ONOMICHI U2/ONOMICHI SHARE/NPO法人空き家再生プロジェクト
レポート
2016.01.15
ライフスタイル|LIFESTYLE

ONOMICHI U2/ONOMICHI SHARE/NPO法人空き家再生プロジェクト

過去最高の観光客数を記録した広島県尾道市の再生事例

1999年にしまなみ海道が全通して以来、サイクリストの聖地として浸透した広島県尾道市。近年、多様な試みで街の活性化に取り組んでいる。今回はその中からユニークな事例をいくつか紹介したい。

■ONOMICHI U2(オノミチユーツー)

2014年3月にJR尾道駅から徒歩10分の場所に開業したONOMICHI U2(尾道ユーツー)。オープンから2年弱を迎え、国内はもちろん、世界各国から多くの人が訪れる話題のスポットとなっている。

築70年の県営の海運倉庫をリノベーションした複合施設で、日本初となるサイクリスト向け宿泊施設、レストラン&バー、ショップ、自転車専門店などで構成されている。そもそもは広島県による公共施設の活用事業の一環で、市街地に比べて集客が少なかったJR尾道駅より西側エリアのにぎわい創出のため、事業計画を公募し複合施設として生まれ変わった。
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ONOMICHI U2を傘下に持つディスカバーリンクせとうちグループは、繊維会社を経営する出原昌直さんを中心に、地元出身の数名によって2012年に設立された。雇用の創出を目標に掲げ、尾道市内の歴史ある建物を気鋭の建築家が改装して貸家として甦らせた「せとうち湊のやど」、市民が実際に履いてユーズドデニムを育てる「尾道デニムプロジェクト」などユニークな事業を次々と行っている。

「広島は、もともと造船や鉄鋼などの製造業が大きな割合を占めています。昨今の生産拠点の海外シフトと人口流出に危機感を感じ、設立に至りました。尾道の豊かな自然と地場産業を活かして雇用を創出するのが目的です」(同社マーケティング&コミュニケーション部部長 井上善文さん)
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ONOMICHI U2(オノミチユーツー)のデザインは広島県出身の建築家、谷尻誠さん率いるSUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)に一任した。約2,000㎡という広大な敷地の約1/3がホテル、残り2/3がショップスペースになっている。

この施設の核となっているのが、サイクリスト向け宿泊施設「HOTEL CYCLE(ホテルサイクル)」。計28室で、自転車に乗ったままチェックインでき、部屋に自転車を持ち込めたり、共有スペースには特製サイクルハンガーやメンテナンス用具が揃っていたりと、サイクリストに特化したサービスを提供。欧米や台湾、タイなどからの利用客も多いそうだ。

自転車メーカーGIANT STORE(ジャイアントストア)もあり、自転車の販売や修理、メンテナンスを提供。キッズから本格的なサイクリストまで対応するスポーツバイクもレンタルしており、手ぶらで訪れてもサイクリングを楽しめる。
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ショップスペースは、The RESTURANT(ザ レストラン)、KOG BAR(コグバー)、Yard Café(ヤードカフェ)、Butti Bakery(ブッチベーカリー)といった飲食店と、アパレル・雑貨をセレクトしたshima SHOP(シマショップ)で構成されており、すべて直営。飲食店では、できるだけ地元の食材を使い、特産品を活かしたメニューを提供するなど、地産地消の取り組みを行っており、物販コーナーでも、備後がすりや尾道帆布など伝統工芸品や民芸品を現代的にデザインした商品や、地元の生産者と共同開発したオリジナル商品などを豊富に取り揃えている。

「当初は、県外からお越しになる方をメインに考えていましたが、ショップゾーンに関しては予想以上に県内のお客様に多くお越し頂き、驚いています。尾道の魅力を外に向けて発信するのはもちろん、地元の皆さんにも再認識して頂けるよう、双方にアピールして行きたいと思っています」(井上さん)。

取材時にも、サイクルスーツに身を包んだサイクリストが居る一方で、出張中のビジネスマンや若いカップル、子連れファミリーなど幅広い年齢層が訪れており、商業施設として地域に根付いている様子が感じられた。

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尾道の本通り商店街沿いに位置する「ONOMICHI DENIM」のショップ。左隣はディスカバーリンクせとうちのオフィス。
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実際に尾道市民が1年間履いて育てたデニムたち。お坊さんや清掃業者、保育士、大工さんなど、職業やライフスタイルによって色落ちや味わいが異なるオンリーワンのデニムが出来上がる。

■ONOMICHI SHARE(尾道シェア)

2015年1月にオープンした会員制シェアフロアONOMICHI SHARE(尾道シェア)も、ディスカバーリンクせとうちが手がけるプロジェクトのひとつだ。

尾道市の「おのみちサテライトオフィス誘致事業」の公募型プロポーザルに同社が採用され、市が所有する倉庫の2階部分をリノベーションして、大型シェアフロアへと生まれ変わった。
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ベランダから尾道水道と向島が一望できる。この景色も会員制シェアフロアの大きな魅力。
こちらも、尾道水道に面した倉庫の2階をリノベーション。370平米のワークフロアにはフリーアドレス制の70席と、ミーティングやセミナー等に対応するセッションフロア、2つの個室を完備。ロッカーやシャワーも完備されており、24時間利用可能。目前に広がる海を一望できるテラスも大きな魅力だ。

賃料は、個人が月額1万円(入会金1万円)で法人は5万円(同5万円)。コンシェルジュが常駐し、近隣のおすすめのエリアを紹介する。アンティーク家具を配置し、クラシカルな雰囲気だ。

尾道市への定住促進・雇用の創出を目的としていたため、オープン当初は、会員資格を個人は市外、法人は県外に限定していた。しかし、遠方からの会員と地元に住む人々が交流を図る場になればという思いから、7月以降、在住者でもドロップイン利用できるように変更した。

「会員の半分が東京、その他四国・中国地方の方が半分。企業の福利厚生等でご契約頂いているほか、ソーシャルワーカーやイベントプランナー、デザイナー、web系に従事するフリーの方々など、様々な業種の方にご利用頂いています。2〜3名で起業したばかりの方がオフィスとしてご利用されるケースもあります」(尾道シェアコンシェルジュ 岩渕さん)
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また、一般的なコワーキングスペースと異なるのは、アクティビティの提案が充実している点である。レンタサイクルや釣り道具を無料レンタルしたり、瀬戸内クルージングサービスなどを提供。さらに毎年夏に開催される「おのみち住吉花火まつり」では、同施設の目の前から花火が打ち上げられ、絶好の観覧スポットになるという。

「コンセプトは『働く+遊ぶ』。場所柄、レジャーやリフレッシュを求めている方が多く、遊びや学びの多目的拠点としても使って頂けたらと思います」(岩渕さん)

尾道市政策企画課の発表によると、2014年の尾道市の観光客数は約641万人で、過去最高を記録。うち外国人は約13万人と前年の40%増となっている。「国際サイクリング大会」などの大規模なイベント開催やPR活動に加え、円安も追い風となっているという。インバウンドの観点からも成功しているという訳だ。 


■NPO法人空き家再生プロジェクト

古くから瀬戸内海交通の要港として栄えた尾道には、海運業などに携わる富豪が多く、寺院が多く建立された。尾道三山の斜面に立ち並ぶ民家は、尾道を代表する風景であり、明治・大正時代に建てられた建築物も多く現存していることから、貴重な観光資源となっている。

しかし、それら家屋の多くは急斜面に建てられているため、車が入れず立て替えも困難。特に高齢者にとっては住みにくい環境であるため、再開発された駅周辺のマンションに移る人も多く、空き家化が進行していった。その結果、約1,200戸のうち実に約1/4が放置される状況が長らく続いていた。 
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旧和泉家別邸、通称尾道ガウディハウス。昭和8年に一人の職人によって3年かけて建築された。
25年間空き家となっていたが、2007年に豊田さんらにより改修され、尾道の空き家再生のシンボルになっている。
そこで立ち上がったのが、豊田雅子さんが代表を務めるNPO法人空き家再生プロジェクトだ。尾道出身の豊田さんは、昔ながらの街なみが失われていく事に強い危機感を感じ、2007年に通称ガウディハウスと呼ばれる旧泉家別邸を購入し、大工である旦那さんとともに再生に乗り出す。

その後、2008年にNPO法人空き家再生プロジェクトを設立すると、市と連携して100軒以上の空き家を再生しながら、空き家と移住者のマッチングサービス「空き家バンク」を提供。移住・定住支援を行いながら、ゲストハウス「あなごのねどこ」を運営して雇用を生み出したり、大学と連携して尾道の都市・建築研究を行うなど、幅広い活動を通して地元と移住者とのネットワークを形成してきた。
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ゲストハウス「あなごのねどこ」。商店街にある眼鏡店の店舗兼住居だった建物を再生。
1Fの「あくびカフェー」では、移住者や長期滞在者がスタッフを務める。
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 その結果、2009年から2015年現在までの移住者は約110人にのぼっており、20〜30代の若い世代を中心に、移住者が増えているという。
 
移住者の中には起業する人も多く、男性3人によるビーントゥバーチョコレート工房「ウシオチョコラトル」や、若い夫婦による「ネコノテパン工場」、アーティストに滞在してもらいながら創作活動をしてもらう「AIR Onomichi(アーティスト・イン・レジデンス・オノミチ)」など、新たなビジネスや活動が続々と生まれている。さらに、こういった活動に参加するために、休みを利用して長期滞在する旅行者も増えるなど、多方面に派生しているのである。
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純和風の作りは海外からの宿泊客にも人気。ちなみに店名の「あなご」は尾道の特産品である。
  観光・サイクリング・建築の地域資源を活かし、次世代に繋がる活動が勃興している尾道。「地方にしかできない事を発信し、それを続けて行く事が大切」(井上さん)という言葉の通り、今回の取材を通して、地元の人々や移住者から、使命感と共に、リスクを背負ってでも地域を良くしていきたいという思いをひしひしと感じた。尾道の事例は、官民一体となった地域活性化の成功例といえそうだ。

取材・文 菅原 三知代(ACROSS編集部)


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