Taihiban(タイヒバン)
レポート
2013.04.11
フード|FOOD

Taihiban(タイヒバン)

“堆肥=牛の糞”を目の前に(!)こだわりの肉と野菜の料理が食べられる
ユニークな実験的未来型マーケット&ダイニングレストラン

「タイヒバン」では牛を1頭買いしているため、その時々でいろいろな部位を食べることができる。こちらは最も脂肪が少ないといわれる「うちもも」の赤身肉。
大根ステーキをはさんだ玄米ライスバーガー。シンプルな調理法で作られた料理は、“すごい堆肥”で育った野菜そのものの味わいが感じられる美味しさだ。
店内には牛の糞(=堆肥)が山盛りに!においが全くないどころか、よく肥えた森の土のような良い香りがする。堆肥は、牛の糞をオガコと混ぜて発酵させて作られる。
オリジナルのタイヒバン牛乳と塩こうじも販売している。牛乳嫌いでも飲めると評判の牛乳だ。
店内の什器や柱には割り箸を使ったものも。
ソーシャルデザインカンパニー「株式会社タイヒバン」代表取締役社長/クリエイティブディレクターの池田正昭さん。「牛肉だけじゃなく、“すごい堆肥”で育てた野菜は、農薬を使わず手間暇かけなくても素晴らしい野菜ができるんです。今までの有機農業の概念が覆りますよ!」
吉祥寺に、なんと牛の“堆肥=牛の糞”を目の前にしながら肉や野菜の料理が食べられる、ユニークなマーケット&ダイニングレストランがオープンしたと話題になっている。その名も、「taihiban(タイヒバン)」。グランドオープンは2012年12月。 
 
もともとガレージだった場所を改装した店内の中央のキッチン手前には、ふかふかの土が山積みされている。実はこれが、堆肥。不思議なことに嫌な臭いは一切ないどころか、むしろ森の中にいるような、温かみある良い香りがする。 

店名の「タイヒバン(=堆肥盤)」とは、農業の専門用語で牛糞などを堆肥にするための施設のこと。もともと堆肥は、家畜の糞とオガコ(木くず)とを混ぜて発酵させて作るが、「タイヒバン」の堆肥は特別な乳酸菌を混ぜた飼料を食べた牛の糞からできており、有用微生物の宝庫だという。同店では、その牛肉のほか、この堆肥で育てられた米、野菜、オリジナルのタイヒバン牛乳などの商品を取り扱う。

運営はソーシャルデザインカンパニー「株式会社タイヒバン」(「毎日アースデイ」が店を立ち上げたが、同社は先頃社名変更し、「株式会社タイヒバン」に)タイヒバン」は、同社が展開する、堆肥を中心とした循環再生事業「LIP(Life in Peace)」プロジェクトのコンセプトショップだ。代表取締役社長を務めるのは、クリエイティブディレクターの池田正昭さん。以前、環境学習施設・港区立「エコプラザ」(※08年オープン。2013年度からは5年の契約を満了し運営は他の会社へと移行)でも取材させて頂いた池田さんは、博報堂が発行する雑誌『広告』の元編集長であり、同時期から地域通貨「アースデイマネー」の活動、環境運動「打ち水大作戦」、07年にはミュージシャンの坂本龍一氏らと共に森林保護を目指す「more trees」設立に携わるなど、幅広い活動を行ってきた、エコ界では知る人ぞ知る人物だ。

「プロジェクトのはじまりは、岐阜・飛騨の和牛肥育農家の藤原孝史さんとの出会い。4年ほど前に、エコプラザで輸入に頼っている割り箸を、国産の間伐材(適切に木を伐る”間伐”で余る木材)を使って作るデモンストレーションをしていたときに出会いました。その頃飛騨では、堆肥を作るために必要なオガコの値段が高騰していて、割り箸の端材や使用後の割り箸でオガコを作れないかという話になって、『和RE箸』というプロジェクトがスタートした。その時に、藤原さんが扱う“すごい堆肥”のことを知ったんです」(池田さん)。

池田さんの話す「すごい堆肥」の秘密は、現在イタリアをはじめ世界から注目されているバイオバランス(「Anti-Muffa」:抗カビの意)乳酸菌。もともとイタリアでワイン酵母の研究をしていた内藤善夫さんが開発した菌で、家畜の腸、堆肥の中、そして土の中でも善玉菌として発酵を助けるといわれる。実際に、家畜の飼料に混ぜることで、健康な牛が育ち、栄養バランスのとれた糞がとれ、良質な堆肥を作り、農薬や化学肥料に頼らずおいしい野菜を生産する、力強い土ができるそうだ。
 
「でも、そのころは割り箸の話止まりで、実際に堆肥循環のプロジェクトになったのは3.11(東日本大震災)の後。3.11をきっかけに、皆の食への意識が変わった。私も震災後、改めて”すごい堆肥”で育った野菜を食べたんですが、驚くほどおいしくて。これはやらなきゃと思ったんです。さらに北海道で(乳酸菌入り肥料で育つ)牛を見学したら、糞のニオイもいいし、何より腸内環境が整って健康状態が良い牛は、どの牛もおだやかで“いい顔”をしている。実際に食べると、脂の質もさっぱりしていて全然違うし、すっかり有機農業の概念が変わりました」(池田さん)。 
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ほうれんそうやトマト、ジャガイモなど数種の野菜をペーストにした見た目もユニークな「排毒カレー」は滋味溢れるやさしい味わい。
「タイヒバン」以外では見られないであろう“堆肥遊び”に夢中になる子どもたちの姿も。通常お肉をあまり好んで食べない子どもでも、ここの牛肉は喜んで食べるとか。
「タイヒバン」で開催されている「バン校」は各種講座と食事がセットになった“~ことの本質を学ぶ、本質的に美味しい集い~”。4月もさまざまな企画が予定されており、詳細はfacebookで随時告知されている。
堆肥の山の上にある遊び心たっぷりの牛のシャンデリアは「タイヒバン」のスタッフが作ったオリジナル。
店の前では野菜や米などを販売するマーケットを開催している。
早速、2011年に池田さんは「すごい堆肥」でできた野菜などの商品を販売する、会員制のネット産直宅配「LIPサービス」を開始。しかし、ネット限定の告知・宣伝には限界があったという。

その良さを体験できるリアルな場所、拠点となる場所が必要だと感じ出店を決めました。『タイヒバン』は、生産者が作ったものをここで”有料試食”してもらう、いわばネットワーク・ステーション。『タイヒバン』を通して消費者のニーズが高まれば、さらに生産者のネットワークの拡大にもつながる。逆に、料理はその日にある食材でしかできないし、メニューも選べない、不自由な店なんですけどね(笑)」(池田さん)。

店内は約50平米で15席。店内の柱には、割り箸の端材を活用したその名も”割り柱”(!)を使用。木製の机や椅子などの家具も、岐阜近隣で手に入れた端材を再利用して手作りした。店内中央の堆肥には実際に触れることもでき、空気清浄の役割もあるという。

同店では、バイオバランス乳酸菌入りの飼料で育った牛を一頭買いしており、その時々によって様々な部位を食べられる。現在はランチとディナー(予約制)の営業で、日中はマーケットとしてLIP商品を販売(冬期はお休み)。メニューはシェフの杉本会美さんが考案したもので、ほうれんそうやトマト、ジャガイモなど数種の野菜をペーストにした見た目もユニークな「排毒カレー」、牛肉の旨みをシンプルに味わえる「ローストビーフ/カルビ丼」(部位は日替わり)、もち米を生地に里芋をトッピングした「もちピザ」、「日替わりランチ」(以上900円、ご飯、スープ、添え野菜付き)など。夜のコースは2500円~(ドリンク別)で、上記以外に「牛肉のバーベキュー」などの日替りメニューを用意する。

客層は年代も様々で、ランチタイムは近隣の住人が多く、夜には知人や友人も訪れる。最近はマーケットの野菜を目当てに訪れる人も増え、地元飲食店のシェフが食材を買いに訪れることもあるそうで、評判は上々なようだ。

「近隣に住んでいることもあって、吉祥寺は普段からよく家族で訪れるなじみのある場所だったんですが、カルトなことができそう!と出店場所に決めました。飲食店も多いので、もっとプロの方にも素材の良さを知ってもらい提供していきたい。今後はこの場所を拠点にして、近隣エリアへの宅配サービスも考えています。さらに、現在は飛騨中心のプロジェクトですが、他のエリアにも生産地のネットワークを広げていきたい。その中で、堆肥循環の取り組みが拡がっていけばうれしいですね」(池田さん)。

さらに、今年1月からは各種講座と食事がセットになった『タイヒバン』の大学「バン校」を開講。「学びと食を分かち合う”市民大学”のようなもの」(池田さん)という講座は、池田さん自身の「ソーシャルデザイン試論」、和綿にも詳しいシェフの杉本会美さんの「和綿ナイト~日本在来の綿の普及につとめる和綿倶楽部」、解毒をテーマにした伊澤花文さんの「解毒女子の会」などを開催。今後も週1回の開催を予定し、LIP野菜を使った料理教室など、さまざまな講座を企画しているという。
 

取材・文/渡辺マキコ 】

Taihiban(タイヒバン)

東京都武蔵野市吉祥寺本町2-22-3
TEL/FAX 0422-27-1392


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