このところ、住宅街にこだわりが詰まった個人オーナーのショップが増えているが、小田急線豪徳寺駅(世田谷線山下駅)から徒歩約3分、昔ながらの商店街にオープンした小さなベーカリーカフェ「uneclef (ユヌクレ)」もそんな話題の店のひとつだ(11年10月15日オープン)。店舗は山下商店街と北沢川緑道が交差する角地の路面。やさしい青色の壁が印象的な店内では、木製の棚に並んださまざまなパンと焼き菓子が出迎えてくれる。
「特別な日に食べるものというよりは、毎日そばにあるようなパンやお菓子を提供したい」と話すのは、主に焼き菓子を担当する佐藤 務さん。パンを担当するのは、麻布十番の名店「ポワンタージュ」などで修行した伊藤公二さん。実はもともと「ユヌクレ」は、佐藤さんと伊藤さんのパン・お菓子のユニットとして10年1月からスタートしたもの。店名にもなった言葉は、フランス語で“ひとつの鍵”という意味。「店での時間を通して、出合った人の幸せの鍵になるように」という願いが込められているのだそうだ。
名古屋での学生時代からの旧友という2人は、もともとは全く別の仕事に就いており、伊藤さんは印刷業、音大出身の佐藤さんは、音楽関係の仕事に携わっていたという。そんな2人の共通の趣味は”食べ歩き”。多くのカフェやパン屋、飲食店を食べ歩いたそうだ。特に伊藤さんがはまっていたのがパン。
「会社が休みの日には、パン屋を巡って地元だけでなく東京まで通っていました。“そんなに好きなら作ってみれば”と友人にいわれて、自作のパンを知人に渡しはじめたら、意外にも“おいしかったよ”と反応があったのがうれしくて。人から直接反応がもらえるというのもパンの魅力ですね」(伊藤さん)
そして7年前、伊藤さんはパン修行のために上京を決意。同じく、食に携わる仕事をしたいと考えはじめていた佐藤さんも上京し、東麻布「菓子工房ルスルス」の焼き菓子教室で基本を学んだという。
「食べ歩くうちに、僕は特に焼き菓子に興味が出てきたんです。自分で焼き菓子を作りはじめて、周りの知人に渡したら喜ばれて、作るのがどんどん楽しくなってきた」と佐藤さん。
そして2年ほど前、オーガニックの衣類や雑貨を扱うセレクトショップ「かぐれ」(運営:株式会社アーバンリサーチ)から、焼き菓子の販売を依頼されるように。同店主催のイベントでも販売を続けるうちに、じわじわと評判が広まり、多くのファンを持つようになった。
「ユヌクレ」のオーナーである関谷さんは、もともとアパレル関係の会社に勤め長年ファッションに携わっていたが、食と料理が好きで、かねてからパンとカフェが楽しめる店をやってみたいという夢を持っていたそうだ。現在は季節のジャム作りのほか、伊藤さんがオーダーするパンの具材作りを担当しており、二人三脚で 「ユヌクレ」 ならではのパンを提案している。
約20坪の店は、半分は工房として使用しており、カフェスペースはカウンターを含めて全8席。内装はつつじヶ丘のカフェ「手紙舎」などを手がけた井田耕市さんが担当した。井田さんと共に、佐藤さんと伊藤さんで店のイメージを丁寧に話し合い、納得いくものを作り上げたという。異なる種類の木を組み合わせて作ったという、温もりあふれるパンの棚や机は、2人の提案をもとに木工作家の西本良太さんが制作。椅子は、京都で入手したアンティークを使用した。さらに、窓外に見える花壇は、フラワークリエイターの篠崎恵美さんが手掛け、緑のグラデーションがゆるやかな空気感を醸している。
オリジナルのロゴやシールは、「limArt(リムアート)」のデザイナーとのコラボレーション。シールは伊藤さん手書きの文字を入れ、味わいのあるデザインに仕上げた。「特にコンセプトは決めず、好きなものを集めたらこうなった」(伊藤さん)というものの、さまざまな飲食店を見てきたメンバーのこだわりがつまった店内は、商品やインテリア、小物まですべてのものがしっくりと溶け込んでいる。