2003.01.04
その他|OTHERS

PATRICK RYAN/吉田真実 インタビュー

「YAB-YUM(ヤブヤム)」デザイナー
PROFILE:パトリック・ライアン:1964年9月24日フランス生まれ。スコットランドのグラスゴー美術大学にてプリントテキスタイルとファインアートを専攻。同校卒業後、87年にセント・マーチン美術大学ロンドンのファッションデザイン科に進学し、吉田真実(1966年3月3日生まれ)と出会う。意気投合した2人は卒業後、89年、山本寛斎デザイン事務所への就職を機に揃って来日。日本のファッション・マーケットを学ぶ。
その後、独立し、93年に恵比寿にてファッションショー「HARMONIOUS DISCORD」を開催。翌94年には横浜バーニーズにて「OBJECTS OF DESIRE」というタイトルの展覧会を開催したり、六本木のクラブSPEAK EASYで開催された雑誌『JAP』のファッションショー「JAP NIGHT FASHION SHOW」に参加するなど、幅広い発表のスタイルで活躍し話題を呼ぶ。
95年、オリジナルブランド「YAB-YUM(ヤブヤム)」をスタート。同10月にはパリのサロン、ワークショップにてコレクションを発表する。1999年、東京・神宮前に一軒家を改造した旗艦店「YAB-YUM」をオープン。2002年秋冬からは、新しい若者世代たちに向けて新ブランド「DZO.KHOLA(ゾ・コーラ)」をスタート。恵比寿にショップをオープンする。

最初の出会い

日本に興味を持ったきっかけは、グラスゴー美術大学のライブラリーに所蔵されていた浮世絵や日本の古いテキスタイルなど日本のファインアートに触れてからだと思います。この大学は毎年自由なファッションショーが開催されることでも有名で、学校内だけでなく、イギリス中からいろんなアーティストが集まってきてはショーに参加する、そんなユニークなところでもありました。

もちろん、僕もなにか自分のオリジナルの衣装がつくりたかったので、その頃はパターンメイキングの知識などまるでなかったのですが、適当にテキスタイルを繋ぎ合わせて衣装をつくりショーに参加しました。

時代はまさに80sフィーリングです。誰もがそのショーのモデルになりたがりましたし、もちろんシンガーや女優になど積極的に参加していましたね。僕はもともと服が好きだったということもあるのですが、その時のファッションの奥の深さに興味を覚え、ファッションをきちんと勉強しようと思い、教授の勧めもあって、ロンドンのセント・マーチン美術大学のファッションデザイン科に進学しました。そして、そこで真実(パートナーの吉田真実さん)と出会ったんです。

パートナーとの出会い

実は真実は僕が初めて出会った日本人なんです。出会いはほんとうに偶然で、ある日、なにかの授業の時に僕の隣の席に真実が座ったんです。そのとき「どんな音楽が好きですか?」と彼女から話しかけられたのが最初でした。でも当時の彼女の英語力はぜんぜん低く、何を言っているのかよくわからなかった(笑)。でも、お互いにじっくりと話をするようになって、彼女を通して日本についての興味がさらに深くなったように思いますね。

彼女は小柄でどちらかというと地味な女性なのですが、なぜかいろんなおしゃれな人たちを惹き付ける魅力をもっていたんです。時代的にもコムデギャルソンとかヨウジヤマモトなどに代表されるジャポニズム全盛の80sだったということもあるかもしれません。セント・マーチンには真実の他にも数名の日本人が在学していましたが、みんな有名なミュージシャンの友達とかがいましたね。

セント・マーチンで得たもう1つの大きな出来事は、当時2人の日本人が立ち上げたブランドとの出会いです。1人はコウジタツノ。もう1人はユズルコウガというんですが、彼は今は雑誌『Pen』のロンドン在住エディターとして活躍していますが、彼の奥さんがなんとグラスゴー出身だったんです。そんな縁のようなものもあり、わたしたちは仲良くなり、アルバイトとして彼らのコレクションを手伝ったりもするようになりました。

お互いにホームパーティで招いたり、招かれたり。毎日国籍を越えたいろんな人たちとの輪が拡がっていきましたね。ライフスタイルも日本のフトンをフロアに敷いたりとカルチャー・ミックスなものになっていくのと同時に、日本への憧れも深まっていきました。

真実とはパートナーとしてもお互いに信頼していたので、いっしょに服づくりをするようになったのはごくごく自然の流れでした。卒業後は2人でいっしょに働けるアトリエを探したんですが、そんなところはなかなかありません。結局、パリやミラノの某アトリエからのオファーもありましたが、日本で2年間という契約条件を頂いた山本寛斎さんのアトリエにお世話になることに決めたのです。

「ボディコン」と「渋カジ」とが共存する日本のマーケットとの出会い

89年に憧れの日本に初めて足を踏み入れたのですが、これがものすごくショックでしたね。というのは、当時のロンドン・ファッションはとってもミニマムでストイックでとってもシンプルな方向に向かっていたのに、東京は男の子は「渋カジ」というとてもカッコいいファッションでしたが、女の子はなんだかエルメスのコピー模様の服にトサカのヘアスタイルにピンヒールの「ボディコン」スタイル! ものすごくアンバランスでしたよね。アライアとかティエリー・ミュグレー、モンタナなどの当時人気だったブランドは、ロンドンではSM系の人しか着ない服ですから(笑)。

でも、あとになってから気づいたんですが、趣味がいい悪いは別にして、日本の女性には、そういういろんなブランドをいっしょのステージに持ってきて独自のスタイルとして取り入れてしまうパワーがある。そして、実はそれが日本のファッション・マーケットを理解する上での重要なポイントだったりもするわけです。

自分たちのファンタジーって何だろう?

寛斎さんのところでの2年間はほんとうにいろんな勉強をさせてもらいました。契約満了後も、東京という街には留まりたかったので、いろいろな人の紹介でファッションの周辺のお仕事をしていました。ちょうど91年〜92年、93年と、東京のクラブカルチャー全体がとっても盛り上がっていたこともあって、いろんな人たちがある意味「出会い」を求めて集まっていたんだと思います。もちろんデザイナーになりたいと思っていましたので、将来の自分のブランドのスタンスをどんなふうにするのかを模索していたという感じでしょうか。

おかげで、いろんな人たちとのネットワークもでき、クラブでファッションショーを開いたり、バーニーズニューヨークで展示会を開催したり、と少しづつ自分たちらしい活動ができるようになっていきました。プレスの方々からの評判もよく、雑誌に掲載される機会も増え、そして95年、真実と僕は「YAB-YUM(ヤブヤム)」というブランドを立ち上げたのです。「YAB-YUM」とはネパール語で愛と同情、または男性と女性のエネルギーの和合を意味します。移り変わりの早い東京のファッション・マーケットの中で、どのようにして自分たちの「ファンタジー」をブランドの中で表現し続けるか。それがいちばん難しいですね。

僕は今の時代のトレンドは怪しいと思っているんです。

たとえば、その昔はブランドにはそれなりのスノッブな雰囲気があり、憧れではあってもなかなか触れることのできない独特のものがあったように思うのです。でも今は不景気なので、一般的に受けないとダメな時代になっている。洋服屋さんもブランドショップも売れることが最優先ですから、ブランドとしてのプライドも低くなってしまったし、スノッブさもファンタジーも失われてしまった。今の時代はブランドの価値がプライドとは別のところにあり、「消費するモノ」でしかなくなってしまったように感じますね。

でも、このところの高級なブランドが売れている現象だけを見ると、「消費全盛」の80年代と似ているように見えるかもしれませんが、根本的なところで違います。80年代は単純で純粋な派手さが求められていましたが、今のは地味なふりしている派手さ。ネガティブな感じがしますね。無理をしているというか不健康な派手さを感じます。

たとえば、最近の雑誌をみていると、ときどきスタイリストがトゥーマッチなスタイリングを提案してますよね。ファッショナブルではあるんですが、どこか不自然。僕はほんとうのオシャレはインパーフェクトなところにこそあると思うんです。ある人にとっては醜いかもしれないけど、ある人にとってはとってもファッショナブル。そんないろんな価値観がスタンダードにあってもいい時代じゃないかな、と思うのです。

98年ごろからでしょうか。それまでの価値観を壊して自分なりにオシャレをする時代だったと思うんです。でも、その時代も長く続いたので、もうなんでもかんでもアリの状態になってしまった。今はもう一度何がオシャレなのかを考えている時期なんです。次の時代に合う新しいミニマリズムが必要になっていると思いますね。

ですから、今の時代は怪しいと思っているので、ズルいかもしれないけど、マーケットのど真ん中よりちょっと離れたスタンスでいるのがちょうどいいかな、と思っています(笑)。

次の若者世代たち

YAB-YUMは7年め。ショーは14回やりました。昔は若い人でもYAB-YUMの持つファンタジーを気に入ってくれて値段的にも冒険して買ってくれていたんですが、最近の若い子たちはTシャツ文化の影響なのか、デザイナーズ系のブランドをあまり好まないですし、オリジナリティにもこだわらなくなっているような気がしますね。それよりも、安くていろんなトレンドのコピーがミックスしていてカッコイイものであれば満足、という風潮があるように思います。

昔は「オリーブ少女」というトライブがYAB-YUMのターゲットにもぴったりしていたんですが、今は『オリーブ』も『spring』もみんないっしょ。上品で若々しくて爽やかな人ってなかなか存在しない時代ですから、無理矢理ターゲットを若者にすることもありません。YAB-YUMはその独特の世界観を理解してくれる人だけに向けたブランドで、代わりに、若い世代に向けて「DZO KOHRA(ゾ・コーラ)」というブランドを立ち上げることで、きちんと分けることにしたんです。

といっても、今どきのトレンドをミックスしたようなブランドではありません。できれば、まだファッションとかトレンド情報とかには詳しくない、ピュアな若者たちに着て欲しいですね。若い世代だからこそ、もっともっと自分の価値観を見つめて洋服を選んで欲しいと思っています。だって、みんながみんなニセモノ・トレンディになることはないですからね(笑)。




YAB-YUM(ヤブヤム)
東京都渋谷区神宮前3-6-24
PHONE: 03-5775-2257


DZO KHOLA(ゾ・コーラ)
東京都渋谷区東3-20-9 1F
PHONE: 03-5778-0095


CROKEN TREE
東京都渋谷区東3-20-9 2F
PHONE: 03-5778-9620


同じタグの記事
2024_1018~ ストリートファッション1980-2020 定点観測40年の記録 アマゾンで購入 楽天ブックスで購入
YOOX.COM(ユークス)