軽く・薄く・消費電力は液晶よりもはるかに少ないという特徴を持つ電子ペーパーを使った、柄が変化する腕時計「FES Watch」というプロダクトをご存知だろうか。ユーザーが時計の文字盤やペルトのデザインを自由に変えて楽しめるというもので、ソニーが社名を伏せたままクラウドファンディングを行なったことで大きな反響を集めたもので、FESとはStartup Project “Fashion Entertainments”の略。このFES Watchと同様の電子ペーパーを使ったボウタイ「e-bow tie」を作るワークショップが12月、渋谷西武百貨店モヴィーダ館の「LOFT&Fab」で開催された。
「&Fab」とは、ロフトの新業態「LOFT&」の中にある多様な工作機械を備えた実験的な市民工房のネットワーク「FabLab渋谷」と「ロフト」がコラボレーションしたデジタル加工工房の名称である。「LOFT&」では「ワンオフ(単品生産品)」や「マスプロダクトのカスタマイズ」を切り口に「“ここにしかない”生活雑貨の新たな可能性」を開発することがひとつのコンセプトであり、「&Fab」は店内で購入した商品をその日に自分で加工することができるカスタマイズ工房である。
「LOFT&Fab」ではハンドメイドやクラフトに関するワークショップを開催しており、今回取材した「e-bow tie」ワークショップもそのひとつ。今回は、電気を通すことで白と黒に色が変えられる、薄くて曲がる電子ペーパーを素材に、ハサミやカッターを用いた簡単な作業で色が変わる蝶ネクタイ "e-bow tie" を作るというもので、筆者らも参加してみた。
参加者は20〜40代の男女で、学生や会社員、主婦などバックグラウンドはさまざま。クラフト系のイベントで見られる参加者よりもさらにライトな層が集まったという印象で、DIYやクラフトへの関心の広がりを感じさせる。
ワークショップのインストラクターを務めたのは、ソニー新規事業創出部 FEプロジェクトの瀬川真智子さんと2人の学生インターン。参加者が素材選びから手順に沿って作業をこなしていくのを、3人が要所要所で手伝ってくれる。蝶ネクタイの完成までに要した時間は約1時間だ。
構造はシンプルながら、素材の選び方やパーツの組み合わせ次第で、10数人という人数でもバリエーションの広がりがみられた。ワークショップで作ったボウタイの用途を参加者に尋ねてみると、パーティーでの着用や単身赴任中のお父さんが息子へのクリスマスプレゼント、新婚の夫へのクリスマスプレゼントなどといった答えが返ってきた。
こうしたものづくり系ワークショップの広がりの背景にあるのは、DIYやクラフト趣味の広がりというハンドメイドへの指向だけではなさそうだ。皆で同じものを作る、あるいは共同作業をするといった行為と、過程で生じるコミュニケーションそのものが求められている。ひとりではなく“みんなで作る”というのがポイントなのである。
「最近は部活やチーム、友達同士でお揃いのものを作るというケースも増えています。渋谷ロフトでもタレントの千秋さんとママ友作家さんたちの手づくり作品を集めた「ハロー・サーカス」というイベントを開催したのですが、参加者の皆さんの仲間意識がとても強かったのが印象に残っています。秋に開催したイベント「大人の文化祭」あたりから「手作り」と「仲間」という2つがキーワ—ドになってきています」
と株式会社ロフト・営業企画部 広報・企画担当の横川鼓弓さんは話す。
ちなみに、「コミュニケーション」が消費行動において最優先されるさまは、ストリートファッションにいち早く表徴されていたことは、定点観測でも証明済みである。
一方、ファッション×ITによる可能性というトピックも近年盛んに議論されるようになっている。今回このようなウェアラブルなファッションアイテムに、デジタル技術を使った新しい機能が加わることで、よりコミュニケーションを生み出しやすいデバイスになりそうだ。
色が変わる、音を出す、メッセージを乗せる、といったことがファッションアイテムに加わってくれば、ファッション(服)もメディアになる可能性もある。このe-bowtieにしても、細部に工夫を加えると立派な商品になりそうだ。パルコの自主編集ショップ「ミツカルストア」でも販売したいところである。
色が変わる、音を出す、メッセージを乗せる、といったことがファッションアイテムに加わってくれば、ファッション(服)もメディアになる可能性もある。このe-bowtieにしても、細部に工夫を加えると立派な商品になりそうだ。パルコの自主編集ショップ「ミツカルストア」でも販売したいところである。
eペーパーを使ったファッションアイテムを提案しているStartup Project “Fashion Entertainments”(FES)は、Sonyの社内のスタートアップとして始まった。「デジタル化でファッションの新しい楽しみ方を創出する」というビジョンを掲げ、ネクタイやアクセサリーなど、身につけるさまざまなアイテムにeペーパーを用いる研究開発を行っている。
スタート時はサイバーエージェント社のクラウドファンディング「Makuake(マクアケ)」に参加して商品化を検討。当初ソニーの社名を隠したのは「FES Watch」が純粋にプロダクトとしてどれくらい需要があるのかをテストしたかったからだという。興味深いのは、社名を明らかにしたとたん、当初設定していた目標金額を大きく上回る投資が集まっただけでなく、よりインパクトのあるニュースとなったことである。
Appleの「Apple Watch」に代表されるIT機器メーカーが開発するスマートウォッチは、webの閲覧やカメラ、音楽や映像の再生といった機能を搭載した、超小型の携帯型情報デバイスとして開発されたばかり。しかし「FES Watch」はそれとは逆の「シンプルな腕時計」という、ファッションアイテムとしての電子時計という新しい方向性を示したともいえそうだ。
「身に着けることができるデジタル機器」ではなく、「ファッションの楽しさをデジタルの力で拡張するアイテム」という方向性のもとで、今後もっと新しいプロダクトが登場してくることを期待したい。
「&Fab」を共同運営するFabLabをはじめとするファブリケーション・スペースやシェアアトリエでも、クリエイターだけのクローズドなつながりだけではなく、外部への広がりも同時に求められている。デジタルとファッションが融合したアイテムは、こうした「つくる人」と「使う人」のオープンな交わりの中から生まれてくるのではないだろうか。
取材・文 本橋康治(ACROSSコントリビューティング・ライター)+ACROSS編集部
LOFT&Fab
〒150-8330
東京都渋谷区宇田川町21-1
西武渋谷店 モヴィーダ館 Loft& 7F
営業時間 13:00-21:00(受付は20:00まで)
tel: 03-6416-3335
mail: info@andfab.jp
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