オーナーは、濱田大介さん(37歳)。濱田さんがコーヒーに魅了されたきっかけは、1997年にイタリア各地を旅したときにバール文化に触れたことから。翌年には、コーヒー豆やエスプレッソマシンなどを販売する東京の輸入商社へ就職。カフェやレストランのバリスタ育成にも携わったそうだ。2000年に独立すると富山でカフェを開くほか、コーヒー豆卸やバリスタ育成などを経験。2005年には「TOKYO FAMILY RESTAURANT(トウキョウファミリーレストラン)」の立上げに参画し、以後3年間、バリスタとして同店に勤めた。2009年には馬喰町のカフェ兼定食屋「フクモリ」、翌年には同じく馬喰町のイタリアンカフェレストラン「レーネア」の立上げに携わった。
濱田さんは、取引先の店舗の立上げやバリスタ育成などに長く携わるうち、しだいに「自分のアトリエが欲しい」「店もエスプレッソマシンも、豆のローストも、すべて手・目をかけたい。コーヒーに専念したい」という思いを抱くようになる。2010年、知人の紹介で物件に出合ったことからコーヒースタンドのイメージが具現化し、出店を決めた。立地は代々木公園西門近くの静かな住宅街。渋谷や原宿からも近い東京のど真ん中なのに、緑が深くてゆったりと時間が流れる場所であることに惹かれたそうだ。
「これまでいろいろな国を旅してまわりましたが、どの国でも公園を庭のように使うライフスタイルに触れました。イタリアならバール、中東ならチャイと水煙草の店と、海外では公園まわりに必ずカフェがあります。東京でも公園を庭のように使う人は多いけれど、公園近くにカフェはあまりありません。マーケティング的な視点から見れば人通りの多い場所への出店がいいのでしょうが、僕は公園のまわりで地域に密着した店をやりたかったんです。そういう意味では、これまでの集大成だと思っています」(濱田さん)
また、これまでは取引先から求められること、生産的なことに取組んできたが、Little Napでは濱田さんが得意なことをしていくという。
「今はスピーディーなコーヒー屋が主流ですし、そういうものも必要だと思います。ですが、僕は1杯をつくるにもお客さんに少し待ってもらい、味も香りも楽しんでもらいたいです。ボタン1つで作業が終わるのではなく、僕のやる行程はひとつも省かないこと」(濱田さん)。
豆は生産国別にロースト方法を変えている。エスプレッソは季節や天候、湿度などでブレンドを変えるそうだ。メニューは、「アメリカーノ」(350円〜)、「カフェラテ」(380円〜)、「エスプレッソ」(300円〜)、「ドリップコーヒー(シングルオリジン)」(350円〜)など。子供連れ用に「ミルク」(200円)などもある。また、「バナナマフィン」(250円)などの焼き菓子は近所のパン屋に特注でオーダーしているそうだ。豆の販売もしており、「ブレンド」(100g700円〜)がある。
もともとは設計事務所だったという物件は、広さは6坪。店内はブーツのリペア屋からインスパイアされ、職人が一生懸命に汗を流すような男臭い工房にしたかったそうだ。店舗設計は、濱田さんのアイデアをベースに馬場正高尊さん率いるOpen A(オープンエー)が手掛けた。濱田さん自身、“相棒”のエスプレッソマシンをばらして組み直したりするそうで、鉄板のテーブルの上に、工具が並んでいるのは他のコーヒー店にはない光景。カウンターや床の木材は古材のような風合いがあり、ずっと昔からここに店舗が佇んでいたような気にさえなる。