“激安の殿堂”で親しまれ全国に160店を展開する小売店「ドン・キホーテ」(運営元:株式会社ドン・キホーテ)。同社が初めて手掛けたオリジナルのファストファッションブランド「TOKYO COVER GIRL(東京カヴァーガール)」が、2009年12月に販売を開始している。12月発売の15体×各800着は1カ月でほぼ完売。予想以上の反響に、スタート時に80店舗だった取扱い店舗は150店舗までに増えているという。
ファストファッションブランド「TOKYO COVER GIRL」の特徴は、トップスからボトムス、アクセサリーまでの旬なアイテム3点をセットで販売していることだ。ファッション誌の表紙をイメージしたパッケージを飾るのは、実際の商品を着用した読者モデル。商品1セットを手に取れば、表紙を飾るモデルと全く同じコーディネートが完成する仕組みである。
2009年11月のテスト販売以降、毎月約10種類が発売され、価格は1セット各3,890円。例えば、Vol.75は、カンカン帽+ネックレス+フリルをあしらったドット柄のロンパース、Vol.77は、ハット+ベルト+レース風ワンピースといった具合だ。モデルには、『JELLY』(ぶんか社)『Happy nuts』(株式会社インフォレスト)等の現役読者モデルや女子大生等を起用した。
ブランドの立ち上げ・コンセプトづくりから、現在は企画、デザイン、MDまでを一手に手掛けるのは、同社営業本部第六事業部 PBプランナーの扇子大介さん(41歳)。扇子さんは服飾専門学校在学中に『オンワードファッショングランプリ』等、数々の賞を受賞したことをきっかけに卒業後に渡仏。帰国後、「ISSEY MIYAKE(イッセイミヤケ)」のデザイナーに就任した。その後独立してからは、自身のブランド「a.m.o.u(アモウ)」を立ち上げると共に、歌手のCHARAさんやUAさん、武田真治さん等の衣装制作、スタイリスト業も平行してスタートした。なんと、あのマイケル・ジャクソンさんにも衣装提供をしたことがあるという経歴の持ち主だ。その後、セレクトショップ「TRANS CONTINENTS(トランスコンチネンツ)」のトータルディレクターを務めるなど幅広いフィールドで活躍し、2009年6月にドン・キホーテに入社した。きっかけは、同社がオリジナルのアパレル事業を“衣料”ではなく“ファッション”として強化するという事業戦略に、時代性や興味を感じたからという。
「時代は、ファストファッション最盛期。ですが、国内のデザイナーは、ファストファッションをデザインすることにまだまだ抵抗がある。そんなデザイナーたちの入口となるような成功事例をつくりたいと考えて名乗りを上げました。しかし、ドン・キホーテが他ブランドの模倣をしても勝ち目がない。チャレンジャーとして何ができるかを考えた結果、“誰”に“どんなシーンで着てほしいか”を明確にパッケージ化して打ち出す、コンセプト重視のファストファッションに辿りついたんです」(扇子さん)。
テーマは、「生鮮ファッション」。例えばレギンスからトレンカへなど、街のトレンドの移り変わりは繊細でとてもスピーディー。そんなトレンドの変化をいち早く商品に反映させるべく、「TOKYO COVER GIRL」では企画から店頭に並ぶまで最長でも1カ月半とし、「今欲しい!」と思えるアイテムの投入にこだわり抜いた。ファッションテイストを「渋谷109」に代表されるギャル系ファッションに絞ったのは、「ドン・キホーテ」の来客層に最も近いから。109に代わり、地方にも多くの店舗を持つ「ドン・キホーテ」の強みを活かして発信する。
「我々に与えられた時間は3秒しかないと思っています。お客様が3秒で欲しいと思われなければ、買っていただけない。ですから店員が口頭で説明するよりも、雑誌のように身近な言葉を使ったPOPの方がわかりやすく、伝わると考えました。また、単品だと迷ってしまうでしょうから、コーディネートをパッケージ化して提案したんです」(扇子さん)。
コアターゲットは20代に設定した。実際の購買者層は、高校生を中心に20代前半が多いという。高校生からは特に、手軽に憧れの109の店員のような雰囲気になれることや、ワードローブが一度に3点増やせることなどが支持されているようだ。地方のベッドタウンに多くある「MEGAドン・キホーテ」各店では、ギャルママ誌『I LOVE mama』(インフォレスト株式会社)の読者のような子連れ層が多いという。また、ファッション初心者や、109には入り辛いというような40代の需要もあるという。
「今後もターゲット層が、“どこで何をしたいのか”を考えることで、水着や浴衣などさまざまなパッケージや、アイテム数を変化させたものが生まれるかもしれない。今は昔と違ってデザイナーがスポットライトを浴びる時代ではありません。ですから、ターゲットの中にどんなニーズがあるのかを考え、明確にカタチにしていきたいと考えています」(扇子さん)。
旬のアイテムを3点セットで3,890円という価格実現には、中国支店や現地工場とのパイプを強固にしたり、全社の貿易やキャッシュフロー等の仕組みを見直したりするなどして、まずは良いものを安く提供するためのインフラづくりを徹底したそうだ。また、認知度を高めるために、立ち上げ前から広報部とタッグを組み、専用サイトを作り、渋谷系フリーペーパー『SG』でブランド名を公募するなど、社内で初めての取組みも行った。
ファストファッションの台頭で、安かろう悪かろうというイメージも無くなり、消費者は安さとスピードに慣れてきている。同ブランドがコーディネートをパッケージ化したように、消費者に選ばれるためには、ファストファッションにもさらなる仕掛けや個性など“明確なコンセプト”が必要な段階に突入しているといえるだろう。
また同社では10年5月には、プライベートブランドの新シリーズ「+情熱(プラス・パッション)」第1弾として、「メンズスタイリッシュスーツ」を税込4,900円で発売。年間目標1万着のところ発売2ヶ月で早くも4,000着の販売を達成し、予想を上回る反響だという。同社では今後も自社開発商品に積極的に取り組んでいく。
〔取材・文:緒方麻希子/フリーライター〕