吉祥寺に、なんと牛の“堆肥=牛の糞”を目の前にしながら肉や野菜の料理が食べられる、ユニークなマーケット&ダイニングレストランがオープンしたと話題になっている。その名も、「taihiban(タイヒバン)」。グランドオープンは2012年12月。
もともとガレージだった場所を改装した店内の中央のキッチン手前には、ふかふかの土が山積みされている。実はこれが、堆肥。不思議なことに嫌な臭いは一切ないどころか、むしろ森の中にいるような、温かみある良い香りがする。
店名の「タイヒバン(=堆肥盤)」とは、農業の専門用語で牛糞などを堆肥にするための施設のこと。もともと堆肥は、家畜の糞とオガコ(木くず)とを混ぜて発酵させて作るが、「タイヒバン」の堆肥は特別な乳酸菌を混ぜた飼料を食べた牛の糞からできており、有用微生物の宝庫だという。同店では、その牛肉のほか、この堆肥で育てられた米、野菜、オリジナルのタイヒバン牛乳などの商品を取り扱う。
運営はソーシャルデザインカンパニー「株式会社タイヒバン」(「毎日アースデイ」が店を立ち上げたが、同社は先頃社名変更し、「株式会社タイヒバン」に)。「タイヒバン」は、同社が展開する、堆肥を中心とした循環再生事業「LIP(Life in Peace)」プロジェクトのコンセプトショップだ。代表取締役社長を務めるのは、クリエイティブディレクターの池田正昭さん。以前、環境学習施設・港区立「エコプラザ」(※08年オープン。2013年度からは5年の契約を満了し運営は他の会社へと移行)でも取材させて頂いた池田さんは、博報堂が発行する雑誌『広告』の元編集長であり、同時期から地域通貨「アースデイマネー」の活動、環境運動「打ち水大作戦」、07年にはミュージシャンの坂本龍一氏らと共に森林保護を目指す「more trees」設立に携わるなど、幅広い活動を行ってきた、エコ界では知る人ぞ知る人物だ。店名の「タイヒバン(=堆肥盤)」とは、農業の専門用語で牛糞などを堆肥にするための施設のこと。もともと堆肥は、家畜の糞とオガコ(木くず)とを混ぜて発酵させて作るが、「タイヒバン」の堆肥は特別な乳酸菌を混ぜた飼料を食べた牛の糞からできており、有用微生物の宝庫だという。同店では、その牛肉のほか、この堆肥で育てられた米、野菜、オリジナルのタイヒバン牛乳などの商品を取り扱う。
「プロジェクトのはじまりは、岐阜・飛騨の和牛肥育農家の藤原孝史さんとの出会い。4年ほど前に、エコプラザで輸入に頼っている割り箸を、国産の間伐材(適切に木を伐る”間伐”で余る木材)を使って作るデモンストレーションをしていたときに出会いました。その頃飛騨では、堆肥を作るために必要なオガコの値段が高騰していて、割り箸の端材や使用後の割り箸でオガコを作れないかという話になって、『和RE箸』というプロジェクトがスタートした。その時に、藤原さんが扱う“すごい堆肥”のことを知ったんです」(池田さん)。
池田さんの話す「すごい堆肥」の秘密は、現在イタリアをはじめ世界から注目されているバイオバランス(「Anti-Muffa」:抗カビの意)乳酸菌。もともとイタリアでワイン酵母の研究をしていた内藤善夫さんが開発した菌で、家畜の腸、堆肥の中、そして土の中でも善玉菌として発酵を助けるといわれる。実際に、家畜の飼料に混ぜることで、健康な牛が育ち、栄養バランスのとれた糞がとれ、良質な堆肥を作り、農薬や化学肥料に頼らずおいしい野菜を生産する、力強い土ができるそうだ。
「でも、そのころは割り箸の話止まりで、実際に堆肥循環のプロジェクトになったのは3.11(東日本大震災)の後。3.11をきっかけに、皆の食への意識が変わった。私も震災後、改めて”すごい堆肥”で育った野菜を食べたんですが、驚くほどおいしくて。これはやらなきゃと思ったんです。さらに北海道で(乳酸菌入り肥料で育つ)牛を見学したら、糞のニオイもいいし、何より腸内環境が整って健康状態が良い牛は、どの牛もおだやかで“いい顔”をしている。実際に食べると、脂の質もさっぱりしていて全然違うし、すっかり有機農業の概念が変わりました」(池田さん)。