いま、上海のファッションシーンが(いちばん)おもしろい!
レポート
2018.07.24
ファッション|FASHION

いま、上海のファッションシーンが(いちばん)おもしろい!

ショールームがまだまだ足りない!
勢いを増す、上海ファッションマーケット・レポート第2弾!

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ショールーム・シャンハイのようす。
「東京よりも勢いがあるらしい!」

そういう評判からか、今年の上海ファッションウィークは、デザイナーやバイヤー、ジャーナリストなどファッション業界に従事する日本人が多く訪れ、賑わっていた。

実際にファッションウィークが終わり、合同展示会に出展した日本人の若手デザイナーたちに振り返ってもらったところ、「すごく買ってくれた」、「中国での取扱いが決まった」など、具体的にかなりの手応えがあったという声も多かった。

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実は、中国では、この2、3年、上海、北京、香港に限らず、杭州や成都、南京など各地に国内外のブランドを扱うセレクトショップが増えている。

なかでも、上海は頭一つ抜けており、イタリア資本の「10 Corso Como(テンコルソコモ)」、香港資本の「I.T.(アイティー)」「Lane Crawford(レーン・クロフォード)」といった大手のセレクトショップをはじめ、中国の若手デザイナーをフィーチャーしている「LABELHOOD(レーベルフッド)」や日本のブランド(Yohji Yamamotoコム デ ギャルソンISSEY MIYAKEなど)のアーカイブ・コレクションが揃う「Autumn Sonata(オータム・ソナタ)」、国内外のファッションブランドを扱う、ライフスタイル・コンセプトショップ「ALTER(オルター)」など、話題のショップが続々登場し、定期的にウォッチングしたいスポットになっている。

また、百貨店を運営する上海百聯集団社も、昨年、大型のセレクトショップ「The Balancing(バランシング)」をオープン。今年の4月末には、中国のアパレル企業が運営するセレクトショップ「in the park」が上海のショッピングモール内にオープンし、彼らもまた、中国のデザイナーズブランドをメインで扱っていくという。ちなみに「in the park」は年内、上海市内に2号店めをオープンするというから、まだまだ勢いは止まらないようだ。

 
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モード・シャンハイ・ファッション・トレードショーのようす。

新しいセレクトショップがリアル店舗としてオープンする一方、中国の大手EC企業は、こぞってファッション業界に参入している。例えば、
今年2月のニューヨークファッションウィーク会期中、アメリカファッションデザイナー協議会(CFDA)が、アリババのオンラインショッピングモールである「天猫(Tmall)」とタッグを組み、中国デザイナーのブランドを集めたランウェイショーを開催したことは大きな話題になった。

こういったリアル店舗とオンライン両方が整備されていく状況は、中国のデザイナーたちはもちろんのこと、中国以外の若手デザイナーたちにとってもビジネスチャンスといえる。

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モード・シャンハイ・ファッション・トレードショーのようす。

そんなデザイナーとバイヤーのビジネスの出会いの場となっているのが、いわゆる「合同展示会」(海外では「トレードショー」という)である。デザイナー自らが出展したり、ブランドを運営する企業や代理店がブースを設けたりする「合同展示会」のスタイルに加えて、複数のブランドを扱うPR会社や、セールスも行なうエージェンシーなどが主催する「ショールーム」というスタイルもある。

筆者が今年4月に取材した際には、上海ファッションウィークの運営団体が公認する合同展示会(トレードショー)とショールームが合計7つあった。その中から、主に「モード・シャンハイ」「ノット・ショールーム」の2つを紹介したい


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モード・シャンハイ・トレードショーのようす。
上海最大のトレードショー「モード・シャンハイ」

「モード・シャンハイ」(正式名称は「上海服装服饰展 MODE Shanghai Fashion Trade Show モード・シャンハイ・ファッション・トレードショー」は、今シーズン8回目の開催で、総面積30,000平米と圧倒的な規模を誇っている。知名度、会場へのアクセスの良さなどから、国内外のブランドの出展者数がもっとも多い合同展示会のひとつである。日本国内では、ここ何回か日本の若手ブランドが多く出展していることもあり、話題となったので、名前を聞いたことがある人も少なくないだろう。

参加ブランド数は約500。4日間の会期中に集まったのは約8,000人にも及び、その半数がバイヤーやエージェントだった。過去にはロサンゼルスのセレクトショップ「H.LORENZO」ニューヨークにメインストアのあるセレクトショップ「OPENING CEREMONY」のバイヤーやオーナーも来場したこともあり、今回は、バーニーズ・ニューヨークのアシスタント・ディレクターや『ヴォーグ・イタリア』副編集長『ヴォーグ・アメリカ』のメンズ・ディレクターなども来ていたそうだ。

今シーズン、「モード・シャンハイ」で約1,000平米と最も広いスペースを占めていたのが、イタリアのショールーム「Showroom IGFD」だ。既に中国の長沙(ちょうさ)、武漢(ぶかん)や貴陽(きよう)の百貨店と取引がある同ショールームである。同ショールームの数ある取り扱いブランドの中でもフランスのバッグのブランドである「Cote&Ciel(コートエシエル)」は、4日間で約200万ユーロ(約2億6,000万円)の取引があったというから驚く。
 
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セレクトショップ「LABELHOOD」の展示スペースで開催されたチャイナドレスをテーマにした展示。
 
まだまだ足りない上海のショールーム

「Not Showroom(ノット ショールーム)(以下、ノット)」「TUBE Showroom(チューブ ショールーム)」は、いずれも、中国出身または中国を拠点に活動しているデザイナーのブランドをメインに取り扱っている。

2016年に設立された「ノット」は、まだ4シーズンしか経っていないが、国内外で話題の中国のデザイナーズ・ブランドを多く抱えている点で定評がある。本連載記事のvol.1でも紹介した「プロナウンス」「サミュエル・グイ・ヤン」も毎シーズン、この「ノット」のバイヤーからのオーダーを受けている。

先述したように、ショールームは、合同展示会とは異なり、専門のセールススタッフがいて、より具体的にビジネスを推奨するのが特徴だ。彼・彼女らは、終日バイヤーとブランドの間を繋ぐために動くので、各ブランドやデザイナーの負担がずいぶん軽くなる。

「ノット」はバイヤーに対して事前アポイント制を推奨しているため、ショールームの現場での混乱も少なく、バイヤーが落ち着いてゆっくりと商品を試着したり、デザイナーと会話をしたりするなど、丁寧な折衝ができるのが魅力だ。現時点で、「ノット」は国内外600を超える取引先がある。

また、ショールーム側は、基本的に来場予定のあるバイヤーには、事前に担当するショップの資料等を提出してもらうよう働きかけており、たとえば「ノット」では、それぞれのショップとブランドが合うかどうかなどの検討や調整も行なっており、ブランドを推奨するケースもあるという。

このように、上海でのビジネス展開を目論む国内外のブランドが増加傾向にある一方、ショールームの数は増えていないため、マッチングの場と機会が恒常的に不足しているのが現状だ。水面下では、上海にショールームを設立しようとする海外ショールームの動きもあるようだが、実現には、中国各地のセレクトショップや百貨店との長期の取引関係のみならず、ファッション関係のメディアなどとの良好なコミュニケーションが取れるかが鍵となるだろう。
 
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セレクトショップ「LABELHOOD」の展示スペースで開催されたチャイナドレスをテーマにした展示。

 要注目の中国のセレクトショップ

最後に、いま最も注目すべきセレクトショップである、上海の「LABELHOOD」を紹介したい。

本連載記事のvol.1で、若手ブランドに発表の場を与えるファッション・フェスティバル「LABELHOOD」の共同経営者でディレクターの劉馨遐(Tasha Liu/リウ・シンシャー)さんを紹介したが、このフェスティバルと同名のセレクトショップも彼女がオーナーである。

もともと、リウさんは、「长作栋梁(Changzuo Dongliang)」というセレクトショップを運営していたが、今年、店名を「LABELHOOD」に変更した。

このセレクトショップ設立の経緯について簡単に説明すると、2009年、リウさんは、共同経営者と共に中国のデザイナーズブランドをメインで扱うセレクトショップ「长作栋梁(Changzuo Dongliang)」を北京に設立。最初は30平米にも満たない小さなスペースだった。しかし、その2年後の2011年には、上海の1号店として、上海静安地区に約230平米という広さの店舗をオープン。国内外から注目されるショップへと発展させていった。

その後2015年、上海1号店の近くに2店舗目となるショップをメンズに絞り、約300平米の規模でオープンした。そして、今年に入り、メンズとウィメンズを1店舗にまとめ、もう1つのショップをプロジェクトベースで開催するギャラリーショップとして活用することにした。

このギャラリーショップは、上海ファッションウィークの会期に合わせ、『春華秋實』と題するオープニング・エキシビションを行った。これは、チャイナドレスをテーマにした展示であり、海外からの関係者や旅行者が多く訪れていた。リウさんは、「面白いことに、2018SSは、偶然中国のブランドの多くがチャイナドレスのエッセンスを取り入れたデザインを発表していました。これからも、私たちにしか見せられない「東洋」をテーマにした展示を見せていけたらと思っている。」と、新たなスタートに希望を込めて語ってくれた。
 
 
日本のデザイナーズブランドは、中国でどこまで受け入れられるか?

今回の取材で見えてきた中国ファッションマーケットの現状は、①人とは違うデザイン性の強いファッションを求める中国の消費者が増えており、その需要に応えるようにセレクトショップやECも急増していること、そして、②巨大なトレードショーがバイヤーとブランドとの橋渡しを精力的に行っているというこがあげられる。

他方、トレードショーだけでなく、バイヤーとブランドとの細やかなコミュニケーションを可能とする場であるショールームが、まだまだその数や、それぞれのキャパシティが不足している状況も確認された。

そういったことをふまえ、中国ファッションマーケットの特徴として考えておくべき点は、3つあるといえるだろう。

第1に、中国の若者のファッションに対する需要、そのマーケットのポテンシャルは、当然のことながら、経済動向に左右されるということだ。

以前インタビューをしたある中国人デザイナーが言った一言を思い出される。彼は、2005年に自分のブランドを立ち上げ、中国のデザイナーズ・ブランドの先駆けとして今でも精力的に活動を続けている。

「ここ20年、中国経済は比較的順調に上り調子だった。それに伴い、消費者も服やバッグなどにもお金を投じるようになった。ただ、2、3年前に経済が落ち込んだ時、百貨店がダメージを受けたことから、今後、中国のファッションシーンは経済の動向に左右される可能性はもちろんある」。

第2に、中国のファッションシーンは、日本や韓国がそうであったように、海外留学からの“帰国組”の若手デザイナーが中心となって牽引している現状があり、顧客である中国の若者も、海外有名ブランドだけでなく、自国のデザイナーズ・ブランドを支持するようになりつつあるという点だ。

中国のデザイナーズ・ブランドを強く打ち出すセレクトショップが増えているのも、このことが背景にある。“中国ファッションの情報発信基地”である上海の動向を、中国各都市が追随するという流れが確実にできており、今後、ますますセレクトショップやECを通じて、ファッションを楽しむ若者の裾野が広がっていることは充分予想される。

先述した中国人デザイナーは、「彼らが先陣をきって中国のファッション界を引っ張っていく傾向は今後も続くだろう。中国ファッションの未来は、比較的明るいと言えるのでは」と、期待も込めて語ってくれた。

こういった状況の下、日本のデザイナーズブランドが受け入れられる可能性はどのあたりにあるのだろうか?言い換えると、中国のデザイナーズブランドも楽しむようになってきた今どきの中国の若者たちに対して、日本のデザイナーズブランドがどのようにリーチしていくか、という課題として整理できるだろう。

この課題は、中国ファッションマーケットの第3の特徴である、「ショールームの不足」が大きく関わってくる。

残念ながら、日本のデザイナーズブランドは、中国の若者はもちろんのこと、中国のセレクトショップや百貨店、EC等のバイヤーにそれほど知られていないため、各ショップでのバイイングが慎重になっているという現状がある。これを解決するには、これまで以上に、日本のデザイナーズブランドと中国のバイヤーとの間できめ細やかなマッチングが行なえる「ショールーム(的な機能)」が急務といえる。

同時に、日本のデザイナーズブランドも、トレードショーへの参加に加え、各ショールームに対して自らブランドをアピールし、よりよい協力が得られるよう積極的なコミュニケーションをはかっていくことも重要だろう。

[取材/撮影:小山ひとみ、文:小山ひとみ+「ACROSS」編集部]
 


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