態そのものが非常に面白いことであるといえよう。また、売れているかどうか、といったビジネス視点、ビジネススケールでのみ語られることが多くなっている昨今のファッション業界において、改めて、「ファッションとは何か?」という根源的なことを考えさせられるいい機会になったことには違いない。
[取材/文:廣瀬友理・西島駿(立教大学服飾デザイン研究会)+「ACROSS」編集部]