Libertin(リベルタン)
レポート
2011.08.04
フード|FOOD

Libertin(リベルタン)

ビストロ料理と自然派ワインでもてなす渋谷の隠れ家ブラッスリ—

味わいのある家具が馴染む店内。 テーブル席10席、カウンターは6席にスタンディング&ウェイティングスペースも用意している。
テーブルにメニューはなく、黒板を見てオーダーするのが「リベルタン」式。ワインは客の好みや料理との相性で柴山さんがチョイスしてくれる。
自然派ワインは味はもちろんオリジナリティ溢れるラベルデザインも魅力のひとつ。個性豊かなラベルはまるでCDジャケットのよう。
圧迫感がない抜け感のある環境が気に入ったというだけあり、渋谷と原宿の中間とは思えぬ落ち着いた場所。
鮮やかなブルーがメインカラー。ブラッセリーというとボルドーをイメージしがちだが、あえて紫藤さんの好きな色をチョイスしたそう。
サービスの柴山さん(左)と、オーナーシェフの紫藤さん(右)。

 東京・渋谷の明治通りからキャットストリートに入ってすぐ、「アメリカンアパレル」がある路地を道なりに進むと、街の喧騒からほど良く解放される裏道へと続く。その路地裏に、2011214日、ビストロ料理と自然派ワインが楽しめる「Libertin(リベルタン)」がオープンし人気となっている。

オーナー兼シェフを務めるのは、紫藤喜則さん(36歳)。紫藤さんは20代半ばだった2000年頃から当時カフェブームを牽引した「バワリー・キッチン」に勤め、28歳の2004年に代々木上原のビストロ「ル・キャバレ」などの立上げに携わりシェフに就任。2007年からは、外苑前のビストロ「レジドア」でシェフを務めた。独立のきっかけは、20108月末に「レジドア」が閉店したこと。もともと独立を考えていたこともあり、閉店後から準備をはじめ、自分の店を構えるに至った。サービスは、「レジドア」の同僚だった柴山健矢さん(30歳)が務めており、2人で店を切り盛りしている。

店名の「リベルタン」はフランス語で“自由人”の意味。ビストロともフレンチとも謳わず、店名のとおり型にはまらない自由な発想から生まれる料理を提供する。カジュアルな雰囲気のなかで、おいしい料理やワインを楽しんでもらいたいというのが、「リベルタン」のモットー。

「かしこまって食事をしに来るよりも、遊びに来るような感覚で気軽に利用してほしいと思っています。自分自身もそういう店の方が好きなんです。どこかで食事をした後に、ワイン1杯だけ飲みに寄る。夜中の2時まで営業しているのは、そんなふうに気軽に立ち寄ってほしいから」(オーナー兼シェフ/紫藤喜則さん)。

食事のベースは、フランスの伝統的な家庭料理。ソースを繊細にかけるような料理ではなく、例えば肉を焼いて塩こしょうをふったようなシンプルなものが中心だ。

「独立前は凝った料理もつくっていましたが、今はお客様をお待たせしないでスピーディーに料理をお出ししたいと思っています。店内ではそのときの気分でジャズやエレクトロニカなどの音楽をかけていますが、音楽に合わせるようにテンポよく料理を提供して、お客様にも良いリズムのなかで食事を楽しんで頂ければと思っています」(紫藤さん)。

メニューはアラカルトのみで、1皿に23人前の量を盛ったボリューム感も特徴。これは、シェアしてもお腹が満足するようにという紫藤さんの心遣いだ。メニューは前菜が700円〜、メインが2,200円〜3,000円前後で、「豚肉のリエット」(700円)や「お肉のパテ」(1,200円)、「野菜の惣菜盛り合わせ」(1,200円)、「鴨のコンフィ」(2,200円)、「自家製ソーセージとシュークルート」(2,500円)など。平均客単価は6,0007,000円。

ワインは紫藤さんと柴山さんが好んでいるという、自然派ワインにこだわり揃えている。一般的に自然派ワインとは、農薬を用いず有機的な農法で育てたブドウを使用しており、酸化防止剤といった人工添加物を極力使用しないなど、できるだけ自然な手法で作られたワインのことを言う。「リベルタン」ではワインリストは設けず、柴山さんが客に好みなどを聞いて、約50種のワインのなかから最適なものを提案している。繊細な自然派ワインは一般のワインと比べて栓を抜いてからの変化も大きいため、同じボトルでも最初の1杯と最後の1杯の味わいが異なるという。そんな自然派ワインならではの味わいの変化過程も楽しんでほしいと、基本的にはボトルをお勧めしているそうだ。柴山さんに、ブームでもある自然派ワインの魅力について伺った。

「まず“おいしい”から選んでいるというのは当然ですが、一般のワインに比べて飲み疲れしないんです。軽い口当たりで、料理がなくても楽しみやすいのも特徴ですね。化学的な力に頼らず安定したワインを作るために、生産者の方がひたむきにブドウづくりに取組み、様々な挑戦をしてつくっているから、一本一本の個性も強い。造り手の思いを丸ごと味わって頂きたいので、お客様にもボトルをお勧めしています」(柴山さん)

扱うワインは主にフランス産。なかでも「パスカル・シモニッティ」や「ピエール・ボージェ」といった生産者が作るワインが柴山さんのおすすめだという。ボトルは4,000円〜、その日のおすすめを飲めるグラスは800円〜。

物件は、馴染みの客が訪れやすいという理由から「ル・キャバレ」や「レジドア」からも近い、渋谷や中目黒などで探した。現在の物件に決めたのは、渋谷とはいえ隠れ家的な落ち着いた雰囲気があり、周囲の環境にも解放感があったからという。ファサードには紫藤さんの好きな色だという深いブルーを基調にしている。入口から入ってすぐはテーブル席で、中央にキッチンとカウンター席、奥はスタンディングのウェイティングスペースになっている。広さは11.7坪、席数は16席。店内はメニューの書かれた黒板や木製テーブルが、温かみのある雰囲気を印象付ける。

ターゲットは近隣に勤める人。来客層は「レジドア」からの常連に加え、雑誌や口コミで知った人などの目的客が中心。30代の女性が大半を占め、カップルより、女性同士で来店するケースが多いそうだ。

オープンからまだ半年にも満たない「リベルタン」ではあるが、既に早い時間は予約で埋まるほど盛況だという。同店の他にも、世田谷・三軒茶屋の「uguisu(ウグイス)」や渋谷・神山町の「アヒルストア」など、本格の料理とこだわりの自然派ワインを楽しめる店が人気だ。これらの店は、1990年代後半にストリートカルチャーやカフェブームの洗礼を受けた30代が立ち上げている。食事やワインは本物志向だが、オーナーの個性や自らのライフスタイルを反映した自然体の店作りが、同世代を中心に共感を呼んでいるようだ。

「実はこの辺りは、居住者も多いエリア。地元の人たちにも存在を知って頂いて、ふらっと立ち寄って頂けるようになればうれしいです」(紫藤さん)。

ライフスタイルの一部としてふだん使いして欲しいというスタンスは、個性豊かだが気軽に楽しめる自然派ワインを作る生産者の思いにも通じるのかもしれない。

 

 

 

(フリーライター:緒方麻希子+『ACROSS』編集)

 

Libertin(リベルタン) 東京都渋谷区渋谷1-22-6 伊藤ビル1F
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