ビーガンヒーリングカフェ

ビーガンヒーリングカフェ

レポート
2006.12.25

“ふつう”のスタンスでビーガン家庭料理を
提供するカフェが渋谷に登場

9坪の店内に14席を用意。渋谷宇田川町
とはいえ繁華街を少し入ると意外なほど
落ち着いた雰囲気になる
大豆グルテンの唐揚げは見た目も味も
まるで鶏肉の唐揚げのよう。大豆グルテン
、小麦粉、生姜、醤油、片栗粉という
5つだけのシンプルな素材でできている。
アップルクランブルパイ(410円)などの
スイーツもボリュームにこだわった。
牛乳やバター、卵はもちろん不使用。
2席ながら店の前にはテラス席も設置。
最近は美容のためデトックス感覚で
菜食やビーガンを取り入れる女性も
少なくない。
「ベジタリアン(菜食主義)」という言葉は今ではすっかり市民権を得た感があるが、実はその種類が細かく分かれていることはあまり知られていない。そんななか、06年4月21日、渋谷で初めてベジタリアンのなかでも本格的な「ビーガン料理」を提供する専門料理店、「ビーガンヒーリングカフェ」がオープンした。場所は渋谷区宇田川町。CISCOやマンハッタンレコードなどの老舗レコード店に隣接し、エコ関連のイベントが頻繁に催される代々木公園のすぐ近くだ。

「ビーガン」とは、動物の肉はもちろんのこと、牛乳やチーズなどの乳製品、卵や蜂蜜、カツオだしなど、動物を利用して得られる食物を一切食べない、ベジタリアンのなかでも最も純粋な菜食主義(ピュア・ベジタリアン)のタイプをいう。できるだけ動物に過酷な負担、苦しみをかけないことをモットーとしており、日本ではまだまだマイナーだが、欧米では歴史が長く、環境にやさしく健全な肉体と精神を維持できるライフスタイルとして、マドンナやプリンス、ポール・マッカートニーといったミュージシャンをはじめ、会社経営者などセレブを中心に注目されている。

「ビーガンが“シンプルでふつう”のライフスタイルであることを知ってもらい、広めたかったんです。ビーガンとは『健全な、新鮮な、元気のある』という意味のラテン語"vegetus" に由来すると言われているんです」と言うのは、オーナーのひとり、折原昭博さん。同店は折原さん夫妻で経営する店で、折原さんは敏江さんとの結婚をきっかけに数年前からビーガンになったのだそうだ。

ビーガン対応のベジタリアンの料理店というと、こだわりを全面に押し出した厳格な雰囲気のお店が多かったり、あるいは、材料や調理にこだわるあまり高級で上品、またはオシャレになり過ぎてしまったりするなか、同店は敏江さんがふだん自宅で作っている家庭料理をほとんどそのまま提供するという、日常的なスタンスなのが特徴。コンセプトはズバリ「ふつうのビーガン家庭料理が愉しめる店」だという。

「出店のきっかけは、単純に自分たちが食事のできる店が渋谷になかったこと。そして、渋谷は海外からもビーガンのミュージシャンがよく訪れる街なのに、彼・彼女らが行ける店がないという声も耳にしていました。だったら自分がつくろうと思い立ったんです」と折原さん。

メニューは、大豆グルテンの唐揚げ、テンペ(発酵大豆)のソーセージ、ファラフェル(ヒヨコ豆)のハンバーグ、ビーンズシチューなど、馴染みの料理を肉や魚を使わずビーガン用にアレンジしたもの。しかし、肉の代用品というような禁欲的なものではなく、例えば大豆グルテンを使ったから揚げは、事前に知らされていなければふつうの鶏の唐揚げかと思うほどの味覚で、肉のような旨みや食感を感じながらも油っこくない「ヘルシー料理」といった感じだ。また、これらのメイン料理は玄米ご飯付きでどの時間帯でも900〜950円と良心的だ。

他にも、穀物コーヒー(460円)やオーガニックティー(480円)、アップルクランブルパイ(480円)、豆腐アーモンドチョコタルト (380円)など、このところ急増するオーガニックなカフェにあるメニューも揃っている。

「僕自身が当初感じたように、“ビーガン料理はふつうに美味しい”ということを未体験の方に伝えたいという思いもあります。渋谷は日本のカルチャーの発信地でもありますから」(折原さん)。

実は折原さんの本業は会社員。といっても、投資のためのサイドビジネス的な出店ではない。出店にあたり飲食業の経験や潤沢な資金もなかったが、たまたま前がフランス料理店だったこともあり、その内装を活かし、中古の什器をネットオークションで安く調達したり、照明や水周り関係も自ら調べ作業するなどして開店にこぎつけたのだそうだ。

「今後はレシピ本なども出版して情報発信することも検討しています。プロからみれば素人くさいと怒られそうですが、実際に毎日家庭で作っている料理なのでレシピも至ってシンプル。誰にでも作れるようなものです。今でもお客さんに聞かれればレシピも教えますし、家庭で作って貰えれば、その家庭がビーガンカフェのプチ支店になる。この意思を引き継いでくれる人がいれば、お店を任せてもいいとも思っています」(折原さん)。

雑誌の記事やクチコミなどで訪れる客層は、30歳前後の女性客が中心。とはいえ、平日は10代の若者から30代、40代の子ども連れファミリー、さらに60代、70代までと幅広く、週末は外国人客も少なくないそうだ。

ある人はアレルギーをはじめとする病だったり、美容や健康、さらには環境を意識してなど、きっかけはさまざまだが、ベジタリアン(菜食)やマクロビオティック、そして有機野菜や添加物が一切入っていない食材や天然酵母のパンといったオーガニックフード全般への関心の高まりは、もはや「ある種の層」の間では、ブームを越えた「新・常識」となりつつあると言えそうだ。


[取材・文/伊藤洋志(フリーライター)+『WEBアクロス』編集室]

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