築地ミヤゲヤ
レポート
2012.05.23
フード|FOOD

築地ミヤゲヤ

自分の好きなもので埋め尽くした
たった1坪の輸入食品&雑貨店

壁面を駆使してびっしり商品が詰まっている。
一部にマニアがいるというドボク系の商品も充実。上はスパナフォークとスコップスプーン(250〜310円)。下はアメリカ製の重機型カトラリー(1,500円)。
「クイックミルク」は冷たい牛乳に差して飲むとチョコレート・ミルク・バニラ味になるという商品。ハンガリー製(5本入り250円)。
「築地ミヤゲヤ」と「マニアアパレル」のオリジナルのコラボT「まぐろっT」は築地土産にぴったりの一品(2,400円)。
「マニアパレル」のテトラポット型の「テトぐるみ」。これをお目当てに遠方からわざわざ来店する人もいるという人気商品のためおひとり様2匹まで(個ではなく匹とカウントするそう!)と制限しているそう。
増倉さん自らが作ったという木彫りの看板が目印。「彫ったりする作業が好きなんですよね」(増倉さん)。
テトぐるみを持つオーナーの増倉茜さん。
築地駅から徒歩約3分、築地市場からもすぐの裏路地にある、輸入食品や雑貨を扱うショップ「築地ミヤゲヤ」。同店は11年12月にオープンした、わずか1坪の店舗だ。

場所は、新大橋通りを入ったオフィス街で、寿司屋に隣接するマンションの一角。一見、駐車場スペースの管理室のようにも見えるが、店頭には不思議なテトラポット型のぬいぐるみや雑貨などがディスプレイされており、扉上には「ミヤゲヤ」と書かれた手彫りの看板が、工事現場の小さな照明でライトアップされている。ガラス扉の奥には、カラフルな雑貨、輸入食品が棚一面に並ぶのが見える。

「出店のきっかけは6年前の結婚・妊娠。仕事を引退し、出産後も育児をしながらできる仕事をしたいと考え、昔からの夢だった、”自分の好きなものを集めた店”を作ることにしました」と話すのは、 「築地ミヤゲヤ」
 オーナーの増倉茜さん(31)。

5歳までを北海道で過ごし、高校からは沖縄で暮らすなど、飲食業を営む両親とともに各地を転々としてきた増倉さんが、幼少から特に夢中だったのが”魚”。「昔から海が好きで、趣味はダイビング。特に魚は見るのも、食べるのも好きだった」そうで、20代はスーパーで水産加工職を経験した。さらに、03年には魚市場の中心地・築地で働くために上京。職場で出合ったご主人と結婚・退社するまで、約3年間せり場の手伝いをしていたという。

出店の際にこだわったのは、築地という立地。育児を優先するため、自宅と子供の幼稚園、さらにご主人の勤務先・築地市場が近い同エリアでの出店が必須条件だったという。資金は育児をしながらアルバイトをして貯金。予算内で物件を探したところ、もともと弁当屋だったという1坪の物件が見つかった。

「当初は、キーホルダーやボールペン、食品などオリジナルの”築地みやげ”を企画・販売したかったんですが、初期資金が足りず、自分の好きなものをセレクトした店に。すでに屋号登録をしていたので、店名もそのまま片仮名の『ミヤゲヤ』にしました」(増倉さん)

商品のラインナップは、7割が輸入食品で、残りの3割が雑貨。セレクトの基準は、「自分と子どもが好きなもの」で、増倉さん自らが問屋への発注・買付けを行っている。食品は、牛乳に差してかき混ぜるとチョコレートドリンクになるハンガリーの「クイックミルク」(250円)をはじめ、菓子類や缶詰・瓶詰、調味料、パスタ、乾麺など。輸入元は、アメリカ、ドイツ、イタリア、スペイン、タイなどが中心。仕入れの際に全て試食して、自分が「おいしい」と思ったものだけを揃えるという。

雑貨のセレクトも個性的だ。スコップ形のスプーン、スパナ型のスプーンなどの「ガテン系カトラリー」250円、テトラポット形のぬいぐるみ「テトぐるみ」(2,940円)をはじめ、マンホールや重機など土木関係の素材を使ったグッズが豊富。実は、増倉さんは沖縄で大工をしていた経験もあり、工場や橋、鉄塔、廃墟などの土木建築物(一部マニアが存在する”ドボク系”と呼ばれるジャンル)の鑑賞が趣味。知り合いのドボク系ブランド「マニアパレル」とのコラボTシャツ「まぐろっT」(2,400円)なども販売する。そのほか、アメリカ発のキーホルダー、昔のパックマンやインベーダーなどのゲームもののほか、ポップなキャラがあしらわれた企業の販促物や、子ども向けのおもちゃやアクセサリーなど、どこか懐かしくキッチュなアイテムが揃う様子は、昔懐かしい駄菓子屋さんを彷彿させる
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80年代に一斉を風靡し、2010年に30周年を迎えて話題になったゲーム「パックマン」のデッドストックのキーホルダー。
菓子類や玩具は20円や80円といった100円未満の商品も。
定番の缶詰や瓶詰類も揃う。全て増倉さんが試食して「おいしい!」と思ったものをセレクト。
ドリンクは昔懐かしビー玉入りのラムネや、スパークリングウォータ—の「Talking Rain(トーキング・レイン)」、「ドクターペッパ」ー、エナジードリンク「シャーク」など多種多様。
消しゴムハンコが押されたショッピングバッグは、もちろん増倉さんの手作り。
通りがかりのご近所さんや常連さんと会話を楽しむ増倉さん。下町ならではの風情だ。
  客層は20〜30代が中心だが、子どもからお年寄りまでと幅広い。客単価は500円程度。近所の住人のほか、近隣で働く人や、輸入食材目当てに訪れる主婦、駄菓子屋感覚で遊びに来る子どもも多いという。「小さなビレッジヴァンガードみたいといわれる」と増倉さん。取材中にも店前にさまざまな人が通りかかり、増倉さんと笑顔で挨拶や会話を交わしていくのが印象的だった。

「飲食店をしていた両親の影響からか、接客の仕事が好きなんです。毎日来るおばあちゃんや近所の人とたわいもない話をしたり、通りがかる人の反応を見ているのも面白い(笑)。築地の人達は江戸っ子気質というか、本当に人が良くて、私自身も気を張らずにいられるのが魅力ですね」(増倉さん)
 
自身のライフスタイルに沿った、マイペースな営業も「ミヤゲヤ」ならでは。例えば子ども関連の用事があるときはそれを優先し、「娘の学芸会、保護者会がありまして」「幼稚園行事のため休みます」と店のブログやツイッターで告知して、店を休むこともある。

「収入はお小遣い程度ですが、時間の融通がきくのでストレスもありません。今後はこの店を続けつつ、ゆくゆくはハンバーガーが食べられるアメリカンダイナーと雑貨店を併設した店を出すのが夢です」(増倉さん)。

先日紹介したカフェベーカリー「uneclef(ユヌクレ)」「TOLO COFFEE & BAKERY(トロ コーヒーアンドベーカリー)」、コーヒースタンド
のように、昨今、都心から離れた住宅街や商店街などに、個人オーナーの小規模なショップや飲食店がオープンするケースが増えている。その理由は、賃料の安さはもちろん、人とのつながりを感じられる親しみやすい”まち”の魅力にもあり、「東京に住みながら自分らしく仕事をできる場所」として、若者達からもこのような立地が選ばれているのだろう。
 
また、増倉さんが出店理由を「育児をしながら仕事ができるように」とした点にも注目したい。近年、結婚後も仕事を続ける女性は増えており、厚生労働省がまとめた「平成22年度版 働く女性の実情」によると、20年前に比べて既婚(有配偶者)女性の就業率の割合は、11.1%も上昇し、59.7%に。そして、就業を希望しながらも「家事・育児のため仕事が続けられそうにない」と求職活動を行っていない女性は半数を大幅に超えており、潜在的な労働意欲の高さを伺わせる。
 
そのような女性が、子育てを優先しながら自分らしく働くことを考えた結果、増倉さんのように自ら仕事やショップを立ち上げるような動きは今後少なくないといえるだろう。そこから生まれる新しいショップ、そしてそんな女性の働き方にも注目していきたい。


 [取材・文/渡辺マキコ+『ACROSS』編集部]

築地ミヤゲヤ

住所/東京都中央区築地3-10-4築地前川ビル1F
営業時間/10:00〜19:00
定休日/土・日・祝日・隔週水曜日(築地市場カレンダーに準ずる)


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