神奈川県相模原市の矢部駅から歩くこと約15分、国道16号の道路沿いに、ジャンクからアンティークまで様々な古道具を扱うショップがある。今年でオープン14年目を迎える「古物百貨店 ALL TOMORROW’S PARTIES(コブツヒャッカテン オールトゥモローズパーティーズ)」だ。
編集部の会議にて、“アクセスは悪くてもわざわざ足を運びたいお店”としてキーワードに上がったことや、ファッション業界人のインスタグラムに度々アップされていたり、実は筆者も同店のファン(!)であったことから、改めて取材することにした。
運営元は東和相模株式会社で、オーナーは富岡栄二さん(41歳)。
「元々は、映画や音楽が好きだったので、アルバイトをしながら、絵を描いたり音楽をやったり、映画を撮ったりしていました。20代前半の時の師匠との出会いがこの業界に入るきっかけでしたが、特に心を惹かれたのが古物の取引が行われている市場です。今でこそ色んな業者が絡みシステマライズされていますが、まだまだリサイクル業が隙間産業だった当時、そこに集うのもジプシーのようなアウトサイダーな人たちが多く、その独特の世界観に魅力を感じてハマっていきました」(富岡さん)。
当時は、リサイクル専門の業者や市場に買い付けに来る中古家具屋といった競合が存在しなかったため、自身で市場を開拓していくことが可能だったという。しかし、99年のヤフーオークション(現:ヤフオク!)のサービススタート以降、中古品の相場でき、市場が拡大するとともに競合も急増。さらに、大手企業の業界への参入なども目立ち始め、これまでと同じスタイルでの商いを続けることは難しいと感じ、本格的に事業化しようと27歳で現在の場所で開業した。
富岡さんの父親が営んでいた建材屋の事務所と倉庫をリノベーションしたという同店は、ショールームのような約20坪のショップと、大型の家具などを中心に揃える約50坪の売り場兼倉庫の構成だ。
箪笥や椅子といった大小様々な家具、絵画やヴィンテージの映画ポスター、レコードやカセットテープ、フィギア、中には昭和初期に作られた酒屋の看板のようなヴィンテージメディアと呼ばれるものなど、年代や国もジャンルも様々な商品が並んでいるが、不思議と統一感があり、空間全体がアート作品のような印象を受ける。商品の価格帯は、ジャンク品と呼ばれる100円のものから、100万円の美術品までと幅広い。
店名の「ALL TOMORROWS PARTIES」は、60年代に活躍したバンドThe Velvet Underground& Nicoの曲名から取ったのだそうだ。
「幅広いシーンに影響を与えてきた大好きなバンドで、その歌詞が自分のやりたいことにぴったりと合ったんです。“百貨店”としたのは、ジャンクからアンティーク、和物から洋物、家具や雑貨までと幅広く揃う“百貨店”のような店を開こうと考えていて、ある本で“百貨店はいつもの忙しい生活を忘れるような夢の世界のような場所だった”という一説を読み、そういう“ハレの場”を作りたいと思いました」(富岡さん)。
客層は、買い付け目的の業者が中心だそうで、ここ数年は、ファッション業界から古道具屋に転身する人の姿も目立つという。また、インテリアコーディネーターやデザイン事務所の関係者、開業用の家具を探しにくる飲食店や美容室のオーナーの来店も増えているそうだ。
2013年10月に同じく矢部駅近くに2号店「PRE-HUB(プレハブ)」をオープン。食器や雑貨、ガーデニング用品などを中心に揃え、近隣の若い女性に人気となっているという。
「もちろん業者以外の方もいますが、もともとうちにくるお客さんって、昔から、アーティストやクリエーターだったり、豊かな感性の持ち主というか、変わった方が多いんです(笑)。そういう人は、近郊遠方問わずどこからでもやって来ます」(富岡さん)。
現在、楽天市場での自社サイトの他、ネットオークションショップとして、工業系や店舗什器系の「flyingdigman」、アンティーク家具の「honelupin」、ユニークな家具やインテリア雑貨の「rout16man」、古本やアート、レコードなどを扱う「abekobebooks」の4店舗と古物商市場での業販の売上がメインだとそうだが、3~4年ほど前から、お店のリノベーションの依頼が増え始め、現在は、グラフィックデザイナーやイラストレーター、花屋、ガラスや鉄職人といったクリエーター仲間とともに、県内を中心に、飲食店や美容室などさまざまなお店の店舗制作、デザイン制作、什器制作、デコレーションだけでなく、HPの制作などトータルで手掛けるケースも増えているそうだ。
「昔に比べて実際にお店に来るお客さんは大幅に減ったし、商品も“面白いから買う”っていう人が少なくなりましたね。例えば、ビーカーやフラスコのような商品があるときライフスタイル雑貨としてメディアで取り上げられると一斉に売れたりしますが、そういう風に“カタログ化”されたものが求められているように感じますね」と富岡さん。
「今後の目標は、お店をずっと続けていくこと。実は事情があって後2~3年後にはここを出て、別のところに移転する予定ですが、相模原市か町田市で探すつもりです。都心に出て行くつもりはありません」(富岡さん)。
実は、今年の春に世田谷文学館で開催されていた企画展「植草甚一スクラップ・ブック」展のイベントに出店の声が掛かり、展示会場に植草氏のバックグラウンドを商品で表現したポップアップショップを出店したそうだ。
「これまで、『東京蚤の市』や『Go Green Market』などライフスタイル系のイベントに生活雑貨・古道具屋として呼ばれることが多かったのですが、今回そこに文化的な価値というか文学的な文脈を汲み取って貰えたことが嬉しかったですね。今後は、もっとそういう面で世の中にアプローチしてきたいです。
これは、開業当時から考えていたことですが、将来は古物商という映画界の局外者ならではの映画を撮りたいと思っています。うちにやってくるクリエーター達も巻き込んで、ジャンルは問わず面白いものを製作してみたいです」(富岡さん)。
今年9月より、買い取り金額分の物々交換や値引きや行う「物々交換」のサービスも新しくスタートするなど、“DIY精神に溢れた独創的なビジネス”を東京郊外で邁進中だ。
取材・文 『ACROSS』編集部 仲村あゆみ
古物百貨店 ALL TOMORROWS PARTIES
電話番号:042-776-8870
営業時間:12:00〜21:00
定休日:火曜日