表参道から1本入った裏通りに、オーガニックの手作りパンの店「プティsora」がオープンした。同店は、目黒区八雲で運営している「cafe sora」の2号店である。
運営するのは、金丸龍二郎さん(49歳)信乃さん(43歳)夫妻。龍二郎さんは若い頃からフード&ビバレッジに携わり、某ホテルでレストランマネージャーをしていたという経歴の持ち主で、信乃さんは元栄養士。お子さんがアトピーだったことから、家族で自然食療法を実践しており、その一環としてオーガニックの食パンを作り始めたのがきっかけだったという。
「飲食物を大量生産する現場では、コストや合理性の追求が優先で、安全性は二の次にならざるをえないんです。企業では仕方ないことですが、これでいいのかな…と疑問に感じていました。そんな時、妻が作った天然酵母のパンをなにげなしに食べてみたらおいしくて。これが食べ物の本来あるべき姿だと思ったんです」(龍二郎さん)。
自然食品の店や生協のフリーマーケットなどでの販売を経て、97年、自宅の近くの目黒区八雲にイートインスペースを併設した「cafe 空」をオープン。地方から来店するファンも多い、自然食や健康食に興味がある人々の間では知る人ぞ知る店である。そして06年4月18日、さらに幅広い層に知ってもらおうと、表参道にアンテナショップをオープン。場所はハナエモリビルの裏で、龍二郎さんのお兄さんが経営するスノードームショップを間借りして、平日限定で販売を行っている。
「私は生まれも育ちも表参道なんですが、昔は表参道にも、揚げたてを新聞紙に包んでくれるコロッケ屋や個人経営のパン屋など、作り手の顔が見える飲食店がたくさんありました。そんなイメージでパンの店を出店したら面白いと思ったんです」(龍二郎さん)。
商品は、食パンやフランスパンなどのプレーンなパンが約30種類、菓子パンが13種類ほどで構成。すべて国産小麦と天然酵母を使い、卵、油は不使用。小麦は、輸入物の1.5〜2倍のコストがかかる岩手産の南部小麦、リンゴは山形県・くらたさんの無農薬のもの、というように、材料もすべて国産の無農薬・無添加で、生産者の顔がわかるものを仕入れている。餡やジャム、カレーなどのフィリングも自家製で、カレーのスパイスも、福岡から無添加のものを取り寄せて調合するというこだわりようだ。
客層は、7割が周辺に勤務する美容師やショップスタッフで、3割が近隣の住民。本店の客層は50代以上の健康志向の男女や30代の子供連れの女性が中心なのに対し、表参道店は20〜50代と幅広い。また、本店は遠方から来てまとめ買いする人が多いのに対し、表参道店はこまめに来店し、その日食べる分を買っていくケースが多いという。
「ターゲットは周辺に住む人達や勤務する人達。年齢や性別に関係なく、毎日の生活に根付いたパンを作りたいですね。オーガニックや食の安全を強く押しつけるのでなく、まずはパンが美味しいと感じてもらって、そこから食べ物について考えるきっかけになればいいと思います」(龍二郎さん)。
ここ数年、「食育」「スローフード」「マクロビオティック」「LOHAS(ロハス)」「有機」「オーガニック」など、食関連のキーワードが相次いで浮上。渋谷界隈でもあっという間に大手企業によるこれらをテーマにした飲食店が相次いでオープンしたのは記憶に新しい。レストランやカフェをはじめ、立ち飲みやデリ、弁当、ケータリングなど業態も多様化。さらに最近は一般の飲食店でも、玄米菜食や有機野菜を使ったメニューを出すところが増えてきている。定点観測のインタビューでも、「玄米・雑穀食を取り入れている」「保存料が気になりだしました」「マクロビオティックを実践している」といった意見が頻繁に聞かれるようになっている。
大手メディアや代理店による大規模なプロモーションが一段落し、「LOHAS」などの言葉が急速に消費されつつある一方で、消費者や一部の経営者の間では、「LOHAS」は単なる一過性のものではなく、ライフスタイルの新しい選択肢のひとつとして、確実に浸透しつつあるといえそうだ。
[取材・文/伊藤洋志(フリーライター)+『WEBアクロス』編集室]
プティSORA
レポート
2006.11.02
フード|FOOD
天然酵母・国産小麦パンのアンテナショップが
裏表参道にオープン
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