2010年3月、渋谷区神泉町に移動販売コーヒーショップ「レオンカーゴ」がオープンした。オーナーの猪瀬孔明(37歳)さんはVシネマを中心に活躍する役者さんである。俳優業と平行してバーやクラブで働いていたが、子供ができたのをきっかけに、「毎朝酔っ払って帰ってくるのを見せたくなかったし、朝、子供達に『行ってらっしゃい』と見送られたかったので」、身内に紹介された空きスペースを利用して「レオン・カーゴ」をオープンした。飲食業界での経験が長かったこともあり、「オフィス街に近く、ある程度人通りのあるこの立地ならお店をやっていけそう」と感じたそう。
「お店のコンセプトは、地元の企業戦士の休息の場所。喋りたい人は喋っていける、仕事をさぼって本を読みたい人はゆっくり読んでいける、そんな気楽な店でありたいです。人がいる自動販売機くらいに思ってもらえればいいですね」(猪瀬さん)
店名の「レオンカーゴ」の由来は表参道と明治通りの交差点脇、旧原宿セントラルアパートの1階で営業していた「レオン」という喫茶店から。1970〜80年代に若きクリエーター達のたまり場となっていた伝説の喫茶店である。たまたま(!)猪瀬さんの義祖母が「レオン」のオーナーだったこともあって、人が集まる場所になって欲しいという願いを込めて「レオン」の名前を引き継いだのだそうだ。
「自分は10代の頃に渋谷の『ワンダーボール』というBARに通っていました。そこに出入りしていた先輩に憧れて役者を志望するようになったし、お店を開く時も当時知り合った友人たちが協力してくれました。開店にあたって人とのつながりの大切さを再確認しました」(猪瀬さん)
店名のもう一方の由来でもあり、遠目からでもひと際目を引く銀色のカーゴ(車体)は、わざわざフロリダから船便で取り寄せたものだそう。到着後、日本の車検規格に適合するよう改造し、キッチンの内装など、電機と水道以外は全て友人達と手作業で行ったそうだ。
「ボディはエアストリームというトレーラーです。キャンピングカー仕様になっていることがほとんどなので、販売車仕様になっているのは珍しいと思います。フロリダで子ども向けのジュースやシェーブアイスの販売車として利用されていたようです。ネットで見つけた時、自分がイメージしていた販売車とぴったりだったので、一念発起して購入しました」(猪瀬さん)
看板メニューのコーヒーはかつての「レオン」の味を参考にしているそうだ。「レオン」のオーナーだった「おーばーば」(おばーちゃん)曰く、「店を始めたばかりの頃は全然似ていなかったけれど、最近はちょっとクセが出てきて、それらしくなってきた」、とのこと。
コーヒーの他に軽食も販売している。とくにピーナッツバタートーストとホットドッグが人気だそう。
「ピーナツバターは駒場東大前の『かど屋』というパン屋さんの手づくりで、さっぱりした甘さがオススメです。ホットドッグのパンは福田さんという近所のパン職人の方に作ってもらっています。地元に貢献したいというほど大げさだけではないけれど、どうせやるなら地元の方がいい。発注の個数も融通が利くんです。『パンが売り切れたから今から買いに行ってもいいですか』とか。ロスを抑えることは小さいお店では重要なことです」(猪瀬さん)
「お昼にがっつり食べるというよりは、忙しくて朝食や昼食を食べ損ねた時にコーヒーと何か食べられるものがあればいいなと考えて、片手でサッと食べられるホットドッグを販売することにしました。気軽に来たお客さんがホットドッグ食べて『オッ、意外とうまいな』という顔をするのを見るのが嬉しいんです」(猪瀬さん)
客層は、出社前やランチ後にテイクアウトでコーヒーを買っていくサラリーマンやOLがメインで、他にも保育園の送り迎えの際に近所のお母さんが訪れるという。朝7時頃にクラブ帰りの若者が寄っていくこともあるというのが渋谷らしい。
「気さくな店でありたい」という猪瀬さんの言葉通り、インタビュー中も常連のお客さんやご近所さんが「ヨッ」、「こんにちは」と声をかけて通り過ぎていくのが印象的だった。
平日は現在の場所で営業しつつ、将来的には週末や連休に野外イベントやキャンプでの営業も考えているとか。原宿から渋谷にやってきた「レオンカーゴ」の今後に注目したい。