冬の風物詩である石焼き芋。スーパーやコンビニで気軽に買えるようになった一方、どこからともなく聞こえてくる「い~しや~きいも~」の音色を耳にする機会も少なくなっている。
そんななか、ネットやSNSで「デコ焼きいもカーを発見」「すげー派手な焼きいも屋がいた」などと話題になっているのが「金時(きんとき)」だ。思わず写真を撮りたくなるような、ギラギラと光る天守閣のような屋根や赤提灯、竹槍マフラーなどが搭載された「金時」は、石焼き芋販売車。そして、アートユニットyotta(ヨタ)によるれっきとした現代アート作品だ。
yotta(ヨタ)は、木崎公隆さん(35歳)と山脇弘道さん(31歳)による現代アートのユニット。大阪を拠点に2010年から活動しており、「イッテキマスNIPPONシリーズ」として、日本のカルチャーを独自の視点でリミックスした表現活動をしている。
もともと「金時」は、2010年3月の「六本木アートナイト2010」への出品用に作られた作品。軽トラックで売り歩く焼きいも移動販売がなぜ減っているのか、というところから発想を膨らませ、さらに2人が好きだったデコトラを融合して、煌びやかな装飾を施した焼き芋販売者車を作ることにしたのだそうだ。車体には、「国産で最高級の車」(木崎さん)という理由から、トヨタのセンチュリーを選んだ。
「よくよく考えるとき芋屋さんって面白い。ガソリンを積んだ車の上で火を燃やすのはヘンテコですし、謎の音を奏でながらうろうろするのも奇妙。通常でこんなに面白いということは、もっと色々なことができるはずだと思って、自分たちの発想を詰め込んで作品をつくろうと思いました」(山脇弘道さん)。
最初から路上販売を前提としており、法律をクリアするものを作ってきた。2014年3月から約2週間路上販売し、2年目となる今シーズンは2014年10月〜2015年3月半ばまで販売する。
常に改造を重ねており、電飾をLEDに変更したり、少しずつデコパーツを増やすなどして、絶えずバージョンアップしている。BGMとして流れる「い~しや~きいも~」のフレーズをサンプリングしたテクノ・ミュージックもユニークだ。
あまりのインパクトに、車体にばかり目が行きがちだが、実は焼き芋にも抜かりはない。徳島県産「鳴門金時さつまいも」の最高級品種「里むすめ」を使い、石は焼き芋に適した那智黒石(なちぐろいし)を用い、弱火で1時間ほどじっくり焼いている本格的なものだ。「3分に1回はひっくり返さないと焦げてしまうし、手間ひまをかけないとおいしくならないんです」と、まるで職人のように焼き方へのこだわりを話す2人。ネットで情報を調べたり、他の焼き芋屋に聞くなどして研究を重ね、試行錯誤しながら現在の方法を見い出したそうだ。
「自分たちの美術は他の引用をしているので、本物に失礼がないよう、納得してもらえるものを作る。そのことは絶対に守ります。『どうせ美術だろ』って言われるのは嫌ですから、デコトラも焼き芋も最高のものを作ります!」(木崎さん)。
そんな気概が通じてか、NHKのある番組にプロの焼き芋屋として出演したり、トラック専門誌に「デコトラ界のニューウェーブ」として取り上げられるなど、多方面から注目を集めている。また、表参道「COMMUNE246」のオープニングや、クラシックカーの祭典「お台場旧車天国2014」、高円寺商店街のイルミネーションの点灯式など、様々なイベントから出演オファーが相次いでいるという。
出店場所は東京23区内で、ツイッターで出店場所を公開するほか、特設サイトの地図上にGPS表示で現在地を公開している。主な出店場所は秋葉原や原宿、南青山、中目黒などだが、他店のテリトリーでは営業しないという業界のルールをきっちり守っているところにも、職人気質な姿勢を感じる。
取材中も、通りかかる人々が立ち止まって珍しそうに眺め、まさに子どもからお年寄りまで様々な年代の人々がおもしろがっている様子が確認できた。そして驚くほど皆が携帯で写真を撮影している!秋葉原や竹下通りなどでは海外からの観光客にも大好評だそうだ。
「アート」で「デコ車」で「石焼き芋屋」でもある金時。誰もが知っているトラディショナルなモチーフを使い、思わず写真を撮って誰かに知らせたくなるビジュアルはSNS社会にもマッチ。今後さらに多様な広がりを見せていきそうだ。
ちなみに金時は、第18回岡本太郎賞(通称・TARO賞)を受賞。2月3日~4月12日まで岡本太郎美術館に展示される。平日は販売の様子を映像で流し、土日は実際に「金時」が来場し、焼き芋を販売する。
取材・文 緒方麻希子(フリーライター・エディター)