“文化バブル”世代のオーナー核に、ユルコミュニティで広がる
文京・本郷の新しいカルチャー・スポット。
レポート
2018.08.03
フード|FOOD

“文化バブル”世代のオーナー核に、ユルコミュニティで広がる
文京・本郷の新しいカルチャー・スポット。

FARO COFFEE & CATERING

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東京大学があるということ以外は、かつてのような“学生街”というイメージが薄れつつある文京区本郷。大学構内に有名レストランやカフェが出店し進化する一方、東京メトロと都営大江戸線の「本郷三丁目」駅を中心とした町並みは、チェーン系の居酒屋や小型スーパーマーケットなど、近隣に暮らす人たち向けのふつうのお店が増えている。

そんななか、駅からすぐ、しかも本郷通りに面しているにも係らず、入口の分かりにくさからひっそりと、しかし確実に存在感を放っているカフェ「FARO COFFEE & CATERING(以降、FCC)」がある。

筆者がこの店の存在を知ったのは昨年(2017年)の2月。行きつけのうどん屋「こくわがた(実は、こちらも東大生に人気の名店!)」の2階への階段に記された文字に引かれて、ふらっと立ち寄ったところ、素敵な空間が存在していることに驚き、以来、授業の合間にしばしば訪れている。

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階段を上って中に入ると、ひとつ1つはそれほど大きくない窓が、2面たっぷりと配され、1階の表情からはとうてい創造できないほど開放感あるスペースが広がる。デザインやアートに関連した書籍がやや雑然と並ぶ本棚や、落ち着いたジャズ調の音楽。もちろん、飲みものや料理にもこだわりが。この日筆者が注文したのはブラックチャイ。甘味として使用されていたのは蜂蜜だった。

「自然なものにこだわっています」と言うのは、同店のディレクター大谷知帆さん

もともとデザイン事務所でデザイナーとして活躍していた大谷さん。その後、フリーランスで始めたお料理のケイタリングサービスが評判を呼び、いまもアパレルの展示会や企業の商品発表会、インテリア協会のカンファレンスなどにも提供し、同店運営のもうひとつの柱となっている。

お料理とデザインは似ていて、プレゼンテーションが80%!あとは、見た目のインパクトと食べたら美味しいという味とのバランスでしょうか。いつかは自分のカフェがやりたいな、と漠然と思っていましたが、どうしてもカフェがやりたいというよりは、食を軸に、人とモノ、ことなどがいろいろ交わっていく“ハブ”というか“場”になるといいなあと思っていたら、友人からこの物件を紹介され、2016年3月にオープンしました」(大谷さん)。
 
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ドイツの出版社「gestalten」の公認ライブラリーからは写真集やデザインブックが特価に!!!
実は同店が入っている「エチソウビル」は、最上部にレリーフや装飾が施されたレトロモダンなビルとして、建築デザイン関係者や一部のカルチャー系の人たちの間では知る人ぞ知る建物である。

1階には大衆居酒屋が派手な看板を掲げ、また周辺のビルの高層化やマンション建設などが進み、歩いている人はほとんどが気づかないほど埋もれてしまっていたところ、平成元年、上層階に入居していたグラフィックやパッケージなどのデザインを行なうクアトロプントス社が自室のセルフリノベーションを実施。その後、2002年に建築設計を行なうFARO DESIGNが加わり、エチソウビルのリノベーションを段階的に行なっている。

少しずつだが、同じような価値観を持つ人たちが集まりはじめ、このレトロで趣きのあるビルを有効活用しようと“ユルいコミュニティ”が育まれつつあるという。

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その“ユルいコミュニティ活動”のひとつとして、1年半前より当初は毎週、最近は月1回のペースで、金曜の夜に開催されているのが「本郷FRIDAY NIGHT MARKET」だ。2018年7月6日の第38回目を訪問した。なんと、今回に限らず、あえて出店料は取っていないというから驚く。

「わがままを言いたいがために出店料なしにしているんです。いろいろ出展希望者はいらっしゃるんですが、私なりにクォリティを求めたいのと、人ありきっていうんでしょうか。独自の世界観を持っている人、いわゆる趣味ではなく、プロフェッショナルとして何かクリエイティブなことをしようとしている人に限定しています」(大谷さん)。

そういう人との“出会い”を求めて、これまでも、朝早く営業してみたり、立ち飲みカウンターを作ってみたり、アパレルの展示会や音楽のライブ、ライブペインティング、浴衣パーティなど、戦略的、計画的ということとは無縁の自由な発想とタイミングでいろんなことをやってきて、いまのスタイルに落ち着いたのだそうだ。

また、店内に並ぶ本は、すべてドイツの出版社「gestalten」のもので、編集者兼日本支社を仕事をしている大谷さんの友人の関係から、同本社の公認ライブラリーになっているという。
 
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イベント終了後、閉店時間を過ぎてもユル〜っとおしゃべりは続く。。
「良くも悪くも、わたしたちは“文化バブル”の時代に青春を過ごしたので、いまもそういうシゲキなしには生きていけないような気がしますね(笑)」と言うのは、取材中に大谷さんが紹介してくれたフリーランスでいろいろな企業やブランドのMDやアートディレクターを手がけている霜田誠さん

「大谷さんとは、元々FARO DESIGNの住吉正文さんの友人の友人、という繋がりで知合ったんですが、カネカネしていない、っていうんでしょうか。それが良かったのかな(笑)」(霜田さん)。

大谷さんも霜田さんも、一般的には“失われた時代”といわれている90年代に青春を過ごしてきた、(広義の)団塊ジュニア世代だ。編集部では、不景気といわれた当時、団塊ジュニア世代がもたらした経済ではない“カルチャー資本”ともいうような価値観が、テン年代以降、再び見直されていると考察している。

霜田さんが指摘するように、お金が発生してしまうことで、楽しかったことがふつうに“仕事”になってしまい、いろんな制約が生じたり、ときには揉めごとになってしまうなど、これまでいろいろ経験してきたからこそ、いま、“フリー・カルチャー”とでもいうような自由を楽しむ関係や活動が気持ちいい、という価値観は充分理解することができる。
 

ところで、FCCでは日替わりのプレートランチの他、カレーやハンバーグといった一般的なカフェメニュー以外に、鯖サンドが定番メニューとしてある。

「たまたまトルコが好きだったんです。旅行記や旅に関するエッセイなどが好きでいろいろと読んだ中で、いちばん興味がそそられたのがトルコのものだったのです。父が定年後よく旅に行くのですが、トルコに行く際に同行したら、ヨーロッパとアジア、イスラム教とキリスト教、街と自然、地中海や黒海などさまざまなものが混在しミックスした感じにノックアウトされました。そして、何よりご飯が美味しくて! 日本の古い建物や明治大正あたりの和と洋がミックスした文化も大好きなので、そういう影響かな、と思います」(大谷さん)。

ランチは近隣で働く人たちや大学生が中心。外国人も少なくないが、一時期ほどではなくなったそうだ。週末は東大や近隣の施設で開催された学会や研究会などの打上げの利用も多いという。数は少ないが、モバイルワークやおしゃれな老夫婦など、年齢や国籍、職業は違っても、そこには共通する独特の雰囲気がありそうだ。

 
FCCのリノベーションを手がけたFARO DESIGNでは、文京区内の住宅や飲食店、事務所などのほか、ウェブサイトを拝見すると、惜しまれつつ閉店してしまった「ジャズ喫茶LOST & FOUND」や、山梨県に移転してしまった「café tojo(カフェ・トホ)」といった個性的な空間のデザイン設計を手がけている。さらによく見たら、ファッションブランドの「メルシーボークー」やデザイン事務所の「RCKT」建築家の遠藤治郎さんとコラボレーションした渋谷ライズビルの「ギャラリーX(エックス)」など、編集部/パルコとも深い関係のある方々とのお仕事もしていることがわかった(!)。

「オープンして2年間はほぼキッチンの中にいたんです。ここ数カ月でしょうか。カウンターの外に出られるようになったのは。いま、ようやく好きなことをやっていくぞー!という感じです」(大谷さん)。

取材終了後、大谷さんらのご好意で、出店されていた「タロット占い」をしてもらい、その的中具合に思いがけずドキドキ!

つねに“On Going”なFARO COFFEE & CATERING。7月13日(金)はケータリングのためランチのみの営業で、21日土曜日には「kirschbaum(キルシュバウム)」さんによる、ツキイチパン屋さんも開催。8月末には浴衣のイベントも開催予定だそうだ。

「今度、緑茶のイベントをやってみようかなあ、と思っています」と大谷さん。

実は、今回はお休みだったが、ナイトマーケットの常連出店者だった「NITCHA(ニッチャ)」が、FCCのスタッフに加わることになったのだという。全国の農園を回って、農家さんから直接仕入れていて、抹茶だけでなく日本茶の良さをもっと知って欲しい!という活動をしているNICHAさん。近い将来、代表の倉橋佳彦さん自ら、週に何度か直々にお茶を淹れてくれる日が設けられる予定だそう。

大谷さんを中心としたユルコミュニティは“On Going”に拡張している。

[取材/文:小寺はるか(東京大学大学院)+高野公三子(本誌編集長)]
 
FARO COFFEE & CATERING
〒113-0033
東京都文京区本郷2-39-7 エチソウビル204
03-6240-0287
平日11:00〜22:00
日・祝日11:00〜22:00 無休


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