本は読むためだけにあるわけではない。表紙や装幀など、本にはモノとしての価値がある。
アベニューAの「MAST BOOKS(マストブックス)」ほど、それを実感できるところはない。古書ビジネスで経験を積んだオーナーが2010年にオープンした書店だ。「マストブックス」のオーナーは見た目で本を選ぶと明言する。そこに書かれていることよりも、モノとしての側面を重視するようだ。「形から入る」人は世の中に少なくない。
「マストブックス」が取り扱う本は幅広い。先日訪れたときには、セリーヌの「なしくずしの死」と三島の「金閣寺」が並べてあった。どちらも米国の初版で、特徴のある表紙のイラストが目をひく。そうかと思うと、アートの理論誌「オクトーバー」の創刊当初の号がそろっていたり、書体デザイナーのヘルマン・ツァップによる小ぶりの冊子がさりげなく入口に置かれていたりする。
どうやら本人がいうほど内容が軽視されているわけではないようだ。特徴のある本ばかりだが、手が届かないような高価なものは少ない。廉価のペーパーバックも多く、今日はどんな珍しいものがあるだろうかとつい立ち寄ってしまう。