日本を代表するクリエイティブ・カンパニーの「バスキュール」と「PARTY」が協力して設立した、次世代のクリエイターを養成する学校「BAPA(バパ)」。第一線で活躍する現役クリエイターたちを講師として、デザインとプログラミング両方のスキルを備えたクリエイターを育てる新しいタイプのスクールとして注目を集めている。
BAPAとは「BAscule」と「PArty」という両者の頭文字であると同時に、“Both Art and Programming Academy”を意味する。アートやデザインといったアイデアの部分と、それを実現するためのエンジニアリングやプログラミングを合わせて学ぶことができる。
2014年3月に入学した BAPA第1期生、約30名が受講中。カリキュラムはデザインとプログラミングを包括した実践型授業で、ワークショップを中心に構成された全12回(入学式・卒業式を含む)の講座を受講し、約4ヶ月の間に卒業作品を完成させることでゴールとなる。
バスキュールとPARTYで活躍するクリエイターたちを中心に、ウェブデザインやプログラミングに加えて映像や音響、ゲーム、キャリアといった周辺ジャンルからを含むのべ17人がインストラクターとして、受講者への講評やノウハウを提供してきた。授業はこの2社のオフィスを持ち回りで使用し、会場では社員たちが運営をサポート。極めて実践的な環境で授業を受けられるというのは他のスクールにはない魅力だろう。
この2社が運営する学校とあって反響は大きく、定員に対して約3倍の応募があったという。実際に集まった第1期生は男女比にすると7:3くらいで、社会人が過半数という。選考にあたっては課題作品を提出、選考されているので、第1回からすぐに実践的なワークショップが開始された。
第1期の生徒に与えられた課題は「渋谷の街にFantastic!を」。“渋谷を訪れる外国人観光客に『Fantastic! SHIBUYA!』と言ってもらえるような作品を作る”というテーマのもと、数名のチームに分かれて卒業制作に向けて授業が進められてきた。与えられたミッションは「いつも動いていて、いつも新しいことが始まっている渋谷」を作品で表現することだ。
10チームに分けられた受講生たちは、リアルなワークフローに沿ってクリエイティブワークを進め、課題を形にしていくプロセスを学んでいく。その各段階に、現役クリエイターたちが講師として参加し、実際の仕事で企画を立て、かたちにしていく過程を実践的に学ぶことができるのは大きな魅力だろう。
さらにチームで課題を進めていくことで、受講生はクリエイティブワークの実務に近い形で作業を行うことになる。自分1人ではクリアが困難な課題であっても、チームワークでブレイクスルーを経験できるのである。実際に授業を見学させていただいたが、受講生たちのアウトプットが短期間にブラッシュアップされていくのには驚かされた。
PARTYの伊藤直樹さんとバスキュールの朴正義さんによれば、学校という場をいまクリエイティブに携わる企業が自ら作るのは、クリエイティブに関してはテキストで教えることよりも、人との出会いの方がモノづくりに大きく影響するからだという。この2社が一緒にやることで自分たちもより盛り上がり、その勢いが会社の枠を超えた運動となり、若い人材が育つ環境づくりへと広がっていくことを目指しているという。
BAPAは第2期以降への継続も予定されているが、第1期とは全く違った形になる可能性もあるそうだ。例えばBAPAがファッションやライフスタイルのブランドを立ち上げ、ショップまでのトータルプロデュースを手がける、という可能性もあるわけだ。
この2社以外にも、ライゾマティクス、チームラボといったクリエイティブ・チームが、アプローチこそ違えど若い世代の育成に取り組んでいる。トップクリエイターの領域だけではなく、webとライブ、広告とアート、グローバルなプロモーションなど、ジャンルや言語の壁を越える協業が必要なケースはますます増えている。
デジタル・テクノロジーとクリエティブの技術が高いレベルで同居する、しかもチームプレーもできるという天才プレイヤーを育てるというBAPAの狙いに、第1期生たちはどう応えるか。イキのいい受講生たちが表現する“ファンタスティックな渋谷”を7月26日(土)、27日(日)の第1回卒業制作展で確認したい。
【取材・文: 本橋康治(ACROSSコントリビューティングエディター/フリーライター) 】