Think of Fashion特別編
レポート
2014.12.08
カルチャー|CULTURE

Think of Fashion特別編

美少女×ファッション「美少女の美術史」展から考える(〜2月16日)

「美少女の美術史」展が面白い。こちら、「美少女」をテーマとした美術展なのだが、「美少女なんて、いるわけないじゃない。」というひねくれたキャッチコピーからしてもう面白い。

同展覧会は、2014年7月から2015年2月にかけて、青森・静岡・島根の3つの県立美術館を巡回中だ。ちなみに、東京での開催はない。さらに、3館それぞれで展示構成を変えるという、地方美術館の意地というか、ツンデレというか、強きの姿勢がまた面白い。

来場者数も好調で、青森県立美術館(2014年7月12日~9月7日)では34,000人を記録したとのこと。その7割ほどが女性客であったそうで、これもまた興味深い。はたして、美少女はいるのかいないのか。これはもう、自分の目で確かめに行かなくては。

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青森県立美術館での展示風景その1。青木淳氏が設計した真っ白な展示フロアのなかに、アートからサブカルチャーまで作品が混在して立ち並ぶ。中央にある人形は四谷シモンの《Portrait d’une petite fille 》1982年で、一番右の作品は熊澤未来子の《侵食》2009年。
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青森県立美術館の外壁。「青い木」をイメージしたネオンサインが、夕刻になると輝き出す。こちらは、ブルーマークの菊地 敦己氏のデザイン。
本企画を担当したのは川西由里(島根県立石見美術館主任学芸員)工藤健志(青森県立美術館学芸主幹)村上敬(静岡県立美術館上席学芸員)の3氏。3人は、視覚文化研究チーム「トリメガ研究所」を結成し、2010年に「ロボットの美術」展を企画。「美少女の美術史」展は二つ目の企画にあたる。

「美少女をキーワードにして日本の近現代文化を考えていこうというのが展覧会の眼目です。美術史とメディア史の両方に足を置き、出来るだけ広い視野で見ていくかたちで構成しました」(村上氏)と語るように、鈴木春信の錦絵から竹久夢二の叙情画、はたまた魔法少女アニメ少女漫画美少女フィギュアといったポップカルチャー、そして現代アートまで、様々なジャンルに見られる「美少女」のイメージがこれほどまでかと並ぶ。

とにかく、膨大な作品群に圧倒されるばかりだが、美術とサブカルチャーの領域を足取り軽く行ったり来たりしながら眺めていくと、まるで点から線へ、そして面へと繋がっていくかのように美少女の系譜が浮かび上がってくる。そこでは、「私たち日本人が少女という存在に何を求めてきたか」といった欲望の在り方が問われている。いつの時代もきっと、「美少女」とは老若男女問わずに熱い視線が注がれる対象なのだ。
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高畠華宵《胡蝶》1920-30年代、弥生美術館所蔵(左)/榎本千花俊《池畔春興》1932年、島根県立石見美術館所蔵(右)
 11月3日には、かつて「ACROSS」でも取材したが、“人々の装いについての文化や社会現象などを考えていく会”である「Think of Fashion」の特別編として、「Think of Fashion特別編 美少女×ファッション」が開催された。登壇者は、トリメガ研究所の3氏に、小澤京子(表象文化論/建築史、身体論、ファッション論)、柴田英里(現代美術作家、文筆家)、そして筆者(菊田琢也:文化社会学/ファッション研究)を加えた6名。「美少女の美術史」展に、ファッションという視角から迫るのが狙いだ。

会場は、10月に移転オープンしたばかりの「coromoza(コロモザ)」。原宿・表参道から一本入った場所にあるビルの4階、ファッションに特化した居心地の良いコワーキングスペースである。それでは、美少女はどのような装いをしているのだろうか?
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青森県立美術館での展示風景その2。美術館と隣接する三内丸山遺跡から着想を得て作られた「土」の壁に展示されている2枚の絵画は、岡本光博の《ST#88 Japanese Minimal Painting 8 & 13》1998〜2014年。
 前半のパートでは、トリメガ研究所の3氏から展覧会の概略に合わせ、それぞれが注目する作品について解説された。川西氏が挙げたのは、榎本千花俊高畠華宵といった昭和初期の作家で、「モダンガールというのはよく絵の中で描かれるのですが、当時の社会ではあまり良い存在としては見られていなかった。無理矢理、洋装をしていてみっともないとかで。男性の作家が理想として描き出す少女の外見と、現実の女の子たちの服装とは常に微妙にズレている。そうしたズレの中で戦前から戦後の少女イメージは流れてきているのではないでしょうか」(川西氏)。

工藤氏は、日本のアノニマスな意匠をタブローにしている岡本光博の《Japanese Minimal Painting》を取り上げ、次のように言及する。

「これはイチゴ模様を描いた作品ですが、イチゴ模様とは女の子を象徴するイメージで、そのルーツは
内藤ルネです。しかし、無数の類似品が出現していく中でもはや本来のルーツがわからなくなるぐらい今では一般化している。文化には模倣を繰り返して普及していく側面があり、現代の目から見た日本の少女文化を考えるきっかけになるのでは」(工藤氏)。

そして、村上氏が紹介するのは石黒賢一郎の《真○○・マ○・イ○○○○ ○○》である。これは一見写真のように思われるほど微細に描かれた油彩画であるが、作品に描かれた少女の視線はまるで鑑賞者を見返すかのようにこちらに向けられている。

アニメの美少女キャラクターにコスプレしていた少女が、普通の服に着替えてドレスオフした一瞬を捉えたかのようで、素の状態を覗き見してしまったようなはしたない気分にさせられる。絵画やコスチュームをめぐる視線の有り様が何重にも張り巡らされている作品です(村上氏)」。
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トークイベントの風景。中原淳一が少女雑誌『ひまわり』に連載していた「みだしなみせくしょん」について解説しているところ。(会場:COROMOZA)
 続いて後半は“ファッションサイド”の登壇者による発表である。

まず最初に筆者から、「少女と洋装化」というテーマの話をした。戦前-戦後を跨ぐかたちで活躍した叙情画家である中原淳一を取り上げ、彼が説く「少女らしく美しい服装」について考察するといった内容である。とくに、戦後間も無く創刊された少女雑誌『ひまわり』の連載「みだしなみせくしょん」に注目した。

柴田氏の発表は、「彫刻と少女」についてだ。近代彫刻になぜ少女はいないのかという問いから始まるトークは、今日の美少女フィギュアにまで繋がる「装飾的な欲望」に焦点が当てられていく。

(フィギュアに見られる)髪や羽、服の皺や食い込みといったものに執着する立体感覚というのは、「彫刻」という概念が日本に輸入される以前の、装飾的な欲望が反映されているのではないでしょうか。その一つが平面的な感覚です。例えば、着物には「柄が立つ」という観点がありますが、人体を平面として捉えて、柄が浮き立つように独立して見えるのが良い着物とされるように、装飾的なものにこそ美を見出す感覚が日本にはあったのだと思います」(柴田氏)。
 
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“少年アリス”(左/1987年)、“オリーブカップル”(右/1986年)ともに「定点観測」から(C)「ACROSS」編集部
最後に、小澤氏が取り上げたのは、少女たちの間でも人気テーマの一つ、『不思議の国/鏡の国のアリス』に由来するアリス・イメージの形成と変貌についてである。ロリータ・ファッションに象徴されるように、日本のサブカルチャーにおいてはアリスの服飾アイテムの記号化(サックスブルーのワンピース、ボーダーのタイツ…)と、男性メインで形成された「少女」記号の女性による領有が起きているのではないか、という主張が展開された。

「1970年代に浮上した、文学的ないし性的な幻想としてのアリス・イメージが、1980年代半ばのアツキ・オオニシなどのファッションの文脈と繋がり、アリスの服という一つの記号を形成、今日の女性が主体的にまとう「少女性の記号」としてのロリータ・ファッションやガーリー・ファッションとして生き続けているのではないでしょうか」(小澤氏)。  

登壇者が多かったことと、それぞれ熱が入った発表が多かったことから、総括の時間なく終了となってしまったが、「美少女」の装いの片鱗には充分迫れたのではないかと思う。

「美少女の美術史」展は、静岡県立美術館(2014年9月20日~2014年11月16日)から島根県立石見美術館(2014年12月13日~2015年2月16日)へと巡回する。ファッション関連の収蔵でも知られる同美術館に、「美少女」に会いに行ってみてはいかがだろうか。

[取材/文:菊田琢也(文化学園大学非常勤講師)]
 
 
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青森市安田字近野185
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