インコ

インコ

レポート
2005.11.20
フード|FOOD

提供したいのは「健全な場所と健全な食物摂取」。
デザイン事務所がプロデュースする普段使いのカフェ

テーブルは山形県の天童木工と
共同開発したプロトタイプ。カーテン
にはミナ ペルホネンのテキスタイルを
使用。
菊地さんのデザインによるコースター。
7種類を組み合わせると色々な図形になる。
ドリンクには、サイズの大きい氷を一つだけ。
氷を解けにくくし、長時間美味しく飲めるよう
配慮されている。
自家製コーンビーフを使ったサンドイッチ
(900円)。タマネギ、レタス、チーズ入り
でボリュームたっぷり。
05年09月12日、渋谷区富ヶ谷に、カフェ「インコ」がオープンした。運営元は、(株)ブルーマーク。同社は、ミナ ペルホネンやナショナルスタンダードといったファッションブランドのグラフィックデザインをはじめ、webやプロダクトのデザイン、さらには書籍の出版など幅広く手がけるデザイン事務所である。

「以前から、ソフト作りや流通を手がける延長として、小売りをする場所も欲しいと思っていたんです。そこで今回、エンドユーザーと直接関わる場所として、飲食店を作りました。デザインと飲食はまったく別の分野と思われがちですが、メディアが違うだけで、ものを作るという意味では実は同じなんです」と同社取締役・菊地敦己さん(31)。

出店したのは、同社の事務所が入っているビルの1階。店舗面積は約60平米で、内装はニューヨークや銀座のルイ・ヴィトンの設計を手がける世界的な建築家の青木淳氏が担当している。とはいえ、店内はいたってシンプル。打ちっ放しの壁に囲まれた真っ白な空間に、木製のテーブルがゆったりと配置され、天井には電気の配管が丸出し。インテリアは最小限で、まるでギャラリーのようにすっきりした空間になっている。

それもそのはず、同店のコンセプトは、「何もしない、押しつけない」こと。いかに「つまらない、ウリのないふつうの店を作るか」(菊地さん)にこだわったのだという。

「最近の飲食店はどこも内装や演出が凝っていて、楽しすぎるんですよ。そうじゃなくて、日常の中で毎日通える、カフェというより“喫茶店”のようなイメージのお店を作りたかったんです。考えごとをしたり、本を読んだり、本来生活の中にあるべき時間を保てる場所にしたいですね。今はいろんな情報が多すぎて、あれしなきゃ、これ知ってなきゃっていうのが多すぎるので」(菊地さん)。

メニューも、決して風変わりなものはなく、いわゆる普通のものばかりだが、その背景には健全なものへの並々ならぬこだわりがある。たとえば、成分の均質化していないノンホモ低温殺菌牛乳を使用しており、生ビールは、生きた酵母が入っている国産エールビール・ガージェリーを提供。どちらも賞味期限が短く、ストックしにくいが、他にはない自然な味わいを大切にした。また、素材を厳選するだけでなく、手間暇かけて丁寧に調理しているのも同店の特徴だ。サンドイッチに入れるコンビーフは自家製のものを使用し、ハッシュドビーフはなんと全行程に2日間かけて作るというこだわりようである。

「一般的にカフェめしというと、上流のメニューを中流のクオリティで出すのがふつうじゃないですか。でもうちは中流の中での最高のものを作りたいんです。シンプルなメニューをいかにまじめに作って、どこまで美味しくなるか。そうやってできたものは、むちゃくちゃうまい!というわけではないけれど、正直で素直な味がするんです」(菊地さん)。

価格については、ノーチャージで、あくまでも適正の価格を目指したという。客層は、昼間は20〜30代の女性が多く、子供連れなど地元客が中心。また、アパレル事務所が多い土地柄、夜は周辺に勤務する男女がメインの客層になっているのだそうだ。1人客が多く、リピート率が高いのも特徴。

00年以降、都内では、80年代のバブル期を彷彿させるような演出過多な飲食店が増殖。しかし05年末を控えた今現在は、そういったムードもすっかり廃れ、立ち飲みやデリ、ジンギスカンといったカジュアルで実用的な「ふだん使い」の飲食店が増えている。「健全な場所と健全な食物摂取を提供したい」という同店のコンセプトは、そんな現在の飲食のトレンドを表しているともいえそうだ。

ちなみに、店名の由来は、「インコは、みんなが飼える中流の鳥。そんなメジャーでストーリーのないイメージが店のコンセプトにぴったりだと思って」(菊地さん)だそうだ。

取材・文:重保咲(フリーライター)+『WEBアクロス』編集室

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