uneclef(ユヌクレ)
レポート
2012.04.25
フード|FOOD

uneclef(ユヌクレ)

世田谷区・豪徳寺のローカル感漂う商店街に馴染む
人気ベーカリーカフェ

吊るし棚に並ぶのは、お店の名前にかけた食パン「ユヌカレ」(280円)。
バランスの良いラインナップとバリエーションの豊富さに、ひとりで2,000円以上購入する人も少なくないそうだ。
佐藤さんが手掛ける焼き菓子は、素朴な見た目と味わいが魅力。
木を多用した内装に、やさしい青色の壁の落ち着いた雰囲気の店内。無駄がないすっきりとした店内のいたる所に、佐藤さんと伊藤さんのこだわりが詰まっている。
オーナーの関谷さんが手作りする季節のジャムも楽しみのひとつ。取材時に並んでいたのは、苺の果肉とドライフルーツの杏が入った果肉たっぷりの「苺と杏のジャム」(500円)。
窓の向こうには、フラワークリエイターの篠崎恵美さんが手掛けた緑豊かな花壇が見える。
このところ、住宅街にこだわりが詰まった個人オーナーのショップが増えているが、小田急線豪徳寺駅(世田谷線山下駅)から徒歩約3分、昔ながらの商店街にオープンした小さなベーカリーカフェ「uneclef (ユヌクレ)」もそんな話題の店のひとつだ(11年10月15日オープン)。店舗は山下商店街と北沢川緑道が交差する角地の路面。やさしい青色の壁が印象的な店内では、木製の棚に並んださまざまなパンと焼き菓子が出迎えてくれる。

「特別な日に食べるものというよりは、毎日そばにあるようなパンやお菓子を提供したい」と話すのは、主に焼き菓子を担当する佐藤 務さん。パンを担当するのは、麻布十番の名店「ポワンタージュ」などで修行した伊藤公二さん。実はもともと「ユヌクレ」は、佐藤さんと伊藤さんのパン・お菓子のユニットとして10年1月からスタートしたもの。店名にもなった言葉は、フランス語で“ひとつの鍵”という意味。「店での時間を通して、出合った人の幸せの鍵になるように」という願いが込められているのだそうだ。

名古屋での学生時代からの旧友という2人は、もともとは全く別の仕事に就いており、伊藤さんは印刷業、音大出身の佐藤さんは、音楽関係の仕事に携わっていたという。そんな2人の共通の趣味は”食べ歩き”。多くのカフェやパン屋、飲食店を食べ歩いたそうだ。特に伊藤さんがはまっていたのがパン。

「会社が休みの日には、パン屋を巡って地元だけでなく東京まで通っていました。“そんなに好きなら作ってみれば”と友人にいわれて、自作のパンを知人に渡しはじめたら、意外にも“おいしかったよ”と反応があったのがうれしくて。人から直接反応がもらえるというのもパンの魅力ですね」(伊藤さん)

そして7年前、伊藤さんはパン修行のために上京を決意。同じく、食に携わる仕事をしたいと考えはじめていた佐藤さんも上京し、東麻布「菓子工房ルスルス」の焼き菓子教室で基本を学んだという。

「食べ歩くうちに、僕は特に焼き菓子に興味が出てきたんです。自分で焼き菓子を作りはじめて、周りの知人に渡したら喜ばれて、作るのがどんどん楽しくなってきた」と佐藤さん。

そして2年ほど前、オーガニックの衣類や雑貨を扱うセレクトショップ「かぐれ」(運営:株式会社アーバンリサーチ)から、焼き菓子の販売を依頼されるように。同店主催のイベントでも販売を続けるうちに、じわじわと評判が広まり、多くのファンを持つようになった。

「ユヌクレ」のオーナーである関谷さんは、もともとアパレル関係の会社に勤め長年ファッションに携わっていたが、食と料理が好きで、かねてからパンとカフェが楽しめる店をやってみたいという夢を持っていたそうだ。現在は季節のジャム作りのほか、伊藤さんがオーダーするパンの具材作りを担当しており、二人三脚で 「ユヌクレ」 ならではのパンを提案している。

約20坪の店は、半分は工房として使用しており、カフェスペースはカウンターを含めて全8席。内装はつつじヶ丘のカフェ「手紙舎」などを手がけた井田耕市さんが担当した。井田さんと共に、佐藤さんと伊藤さんで店のイメージを丁寧に話し合い、納得いくものを作り上げたという。異なる種類の木を組み合わせて作ったという、温もりあふれるパンの棚や机は、2人の提案をもとに木工作家の西本良太さんが制作。椅子は、京都で入手したアンティークを使用した。さらに、窓外に見える花壇は、フラワークリエイターの篠崎恵美さんが手掛け、緑のグラデーションがゆるやかな空気感を醸している。

オリジナルのロゴやシールは、「limArt(リムアート)」のデザイナーとのコラボレーション。シールは伊藤さん手書きの文字を入れ、味わいのあるデザインに仕上げた。「特にコンセプトは決めず、好きなものを集めたらこうなった」(伊藤さん)というものの、さまざまな飲食店を見てきたメンバーのこだわりがつまった店内は、商品やインテリア、小物まですべてのものがしっくりと溶け込んでいる。
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食パンや、バゲット等のハード系のパンはもちろんのこと、デニッシュやフォカッチャ、あんやクリームの詰まった菓子パンまで、多様なラインナップ。
平日の午前中にも関わらず、パンを買い求める人が次々と来店し、店内は常に満員状態。定休日明けや天気の良い日は特に混み合うそうだ。
ぶこつな姿にどこか愛らしさを感じるスコーンは、ほぼ日替わりで4種を用意。
ガラス張りの大きな窓から明るい陽射しが差し込むカフェスペース。カフェではひとり客のほか、小さな子どもを連れたママがお茶をする姿も目立った。
小田急線の豪徳寺/世田谷線の山下駅から赤堤通り方面に歩いて約3分。山下商店街の端に位置する。
扱うパンの種類は約40前後。フランス語で “ユヌ=ひとつの”と“カレ=四角”、お店の名前にかけた食パン「ユヌカレ」280円を看板に、「いちぢくとブルーチーズ」「さつまいもとベーコン」などのカンパーニュ、バケットなどの食事系パン、キッシュ、あんパンやクリームパンなどの菓子パン、デニッシュなどバランスの良いラインナップ。価格帯は250円程度が中心だ。焼き菓子は、スコーン4種、マフィン2種がほぼ日替わりで登場するほか、クッキーなども用意。商品は3人それぞれがアイデアを出し合い考案するが、心がけているのは「皆がおいしく食べられるもの」。素材安全で体に優しいものを厳選しているものの、有機にこだわりすぎず、それぞれのパンやお菓子に合った素材を使い分けるという。どれも洗練された見た目ながら、どこか素朴で優しい味わいが魅力だ。

これらの商品は店内のカフェスペースでイートインが可能。ドリンクメニューは380円〜で、武蔵小山のカフェ「AMAMERIA ESPRESSO(アマメリアエスプレッソ)」の豆を使用したエスプレッソやラテをはじめ、紅茶、自家製果実シロップのソーダなど約15種を揃えている。

客層は男女比が3:7で、30代〜40代が中心。近所の住人が大半で、なかには毎日来店するような常連もいるそうだ。近くの羽根木公園に向かう途中にふらりと立ち寄る人も多く、天気が良い日や土日など、早いときは午後3時頃には品薄になることも。また、おばあちゃんとその娘さん、奥さんに頼まれて買いにくる男性など、家族で通うケースも多い。最近では口コミでの来店も増えており、「かぐれ」やイベントなどで商品を知ったファンのほか、少し離れた場所から自転車でやってくる人や、都下や遠方からわざわざ訪れるパン好き(いわゆる”パン詣で”)も少なくない。

都心から離れた豪徳寺を選んだ理由は、「世田谷線のローカル感が好きだったから」(佐藤さん)。下高井戸など世田谷線沿線で物件を探したが、なかなか3人が気に入る物件が見つからず、現在の物件を見た時に初めて皆の意見が一致したそうだ。

「都心から少し離れた場所で、とにかくお客さんにゆっくりしてもらえる店を作りたかったんです。物件は狭いけれど、窓が大きくて気持ちがいいし、居心地がいい。緑道も近く、商店街を抜ける感じや、のんびりした街の雰囲気も気に入りました」(伊藤さん)

オープンの告知は店頭に張り紙をした程度だったが、オープン初日は行列ができるほどの大盛況。当初はカフェメニューを用意していたが、対応が追い付かず、商品のイートインのみに切り替えたという。

「実際にオープンしてみたら、予想以上のお客様に来店頂き、驚いています。街の人たち、地元の商店街の人たちも温かく応援してくれて、改めてこの場所で良かったと感じています」(佐藤さん)

また、オープンしたばかりの同店だが、愛知県蒲郡市のセレクトショップ「SUSCON(サスコン)」や、世田谷区上町のカフェ「SODO(ソド)」でのイベント販売など、他ショップとのコラボレーションも多いそうだ。「なぜか店にユニークな人達が集まってくる」と2人が話すように、知人や来店したお客さんとの会話から新しい動きが生まれることもしばしば。そんな縁で、3月からは「SHIBUYA BOOKSELLERS(シブヤブックセラーズ)」で週1回(毎週月曜)のパン販売もスタートした。


昨今、都心では飲食店でも効率を重視したチェーン店が多く見られる一方で、「ユヌクレ」のように、地元に密着したローカルな場所に、オリジナリティを追求した個人オーナー系の店が増えており確実に支持を集めている。特に世田谷線にはそのローカルな魅力からか、小さな個人経営の店が相次いで登場。画一化する街や店に対して、そこにしかない味やサービスをゆっくりと楽しみたいと考える消費者も増えており、都心外のアクセスしづらい立地にありながら、わざわざ足を運ぶケースも珍しくない。さらに「ユヌクレ」が人気を集める理由には、味やサービスのクオリティはもちろん、地元とのつながりを重視した店づくりにもあり、それは新たな地域コミュニティの形成やまちの活性化にもつながっていくだろう。

地元に根付きながら、柔軟なコミュニケーション、コラボレーションにより拡散していく
「ユヌクレ」 のような、新たな動きに注目したい。
 
【取材・文:渡辺マキコ+『ACROSS』編集部】

uneclef(ユヌクレ)

東京都世田谷区松原6-43-6-101
tel. 03-6379-2777
営業時間 9:00〜18:00(カフェは17:00 L.O.)
定休日 火・水曜日
HP http://uneclef.com/


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