渋谷〜青山エリアの最新クラブ事情
レポート
2014.07.15
カルチャー|CULTURE

渋谷〜青山エリアの最新クラブ事情

複合業態で細分化の進む東京のクラブシーン

風営法によるダンス規制により閉店に追い込まれるクラブが相次ぎ、縮小の一途を辿っているかのように見えていたクラブシーン。20年前、1990年代半ばのDJ/クラブブームの頃が最も盛り上がっていたという見方もあるようだが、実は2013年あたりから渋谷〜青山エリアで“クラブ”のオープンが相次いでいる。

ここ1年以内にオープン/リニューアルした3店舗を例に、個性を活かしながら進化する東京のクラブシーンを取材した。


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0 ZERO(ゼロ)
〜昼はカフェ、夜はクラブ。二つの業態で新しい客層を獲得

2013年5月17日、東京・青山にオープンしたカフェ&イベントスペースの「0 ZERO(ゼロ)」。運営元の株式会社ベースは、2013年1月に惜しまれつつ18年間の歴史に幕を下ろしたクラブ「LOOP(ループ)」を運営していた会社だ。

「ビルの建て替えに伴い『LOOP(ループ)』を閉店することになりましたが、やはり愛着のある青山で続けたいという気持ちと、オープン当時から付き合いのあるDJやオーガナイザーから再出店の強い希望を受けて、決意しました」と語るのは同社代表取締役の望月広彰さん(42)。ご自身もDJ MOCHIZUKIとして20年以上活躍しており、90年代以降のディスコ〜クラブの流れをリアルに体験してきた人物だ。また、旧知の仲であるDJやオーガナイザーに“場”の提供もしたいというのも、再出店を決めた一因だったそう。

「0 ZERO(ゼロ)」がオープンしたのは、もともと「LOOP(ループ)」があった場所から徒歩30秒ほどの青山学院大学の近く。同社はもともと、同じ青山でタイ料理レストランの「ガパオ食堂」を運営していた事もあり、昼夜問わず人通りの多いエリア特性を活かして、オープンと同時にカフェ営業も開始。クラブ営業では取り込めなかった、青山で働く20〜40代男女の幅広い層の獲得に成功した。

もともとバーだったという店内は約30坪。ランチタイムは可動式のテーブルを設置しイートスペースとして、イベントタイムはテーブルを収納すれば、ダンスフロアに変化するフレキシブルな空間となっている。そのため、クラブイベントだけでなく歓送迎会などの各種パーティ会場としての利用も多いそうだ。

火〜土曜日の夜と日曜日の昼にクラブイベントをレギュラーで開催。来客層は「LOOP(ループ)」時代からのファンである30代を中心に、20〜40代までと幅広い。男女比はイベントにより異なるが、男性が6割を占めることもあるという。

「『LOOP(ループ)』がオープンした90年代後半に比べ、今はクラブ以外のイベントスペースも増えてDJをする場も機材も多様化し、誰でもDJができる時代になってきたと思います。そんななかにあって、新たに店をオープするのであれば他店との差別化が重要ですね」とクラブ業界に長く携わってきた望月さんは語る。良質な音とフレキシブルな空間設定で、既存の客はもちろん新しい客の獲得に成功したといえる。


OTO(オト)
〜ユーザーのライフスタイルの変化に合わせて
老舗クラブが移転リニューアル

1995年9月に新宿歌舞伎町にオープンして以来、良質のサウンドと業界を牽引するDJが多くプレイすることでコアな人気を獲得していた老舗クラブ「OTO(オト)」。2014年1月10日、18年間にわたり営業を続けてきた新宿から、装いも新たに渋谷に移転オープンした。オーナーの落合一哉さん(46歳)に、その経緯を伺った。

2003年に始まった歌舞伎町の浄化作戦の影響からか、2000年代の半ばあたりから近隣のクラブやライブハウスの移転や閉店が相次ぎ、かつての活気が薄れてきていると感じていました。そんなとき、昔から付き合いのあるDJやお客さんから、渋谷に移転しないかと強く薦められたこともあり決意しました」(落合さん)。

移転先は再開発が進む渋谷駅東口から、明治通沿いを恵比寿方面に4分ほど歩いたところにあるビルの5階。20坪の店内は、バーカウンターを挟んでダンスフロアとラウンジフロアに分かれており、両方に窓があるため実際よりも広く感じる。

「イベントは企画力が重要」と語る落合さんは、自身が担当するイベントのDJ陣には自ら足を運んで直接ブッキングするという。一対一の繋がりを大事にすることで、単純に仕事の枠を越えた濃い人間関係を築いていくことも珍しくないそうだ。そんな、コンテンツを重視する姿勢とヒューマンリレーションズが、多くのファンに長く愛される要因といえる。

営業時間はイベントによって異なるが、基本は18:00〜23:00、または22:00〜5:00。客層は20〜40代までと幅広く、オープン時から長年通い続けている人もいるというが、渋谷に移転したことで20代の新規客が増えたほか、足が遠のいていた馴染みの客が久しぶりに来店するなど、店の活性化に繋がったそうだ。

驚いたのは、『渋谷に移転して来やすくなった』という反響が多かったこと。20代の新規客だけでなく、移転をきっかけに約10年ぶりに再び来て下さるようになった方も少なくありません。若い頃に渋谷でレコードを買ったりクラブに行ったりしていた30〜40代は、やっぱり渋谷がホームという感覚があるみたいで、今でも渋谷近辺で働いたり、遊んでいる人たちが多いようです」(落合さん)。


T2 SHIBUYA(ティーツー シブヤ)
〜ライト層でも楽しめる大型エンターテイメントスペース

2014年2月28日に渋谷センター街の「ちとせ会館」の地下にオープンした「T2 SHIBUYA(ティーツー シブヤ)」。広大な空間にラウンジやバーカウンター、DJブース、VIP席を有した大型複合エンターテイメントスペースだ。特徴は、日本最大級の広さとキャパシティ。もともと飲食店だったという店内は、総面積250坪。天井高は5mもあり、広々とした空間になっている。

運営元は株式会社ヴィジョネアグローバル。代表取締役を含む主要メンバーは、東京・渋谷・六本木の人気クラブの運営を手掛けてきた経歴の持ち主ばかりだ。

「エンターテイメントを多くの人に提供したいという想いのもと、この店をオープンしました。2012年に殺人事件が起きて以来、六本木のクラブからは若者が離れている状況が続いています。一方、渋谷は文化を発信し続けている街ですし、2020年の東京オリンピック開催を前に人が集まっていると感じて出店を決めました。海外進出も視野に入れ、世界基準の“Made in Japan”を発信する場所にしていきたいですね」とシニアマネージャーの大塚伸也さん(29歳)。

海外のクラブ、カジノを連想させるラグジュアリーな雰囲気の内装を手掛けたのは、インテリアデザイナーの関根 真さん。店内は6つのシートエリアに分かれており、150坪のメインフロアと約80坪のアイランドフロアのほか、ソファ席やカラオケ付きの個室までバラエティに富んでいる。特にVIP席の人気が高く、チャージ料金が加算されるにも関わらず週末は予約で埋まるという。店内の至る所に設置された計11枚のLEDパネルや、国内初のプロジェクションマッピングを常設したDJ ブースなど、最新鋭の設備が満載だ。

営業時間はレストラン営業のディナータイムの17:00〜22:00と、イベントタイムの22:00〜5:00の二部制。オープン以来、毎日イベントを開催しており、週末ともなれば最大収容人数の1,200名に近い来客数になるという。選曲はオールジャンルで、世界中で流行しているEDMを中心に、ヒットチャートにランクインしている曲を多くピックアップし、誰もが楽しめるプログラムを意識している。

客層は20代をメインに30〜40代、なかには50代以上の大人も来店するそうだ。男女比はイベントにもよるが5:5ほど。

コアなDJや音楽を求めるというより、賑わっていて勢いがあるイベントに行きたい、という20代のお客様が多いです。ハロウィンやクリスマスなどのイベントで集まって楽しみたいというニーズも多いですね。単に踊るだけ、ナンパするだけの場ではなく、 “人と人との出会い・交流の場”としての機能も提供していきたいと思っています」(大塚さん)。
 
 
冒頭でも述べたように、都内では、2011年11月に渋谷にオープンした「SOUND MUSEUM VISION(サウンドミュージアム ヴィジョン)」を皮切りに、クラブの新規/リニューアルオープンが相次いでいる。2013年9月に表参道にオープンした「ORIGAMI(オリガミ)」など、他業種の新規参入も目立つ。

ここ数年の傾向として、既存のクラブと他の業態が融合したスタイルが主流になりつつあり、既存のクラブがクラブ営業以外に+αのコンテンツを付加してリニューアルするケースも多い。古くは2000年、オープン当初の渋谷「WOMB(ウーム)」や2008年オープンの「Microcosmos(ミクロコスモス)」のように、飲食を併設した業態はこれまでもあったが、その他に+αの要素が多様化しているのもここのところの特徴だろう。2012年1月に青山にオープンした「cafeATLANTIS(カフェ アトランティス)」では、カフェ、クラブ営業のほかレストラン・ウエディングのサービスも提供。また、2012年8月に青山にオープンした「IDOL(アイドル)」は、昼はレストラン、夜はイベントスペースとして営業するほか、ギャラリーとしても人気の多目的スペースだ。また、2013年7月に表参道にオープンした「Sprite(スプライト)」では、個室カラオケルームを完備し、さらに指紋認証による会員制度を導入。事業者側によるクリーン化・安全性を高める試みであると同時に、ユーザーをフィルタリングして満足度を高めることで、リピーター創出に繋げているという。

いずれも風営法対策ではあるものの、結果としてクラブに疎遠だった新たな客層を獲得し事業拡張を成功させているようだ。ユーザー側からみても、複数の業態がミックスされていることで、幅広い楽しみ方ができるようになっている、というメリットもあるといえる。

2014年秋の臨時国会では風営法規制緩和の法律改正案が提出される予定もある。時代の潮流を柔軟に取り入れ、変化を続ける東京のクラブ事情に今後も注目していきたい。

取材・文 生田目恭子+ACROSS編集部


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