ファッションの展覧会というとマネキンに着せた服が整然と並ぶ、といったスタイルのものが多いけれど、2011年12月25日まで東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」は少し変わっている。目の高さに架け渡された白い梁で空間がゆるやかに区切られていて、その中に服が展示されているのだ。といっても小屋や、巨大な動物のオブジェや、映像で会場が埋め尽くされていて、本当にファッション展?と思える勢いだ。
この展覧会のきっかけになったのは「いわゆる御三家(山本耀司、三宅一生、川久保玲)以降の日本のファッションを紹介したい」という構想だった、と担当学芸員の堀元彰さんは言う。そこで文化学園大学教授の高木陽子さん、京都造形芸術大学准教授の成実弘至さん、ハイファッション・オンライン・チーフディレクターの西谷真理子さんと独自の世界観を持つ10組のデザイナーをセレクト。「服作りのイメージをはっきりと持っていて、大きな組織に属さず、自ら会社を立ち上げているようなデザイナーを選んだ」と堀さんはいう。
が、彼らは実に多彩な要素を持っていて、一口にまとめられるものではなかった。職人とコラボレーションして作るオリジナルのテキスタイルが特徴のミナペルホネンやミントデザインズ、中世の要素と近未来的なイメージをミックスするソマルタ、パフォーマンスを取り入れてシアトリカルなショーを行うシアタープロダクツ、ストリート・ファッションを独自の形で進化させたh. NAOTOなど、どれも個性的だ。ケイスケカンダのように、ファッション業界の慣習である年2回の展示会を行わず、地方で受注会を開いて販売するという、独特の流通スタイルを考え出したデザイナーもいる。
服のプレゼンテーションであるはずの展示も斬新だ。アンリアレイジは服作りの基準となる身体というスケールを疑う、という発想から縦横のプロポーションを変形させた服を制作した。一見、普通のショップに見える空間に極端に縦に引き伸ばされた服と、横に引き伸ばされた服が並ぶ。つけられたタグまでそれぞれ縦横に引き伸ばされているのがおもしろい。
ケイスケカンダは畳や障子、ちゃぶ台や湯飲みにいたるまですべてがニットやキルトやレースを型取りした樹脂でできた、四畳半の和室を展示した。部屋なのか服なのか、一瞬考えてから思わず笑みがわいてくる楽しい作品だ。
リトゥンアフターワーズは会場に小屋を設えて内部を織機や動物のはく製、「0リトゥン」という架空の札束で埋め尽くした。「鶴の恩返し」にヒントを得たストーリーがついたこの作品は、服の展示というよりは現代美術のインスタレーションだ。シアタープロダクツは洋服や小物のタグにあるバーコードをバーコードリーダーで読み取ると、映像と音が出る仕掛けを用意。服を選ぶ楽しさを「日常の奇跡」と捉え観客が参加して遊べる展示だ。
各デザイナーのエリアを区切る、目の高さの白い梁を使った会場構成は建築家、中村竜治さんによるもの。柱はなく、大小、プロポーションもさまざまな30のエリアに分けられていて、各デザイナーはそれぞれ好きなエリアを使っている。梁の背は40センチ程度。普通に立ったままだと視線が遮られるが、会場にある階段を上ったりしゃがんだりすると梁の上下からギャラリー全体を見通せる。普通ならあまり意識しないような高さから作品を見ることで、新しい発見もできるはずだ。
「完全に区切ってしまうのではなく、隣どうしゆるやかに連続しながら、切り離して考えることもできる様な会場構成にしました」と中村さんはいう。
各デザイナーがどのエリアに展示するかは、中村さんが”区画”を設定、デザイナーがそれぞれ希望のエリアを選び、重複した場合は調整、という手順で決められた。会場の東京オペラシティアートギャラリーは高い天井が特徴。10組中、ほとんどのデザイナーが天井から何かを吊るすなど、高さを活かした大がかりな展示になった。リトゥンアフターワーズのように小屋を見下ろすエリアに鶴のオブジェを吊るすなど、隣とつながる会場構成を活かして一つのストーリーになるようなインスタレーションをしたデザイナーもいる。
「ファッションデザイナーは服について考えることは多いけれど、空間について考えることも身体性につながるのではないかと思います。目の高さの梁で、空間の高さや連続性について意識してもらえれば、と考えました」と中村さん。
その目論み通り、従来のファッション展では出てこなかったかもしれないアイデアを引き出している。ファッションと空間、異なるジャンルのクリエイターたちが互いに挑発し合い、スリリングな対話を繰り広げる。ファッションの新しい様相が感じられる展覧会だ。
[取材/文:青野尚子(フリーライター)]
感じる服 考える服:東京ファッションの現在形
会期:開催中〜2011年 12月25日[日]
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
開館時間:11:00 ─ 19:00
(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日
入場料:一般1,000円、大学・高校生 800円、中学・小学生 600円
http://www.operacity.jp/ag/exh135
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団/文化学園大学 文化ファッション研究機構
協賛:日本生命保険相互会社
協力:相互物産株式会社/アトリエ杉本/株式会社イノウエインダストリィズ/株式会社キイヤ
後援:経済産業省/毎日新聞社/一般社団法人 日本ファッション・ウィーク推進機構
会場構成:中村竜治(株式会社中村竜治建築設計事務所)
企画:服飾文化共同研究拠点「現代日本ファッションデザインの研究」
◎関連企画として、デザイナーズ・トーク・シリーズも開催中。これからの予定は下記の通り。
11月13日(日)14:00−16:00
中村竜治(建築家)×高木陽子(文化学園大学教授)×堀元彰(東京オペラシティ アートギャラリー)
11月20日(日)14:00ー16:00
勝井北斗+八木奈央(ミントデザインズ)×山縣良和(リトゥンアフターワーズ)×西谷真理子(ハイファッション・オンラインチーフ・ディレクター)
11月27日(14:00−16:00
堀畑裕之+関口真希子(まとふ)×横山大介+荒木克記(サスクワッチファブリックス)×西谷真理子
会場:東京オペラシティビル 7F第一会議室
定員:80名(全席自由/要予約)/当日券あり
料金:無料(展覧会の入場は別料金)
会期:開催中〜2011年 12月25日[日]
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
開館時間:11:00 ─ 19:00
(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日
入場料:一般1,000円、大学・高校生 800円、中学・小学生 600円
http://www.operacity.jp/ag/exh135
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団/文化学園大学 文化ファッション研究機構
協賛:日本生命保険相互会社
協力:相互物産株式会社/アトリエ杉本/株式会社イノウエインダストリィズ/株式会社キイヤ
後援:経済産業省/毎日新聞社/一般社団法人 日本ファッション・ウィーク推進機構
会場構成:中村竜治(株式会社中村竜治建築設計事務所)
企画:服飾文化共同研究拠点「現代日本ファッションデザインの研究」
◎関連企画として、デザイナーズ・トーク・シリーズも開催中。これからの予定は下記の通り。
11月13日(日)14:00−16:00
中村竜治(建築家)×高木陽子(文化学園大学教授)×堀元彰(東京オペラシティ アートギャラリー)
11月20日(日)14:00ー16:00
勝井北斗+八木奈央(ミントデザインズ)×山縣良和(リトゥンアフターワーズ)×西谷真理子(ハイファッション・オンラインチーフ・ディレクター)
11月27日(14:00−16:00
堀畑裕之+関口真希子(まとふ)×横山大介+荒木克記(サスクワッチファブリックス)×西谷真理子
会場:東京オペラシティビル 7F第一会議室
定員:80名(全席自由/要予約)/当日券あり
料金:無料(展覧会の入場は別料金)