SUPER8SHOES(スーパーエイトシューズ)
レポート
2015.06.05
ファッション|FASHION

SUPER8SHOES(スーパーエイトシューズ)

世界で唯一(?)のアメリカ古靴店
ひとつのアイテムに特化した“専門古着屋”の小さな波

古着文化が多様化してきている。1980年代中盤以降、「古着=ヴィンテージ」という絶対的な価値観は不変だったが、ここ数年で「OTOE(オトエ)」、「KINCELLA(キンセラ)」、「Sullen Tokyo(サレン トウキョウ)」「PINNAP(ピンナップ)」「10-9(トーク)」など、90年代の古着やレギュラーに新しい価値を見出した新世代の古着屋(主な担い手は90年代生まれの新人類ジュニア)が台頭。ヴィンテージとレギュラー古着をまんべんなく並べた旧態然とした中庸なショップに逆風が吹いているのは、以前から本サイトでも何度かリポートしてきた。

では、アメカジのヴィンテージ文化は死んでしまったのかというと、決してそんなことはない。日本での盛り上がりは確かに欠けるのかもしれないが、本国のアメリカはもちろん、日本と同様にアメリカへの憧れがあるヨーロッパ、アジア諸国での需要はうなぎ登りで、タイなどではヴィンテージのデニムシャツが日本の数倍の相場で取引されているとも聞く。他に先駆けてアメリカ古着をどん欲に掘り続けた日本は、ヴィンテージの“埋蔵量”に関しては本国を遥かに凌ぐ規模にある。そうしたお宝にインバウンド消費の波が押し寄せるのも時間の問題だろう。

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店内にはその場で修理ができる修理コーナーを設置。ちょっとした修繕からオールソールまで、何でも対応してくれる。
そんな古着大国日本で、今ひそかに増えてきているのが、ひとつのアイテムに特化した“専門店”だ。今回紹介する「SUPER 8 SHOES(スーパーエイトシューズ)」は、アメリカのヴィンテージのドレスシューズに特化した世にも珍しい店である。昨今、ヴィンテージシューズは世界的に静かなブームになっており、オークションサイト「eBay」でヴィンテージシューズの相場が急騰したり、イタリア・ミラノのセレクトショップ「ERAL55(エラル チンクワンタチンクエ)でも入念にメンテナンスされたアメリカのヴィンテージシューズが誇らしげに置かれていたりする。それでも、世界広しといえど、ヴィンテージシューズ専門店を謳う店はきっとここだけだろう。

オーナーの堀口崇氏は、渋谷の名店「TEX(テックス)」のバイヤーを経て、2009年 にヴィンテージシューズ専門のウェブショップを立ち上げた。その時点で、アメリカ古着の歴史体系と価値体系はほぼすべてのアイテムで解明されていたが、唯 一、カジュアル色の強い古着と相性の悪いドレスシューズだけは手つかずのまま残されていた。堀口氏は当時をこう振り返る。「古靴界のリーバイス501的存 在のフローシャイムのケンムーアでも7000円くらいで売っていて、モノのクオリティ、魅力の割にはお得感があった。既に存在しないクオリティの高い無名 なブランドがたくさんあることに気づいていたし、アメリカの古靴はブーツを除けば未開拓の状態だったので、この分野に賭けてみようと思った」
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夏場に最適なサマーシューズも豊富に在庫している。左下の推定1940年代の逸品から70年代の気軽に履けるものまで選り取りみどり。
で、意気込んでアメリカに買い付けに行ったのだが、2週間で7000km近くレンタカーを走らせてアメリカ中を廻った果実は、決して芳しいものではなかった。「ドレスシューズに関しては、アメリカのほうが日本より気づきの時間が早く、5年前の時点でマニアが地方のめぼしい靴屋を廻っており、1930〜50年代のデッドストックの本当のお宝ものは枯渇していた」のだという。それでも、年4〜5回アメリカ中を走るうちに、いい靴を優先的に回してくれるディーラーやショップの知り合いも増え、毎回400〜500足を確保できるようになった。前述のフローシャイムのケンムーアをはじめ、60〜70年代の価格と価値のバランスに優れたネオ・ヴィンテージをサイトで打ち出した結果、それに呼応するように日本でも少しずつヴィンテージシューズに注目するマニアが増え、お店は徐々に軌道に乗り始める。そしてこの3月、以前から夢だった「古靴好きが集まるサロンのような店」を東京・千駄ヶ谷にオープンした。足掛け6年、古靴とともに生きてきた男の牙城がついに形になったのである。

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アメリカの古靴のサイズ選びは、足幅(ワイズ)が細いものが多いので、初心者には分かりづらい。店内の約200足の在庫は、実寸ベースのサイズ別で置かれている。
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古靴はもちろん、メンテナンス器具や什器も旧き良き時代のアメリカの雰囲気。アメリカ好きなら、ついつい長居してしまいそうだ。
店内は靴好きのシャングリラである。今はアメリカ靴といえば、「Alden(オールデン)」か「Allen Edmonds(アレンエドモンズ)」くらいしか本格的なブランドは残っていないが、1950年代くらいまでは数多のブランドがあり、デザインの新しさとクオリティを競いあっていた。アメリカ古靴界のリーバイス的存在の「Florsheim(フローシャイム)」、オーソペディック(整形外科靴)シューズのブランドとして名を馳せた「Foot So Port(フットソーポート)」、質実剛健な作りが魅力的な「HANOVER」、かつて靴のロールスロイスと形容された「NETTLETON(ネトルトン)」などが代表的な存在で、同店ではこうしたブランドの1930〜2000年代の程度の良いユーズドシューズ、デッドストックを200足以上(ウェブショップは500足以上)揃えている。戦前のスペシャルなデッドストックは10万円を超えるが、1980〜90年代のものは1万円代前半からあり、クオリティと価格のバランスがいい1960年代のものでも2万円前後で買える。言うならば、新品のオールデンのコードバンは10万円を超えるから、1足の予算でそれに負けないクオリティのものが5足買えるということ。相場は上昇傾向にあるが、それでもまだまだお得感は残されているのだ。
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古靴はアッパーだけでなく、コバをメンテナンスすると見違える。こんな普通の修理屋では難しい修理も難なくこなしてくれる。
店内には修理・カスタム部門も併設している。なかでも力を入れているのが、茶色のシュー ズをグリーンやブルーなどの好きな色に染めるプラン。もともとはお客さんだった革を熟知した職人が、顔料ではなく染料でていねいに染めるので、とくにコー ドバンは驚くような仕上がりになる。某フランスブランドのように3色でグラーデーション風に染めたり、パープル色のコードバンなんて無茶な注文も可能で、 自分だけの1足をオーダーすることができる(コードバン1色で1万3986円)。修理料金は「街の靴屋基準」で、トップリフトのゴム交換で2700円〜、 スチールトゥの打ち付けで2700円〜、オールソール交換で1万5000円〜とリーズナブルに抑えている。修理部門を担当する大高博未さんは「できるだけ オリジナルの雰囲気を崩さずに、長く履けるように修理をしたい」と意気込む。

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同店が力を入れているのが、靴のアッパーを染料で別の色に染めるカスタム。 手前のように迷彩柄なんて難しいオーダーも可能。
日本の洋服文化は衰退期にある。間違いなく若い世代が洋服を買わなくなってきているし、90年代のようなファッションに対する熱はとうの昔に街から消え失せている。でも、この店におっかなびっくり入ってくる人たちは、明らかに熱を持っている。大学生の時に買いたくても買えなかった靴を見つけて喜ぶ70過ぎのおじいちゃん、長年探していた1足を見つけて感涙にむせぶビジネスマン、入学式用にアレンエドモンズのパークアヴェニューを買って古靴にハマり、お金が貯まるごとに違うブランドを買い足している大学生……。すごく小さな火なのかもしれないけれど、ここには日本の洋服屋に失われて久しい何かがあるような気がするのだ。

【文:増田海治郎(ファッションジャーナリスト)】
【写真:島村幸志】


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