定点観測海外編
第2回「定点観測 in NYC」
レポート
2014.07.28
ファッション|FASHION

定点観測海外編
第2回「定点観測 in NYC」

アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市ソーホーにて定点観測を実施!

2013年10月にスタートした「定点観測in NYC」。第2回目となる今回も、マンハッタン・ソーホー地区からリアルなストリートシーンをレポートする。
実査日と地点は、2014年5月9日(金)。アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市ソーホー地区のブロードウェイ大通りが交わる交差点から1本外れたMercer Street(マーサーストリート)。日本と同様のルールに乗っ取って「定点観測」を実施した。

★NY地点のスナップ/インタビューはこちら


「定点観測」のルールとは、以下の通りである。
(1)   プレサーベイにて、観測場所とテーマを選定する。
(2)   実査日を決め、11時〜18時(日没前)まで観察とスナップを行う。
(3)   選定した観測アイテムやスタイルを着用する人が通行人中に何名なのかを測定する(流行の浸透率とみなす)。
(4)   当該するアイテムやスタイルを着用している人にインタビューを行う。
(5)撮影したスナップ写真やインタビューなどの結果をスタッフ内で共有し、考察する。

ソーホー地区には、観光客で一番賑わうH&Mやユニクロ、Victoria’s Secret(ビクトリアズシークレット)などマスなお店を中心に盛り上がっているブロードウェイ大通りと、そこから1〜2本はずれ、Marni(マルニ)や、Y-3(ワイスリー)などのハイブランドで構成されているMercer Street(マーサーストリート)とGreene Street(グリーンストリート)がある。

同日の13時30分〜14時30分の1時間、Prince Street(プリンスストリート)とMercer Street(マーサーストリート)の交差点に立ち、ブロードウェイからアップルストアへの来客数が多いことから、ブロードウェイ方向からアップルストアへ向かってくる南西の角を通る人全てをカウントした。


観測結果は以下の通り。
●通行人数:合計1,786人     前回:1,373人
◯男性合計:795人(44.5%)   前回:629人(45.8%)
◯女性合計:991人(55.5%)   前回:744人(54.2%)

●カウントアイテム:男女カモフラ柄アイテム
◯男性:33人(4.2%) 
◯女性:23人(2.3%)

気温が上がり天候も良い5月のNY。前回と比べて通行人数がわずかながら多かった。イースターの休暇シーズンとの関係もあってか、ヨーロッパ系の旅行客が増えていた印象を受けたが、多くは、スウェットパンツにスニーカーで栄養満点のドリンクを片手にジムに向かう人々がストリートを日常的に闊歩しており、健康志向を感じさせる様子は変わらなかった。
オフィスワーカーの足元は、スニーカーブームが継続。前回と比較すると、NIKE(ナイキ)のFLYKNIT(フライニット)やROSHERUN(ローシラン)のスニーカーを着用する人々が減少し、adidas(アディダス)のクラシックモデルStan Smith(スタンスミス)やVANS(バンズ)、CONVERSE(コンバース)など、クラシックなデザインのものが人気だった。



◎カウントアイテム:男女カモフラ柄アイテム

プレサーベイを行ったところ、男女ともにカモフラージュ柄(以下カモフラ柄)のアイテムの着用する人が増加しており、アイテムや着こなしのバリエーションも豊富なことからカウントアイテムとして決定した。

最も数の多かったグループは、A BATHING APE(アベイシングエイプ.)やSupreme(シュプリーム)の様なストリート系ブランドを好む10代〜20代の若者たち。カモフラ柄のジャケットやパンツ等を主役にしたコーディネートが多く、これまでのスタイルに「ストリート感」を演出するアイテムとして支持されていた。
また、A BATHING APE(アベイシングエイプ.)のオリジナルのカモフラ柄は、アジア人観光客と思われる層からの支持が厚く、実査中も、同ブランドの柄のパンツをお揃いのように着用している観光客グループに遭遇した。
次に多かったのは、古着をミックスしたような「カモフラ・スタイル」オーバーサイズアウターやミリタリー色の強いカモフラ柄など、古着風のアイテムを軸としたミックスコーディネートが特徴。「私は古着も着ちゃいますよ」というような、“気取っていないように装いつつ、実は気取っている”ニューヨーカーらしいスタイルともいえそうだ。
最後は、小物でカモフラ柄を取り入れているスタイル。ロールアップしたパンツから、ちらりとカモフラ柄ソックスを覗かせていたり、20代後半の女性がヒールにカモフラ柄のバックパックを組み合わせるなど、「ハズし」のアイテムとして取り入れられていた。トレンドを小物アイテムで取り入れ、1ランク上のお洒落を上手に楽しんでいる印象だった。

◎ズームアップ・アイテム1:女性ダメージジーンズ
これまではインディゴのジーンズが主流だったが、セレクトショップでも洗いのかかったダメージジーンズを多く見かけるようになってきた。また、今年2月のファッションウィークでは、エディターやモデル、ファッション関係者がダメージジーンズを着用する姿がトレンドとして取り上げられており、ファッション感度の高い女性たちの間で増えているアイテムとして注目した。

最も多かったのは、エディターやモデルなどをお手本としている20代後半〜40代の「キレイめ」のグループ。ダメージジーンズにブランドバッグやヒール靴を組み合せ、カジュアルすぎないようバランスをとっていた。
次は、シンプルな無地のトップスにスニーカーを合わせたような、いわゆるどこにでもいそうな“気取らないファッション”が特徴の「Normcore(ノームコア:ノーマルとハードコアを組み合わせた造語で“究極のふつう”の意味)」スタイルのグループ。これまでは加工のないノーマルなジーンズが多く見られたが、洗いのかかったダメージジーンズに着替え、更にリラックス感を演出している印象だった。
10代後半〜20代の若い世代の間では、単にほつれている訳ではなく、大きく開いた穴から大胆に肌を露出させたダメージジーンズが浮上。「ストリート感」や「グランジ感」を演出していた。


◎ズームアップ・アイテム2:男女一眼レフカメラ

ストリートスナップの世界的な流行から、NYのストリートでは、13年の夏ごろから観光客以外で本格的な一眼レフカメラを持ち歩く人を多く見かけるようになった。今回は、ファッションのスタイルの一部にもなりつつある、トレンドアイテムとして注目した。

一眼レフカメラを持ち歩いているタイプは大きく3つのパターンに分かれていた。

ひとつめは、10代の「NYキッズ」たちによる「HYPEなストリート(HYPEとはスラングで、「興奮している」「かっこいい」の意味)」スタイル。まだ少数ではあるが、新しく急浮上しているグループだ。特徴は、A BATHING APE(アベイシングエイプ.)やSupreme(シュプリーム)等のストリート系ブランドに、BALENCIAGA(バレンシアガ)や GIVENCHY(ジバンシィ)、Maison Martin Margiela(メゾン マルタン マルジェラ)などのハイブランドをミックスして着ていることである。ラッパーのカニエ・ウェストが、GIVENCHY(ジバンシー)のロットワイラーのTシャツを着用したことや、2013年のツアーの衣装デザインをMaison Martin Margiela(メゾン マルタン マルジェラ)が手掛けた事などで、黒人を中心とした10代後半〜20代の若い世代が、これらのハイブランドに興味を持つようになった。
彼らは3人以上で街を闊歩しており、クールなグラフィティが目立つ場所や、石畳のあるマーサー通りなど、比較的人が少なく、絵になり写真が撮りやすい場所で、ガヤガヤ騒ぎながら撮影している。自身のFacebookやTumblerなどで、自分たちのファッションや自作のブランド(Tシャツなどを自主制作 している場合が多い)を撮影した写真を更新するために、一眼レフカメラを持ち歩いているのである。
自身のブログ用にスナップしているブロガー。気に入った背景をみつけては、そこで一枚と撮影している。
ストラップを手首にぐるぐると巻き付けた持ち方が、ファッションの一部となっている。
プロのカメラマンだけでなく、学生などのアマチュアカメラマンも増えている。

次は、自身のファッションブログ用にスナップを撮影するブロガーのグループ。基本的に目立つのは女性で、主に恋人と一緒に一眼レフを持ち歩き、気に入った背景があれば、そこで一枚と、比較的ゆっくり撮影している。ブログ掲載用にお洒落をしているので、見る人が見ればブロガーだと一目で分かる風景である。
最後は上記2つの「自撮り」グループに反し、自身のウェブサイト、もしくファッション雑誌などのクライアントに提供するためのストリートスナップを撮影しているグループ(筆者もここに入る)。今や、ストリートスナップは世界中で行われており、メジャーなファッション雑誌やウェブサイトには、ほとんどスナップページが常設しているので、彼らが寄稿する媒体も様々。
このグループの特徴は、独特なカメラの持ち方だ。ストラップを手首にグルグルと巻きつけ、片手でホールドすることがファッションの一部になっている。このスタイルだと、見る人が見れば、スナップをやっている人だと分かるのがポイント。被写体に声をかけた時、相手もすぐにその目的が分かり、ラポールが築かれるというわけだ。


<考察>
さて、今回の観測を通して見えてきたポイントをいくつかあげてみたい。
まず、女性の間では「Normcore(ノームコア)」スタイルや、スニーカーやダメージジーンズを「ハズし」とした“気取らない”着こなしがボリューム化しており、彼女たちは、トレンドリーダーであるエディターやモデルの日常的なスタイルから影響を受けていた。

一方、ラッパーのカニエ・ウェストやエイサップ・ロッキーなどのブラック系ミュージシャンによるトレンドが浮上。Maison Martin Margiela(メゾン マルタン マルジェラ)など、これまではハイブランドを着用していなかったであろう「NYキッズ」たちの、ハイブランドとストリートブランドをミックスした「HYPEなストリート」系グループが登場していた。

最後に、今や数えきれない程のスナップサイトが存在し、プロだけではなくブロガーや学生などのアマチュアカメラマンも増加しており、飽和状態にあるファッションスナップだが、NYでは、カメラそのものや、持ち方までもがファッションの一部となっていた。誰もが気軽に発信できるInstagramやTumblrなど、SNSの浸透も現象を加速させており、
“スナップをしているわたし”がトレンドになっていることが確認された。


[取材/文:宮本諒(RYO MIYAMOTO)+アクロス編集部]




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